第21話 国を越える影
王立魔導軍での実演から三日。
俺の名は、王都中に知れ渡っていた。
「制御された《錬滅新星》を使いこなす魔術師」
「異端の科学魔導師」
「叡智の神を携えし者」
――呼び名は好き勝手だが、確かに俺は一目置かれる存在になった。
「レンさん、王立評議会からの書状です!」
ユリウスが駆け込んでくる。
開封すると、こう書かれていた。
「王立魔導顧問としての就任要請」
「……顧問?」
リシェルが驚く。
「つまり、王国直属の魔導研究者ってことよ。」
「昇進みたいなもんか!」
ダリオが笑う。
俺は黙って手紙を見つめた。
――これは栄誉だが、同時に枷でもある。
王国直属ということは、政治に巻き込まれるということだ。
「嬉しくなさそうですね。」
背後から声がした。振り向くと、トウドウが立っていた。
「……お前か。」
「顧問就任、おめでとうございます。」
淡々と告げながらも、目は俺を試すようだった。
「だが気をつけてください。
王国の顧問になるということは、自由を失うということでもあります。
あなたの研究は、もう“国のためのもの”になる。」
「それでもやるさ。」
俺は《オーディン》を手に取った。
「科学の力は、権力者の道具じゃない。
俺が顧問になるのは、そのための牽制でもある。」
トウドウが少しだけ笑った。
「……なるほど。あなたらしい。」
その夜。
王都のとある邸宅で、ヴァルクスは一人の異国の男と会っていた。
「話は聞いている。」
男はフードを外し、冷ややかな金色の瞳を見せた。
「君の言う“科学魔導師”とやら、興味深い。」
「協力していただけますかな?」
ヴァルクスが恭しく頭を下げる。
「もちろん。」
男は唇を歪めた。
「我が国の“研究資源”を提供しよう。
その代わり――その力、こちらのために使ってもらう。」
ヴァルクスの瞳に暗い野心が宿る。
――国境を越えた陰謀が動き出した。
研究室に戻ると、リシェルが報告を持ってきた。
「レン、海外からの使節団が来るそうよ。
あなたの研究に興味があるらしいわ。」
「……もう国外からも?」
《錬滅新星》、そして《オーディン》。
俺が作り出したものは、国の枠を超えて波紋を広げ始めていた。
「いいだろう。」
俺はページを開き、新たな術式を描き始めた。
「なら、もっと先に進むだけだ。
誰にも奪わせないためにな。」




