第17話 王都の影
公開実験の成功から数日。
俺の名は学院内外で一気に広まった。
「制御された《錬滅新星》……!」
「異端どころか、もはや学院の象徴じゃないか?」
廊下で耳にする噂話は、どれも俺を“異端者”ではなく**“革新者”**として語っていた。
だが――その視線の中には、妬みと警戒も混じっていた。
研究室に戻ると、リシェルが手紙を差し出した。
「レン。王都からよ。」
開封すると、王立評議会からの召喚状だった。
「……王都での公聴会?」
「おそらく、《錬滅新星》の今後の扱いを協議する場ね。」
リシェルが冷静に言う。
「良くも悪くも、あなたの研究が“国家レベル”の話題になったってこと。」
ユリウスが不安げに問う。
「それって……危ないんじゃ?」
――ああ、わかってる。
これはヴァルクスの仕掛けだ。
同じ頃、王都の一室。
ヴァルクスはひざまずき、一人の壮年の貴族に頭を下げていた。
「侯爵閣下。例の異端者は、制御こそ成功させましたが……本質は危険なままです。」
「……ふむ。」
侯爵は金細工の杖を指先で弄びながら答える。
「つまり、“国家管理”が必要ということだな?」
「はい。あの力は学院の枠を超えています。
陛下に進言いただければ、王立監査の権限で研究を完全に掌握できるでしょう。」
「よかろう。学院のことは君に任せる。」
ヴァルクスは薄ら笑いを浮かべた。
――これであの小僧の研究は、私の掌の中だ。
その夜、研究室を訪れたトウドウが小声で告げた。
「レンさん、王都公聴会……行くべきじゃない。」
「……どういうことだ?」
「ヴァルクスが動いている。あなたの研究を“国家管理”に移そうとしてるんですよ。
もしそうなれば、あなたは研究者ではなく――兵器開発者として国に縛られる。」
胸の奥が冷えた。
「……だからって逃げるわけにはいかない。」
俺は答えた。
「科学は人のためのものだ。兵器じゃないってこと、王都でも証明する。」
トウドウは深い溜息をついた。
「……そう来ますか。だからあなたは危うい。」
夜の研究室で、俺は新たな術式を書き込んでいた。
《錬滅新星》の次段階――進化型の構想。
もし王都での公聴会が“処刑場”になるなら、
そこで見せるのは恐怖じゃない。
――未来だ。
「待ってろよ、ヴァルクス。」
俺は呟いた。
「今度は、お前の“政治”ごとひっくり返す。」




