第22話 国境を越える交渉
王立学院の迎賓館。
そこに並んでいたのは、異国の豪奢な装束を纏った一団だった。
「初めまして。ヴァルトリア連邦特使、リヒト・ファルクナーと申します。」
金髪の青年が深々と一礼した。
その瞳は笑っているのに、氷のように冷たかった。
「レン・カミシロです。」
俺も形式的に礼を返す。
――ヴァルクスが裏で接触していたのは、こいつらか。
「あなたの《錬滅新星》、そして《オーディン》。
ぜひ我々にもその叡智を分けていただきたい。」
リヒトが柔らかい口調で切り出した。
「分ける?」
俺は眉をひそめた。
「もちろん、正式な技術協定という形でです。」
リヒトは笑みを崩さない。
「互いに知を交換すれば、我々の国も、あなた方の国も豊かになるでしょう。」
リシェルが耳打ちしてきた。
「……警戒した方がいいわ。
連邦は表向き友好国だけど、裏では研究者の“引き抜き”やスパイ行為で有名よ。」
「一つ質問だ。」
俺は声を低めた。
「お前らの背後にヴァルクスがいるな?」
リヒトの笑みが一瞬だけ止まった。
だがすぐに取り繕い、肩をすくめる。
「噂は早いですね。」
――図星か。
「安心してください。
我々は敵ではない。」
リヒトは涼しい顔で続ける。
「ただ、あなたの知識を“正しい方法で”活用したいだけだ。」
――正しい方法、ね。
要するに、俺を自分たちの陣営に引き込みたいってことか。
交渉の場に、監査官トウドウが現れた。
「おや、楽しそうな話をしてますね。」
リヒトが目を細める。
「これはこれは……監査官殿。」
「レンは王国顧問です。
国外勢力との直接的な技術協定は、陛下の許可なしでは不可能ですよ。」
トウドウの声音は冷たかった。
リヒトは苦笑し、一歩引く。
「なるほど、今日は顔合わせ程度にしておきましょう。」
――交渉は保留。
だがこいつらは諦めていない。
帰り際、リヒトが小声で囁いた。
「科学は国境を越える。
もし今の立場が窮屈なら、連邦はいつでもあなたを歓迎しますよ。」
そう言い残し、彼らは去っていった。
「……厄介な連中ね。」
リシェルが腕を組む。
「だが、これでわかった。」
俺は《オーディン》を開き、ページをめくる。
「もう戦場は学院や王国だけじゃない。
国境を越えた場所で、科学を証明しなきゃならない。」
《錬滅新星》と《オーディン》。
これらはもう一国の技術じゃなく、世界が狙う“力”だ。
「――なら、さらに先に進むだけだ。」




