第20話 叡智の神、その真価
王都・王立魔導軍演習場。
広大な闘技場に、貴族や軍上層部、学院の教授陣までもが集まっていた。
――今日、俺はこの場で生き残らなければならない。
「レン・カミシロ。」
軍監察官が声を張る。
「前回の公聴会で貴様は、収束型《錬滅新星》が制御可能であると証言した。
今からその真偽を確認する。」
「任せてくれ。」
俺はゆっくりと前へ進む。
観客席の一角で、ヴァルクスが冷ややかな笑みを浮かべていた。
「さあ……やってみろ。お前の安定装置はもう壊れているはずだ。」
――やはり仕掛けてきたか。
襲撃のとき、コアの補助回路に手を入れられたのはわかっていた。
だが、修復だけで終わらせるつもりはなかった。
――今日は、《オーディン》の真価を見せる。
「準備はいいか?」
軍監察官が合図する。
「問題ない。」
俺は胸に抱えた**魔道制御端末**を開き、術式ページを展開した。
金属導体が淡く光り、魔力が回路を駆け巡る。
「ページ切り替え、術式パターン……第七モジュール起動。」
呟きとともに、回路が複雑な収束波形を形成していく。
――仮想回路じゃない。
物質回路による“研究室の縮小版”。
ここに俺のすべてを収束する。
「Fe + O₂ → Fe₂O₃……
Mg + O₂ → MgO……
燃焼、酸化、崩壊――一点に収束し、全てを穿つ。」
「《錬滅新星》!」
杖先ではなく、《オーディン》を介して発動した術式が空中に巨大な多重魔法陣を描き出す。
光は細く、鋭く――極細の閃光が放たれた瞬間、標的の分厚い城壁が一瞬で融解した。
観客席から息を呑む音が漏れる。
――周囲の建造物や兵士は無傷。
破壊されたのは、狙った一点だけ。
そのとき――。
ゴウッ!
魔力の乱流が走り、陣が大きく揺れた。
「妨害魔法だ!」
リシェルの叫び。
ヴァルクスが数名の協力者とともに干渉術を仕掛けてきたのだ。
――だが、想定済みだ。
「オーディン、補正値を逆位相に切り替えろ!」
ページが自動で切り替わり、回路が干渉波を吸収して安定化。
術式が収束し、暴発の兆候は完全に消えた。
光が消え、標的の城壁は穴だけを残して崩れ落ちた。
周囲は一切の被害なし。
沈黙。
やがて、軍監察官が声を上げた。
「……制御成功。
《錬滅新星》は兵器ではなく、精密制御可能な術式であると認める!」
場内がどよめき、歓声が上がる。
トウドウが観客席でわずかに笑った。
ヴァルクスの表情は凍りついていた。
《オーディン》を閉じ、俺は深く息を吐いた。
「……やっと証明できたな。」
叡智の神の名を冠した端末――
これが俺の頭脳の延長であり、この世界で戦うための力だ。
――科学は、神秘を超える。




