第23話 盗まれる叡智
夜の学院。
静寂を切り裂くように、窓が小さく開いた。
黒装束の影が滑り込む。
――ヴァルトリア連邦のスパイだ。
目標は一つ。
魔道制御端末の奪取。
「……反応あり。」
俺はベッドから飛び起きた。
《サーモ・センサー》が感知――侵入者一名、研究室側。
《オーディン》を手に取り、即座にページを切り替える。
防御モジュール、展開。
「侵入者だ!」
リシェルも飛び起き、杖を構える。
「ユリウス、エリシア、ダリオを起こして!」
研究室の扉が破られると同時に、侵入者のナイフが飛んできた。
だが――
「《オーディン》、防御陣起動!」
青白い半透明の障壁が瞬時に展開され、ナイフを弾き返す。
侵入者は即座に後退しようとするが、俺は術式を連続起動。
「収束型!」
閃光が炸裂し、奴の視界を奪う。
「逃がすな!」
ダリオが大剣を構えて突撃するが、侵入者は煙幕を張り、その隙に姿を消した。
煙が晴れると――研究室の奥、収納庫が破られていた。
「……やられた。」
俺は走り寄り、中を確認する。
奪われたのは――《オーディン》の補助回路データが収められた試作パーツ。
リシェルが険しい顔で言う。
「間違いなく連邦のスパイね。」
「レン、どうする?」
ユリウスが問う。
「《オーディン》を強化する。」
俺は端末を机に置き、ページを開いた。
「これまでの防御陣は簡易的だった。
だが――侵入者の魔力パターンを解析して、自動迎撃機能を追加する。
侵入者が一歩でも研究室に入れば、術式が即座に逆位相の魔力波で拘束する。」
「……研究室そのものをトラップ化するってこと?」
リシェルが目を細める。
「そうだ。」
俺は頷く。
「叡智を盗もうとするなら、命がけで来い。」
《錬滅新星》、そして《オーディン》。
それはもう王国だけの技術じゃない。
国境を越えて狙われる“力”になっていた。
「……面白くなってきたな。」
俺は新たな回路を書き込みながら呟く。
――この戦場で、科学がどこまで通用するか見せてやる。




