第16話 公開実験と暗躍
査察官、藤堂志朗――いや、トウドウが去った翌日。
研究室は緊張した空気に包まれていた。
「レンさん、本当にやるんですか?」
ユリウスが心配そうに問う。
「ああ。」
俺は迷わず答えた。
「《錬滅新星》は兵器じゃない。魔法の進化だ。
それを証明するには――公開実験しかない。」
「でも、もし失敗したら……」
エリシアが不安げに視線を落とす。
「失敗は許されないわね。」
リシェルが代わりに言った。
「王都も学院も、あなたの首を取りにくるわ。」
俺は頷いた。
「だからこそ成功させる。安全で制御できる《錬滅新星》を。」
同じ頃、教授会議室。
ヴァルクスは冷ややかな笑みを浮かべていた。
「公開実験だと? 面白い。自分の首を差し出してくれるらしい。」
「妨害なさるおつもりで?」
側近の教授が問う。
「妨害ではない――真実を明らかにするだけだ。
あの異端の魔法がいかに危険か、学院全体に知らしめてやる。」
学院中庭。
即席の実験場が設営され、教授陣や学生、監査官トウドウまでもが見守る中、俺は立っていた。
「レン・カミシロ。」
トウドウが声をかける。
「本当にやるんですね。」
「ああ。」
俺は答える。
「安全に制御できる錬滅新星を見せる。
それができれば、兵器扱いする理由はなくなるはずだ。」
杖を構え、詠唱を始める。
「Fe + O₂ → Fe₂O₃……
Mg + O₂ → MgO……
燃焼、酸化、崩壊――全てを収束し、星と為す――」
「《錬滅新星》!」
多重魔法陣が展開され、白い閃光が広がる。
爆発的な反応――だが前回と違い、魔力障壁で完全に制御された光と熱が実験場に収まっていた。
観客席がざわめく。
「……これが、制御された錬滅新星?」
「すごい……!」
その時――。
ゴウッ!
魔力の乱流が実験場を襲った。
俺の魔力障壁が軋む。
「何だ!?」
観客席から、ヴァルクスが立ち上がっていた。
「――それが“安全”か? ならば、外部からの干渉にも耐えてみせろ!」
妨害魔法。
複数の教授が一斉に術式を叩き込み、障壁を揺さぶる。
「っ……くそっ!」
崩れかける障壁。
制御が乱れれば、再び暴走する――!
リシェルが叫ぶ。
「レン! 術式を再構築して!」
「言われなくても!」
俺は即座に術式を書き換え、干渉波を逆位相で打ち消す補助回路を追加。
「――安定化!」
閃光が収束し、障壁が強化される。
ヴァルクスが顔をしかめた。
光が消え、実験場は無傷で残っていた。
審判役の教授が声を上げる。
「……制御成功。錬滅新星は安全な術式として認められる!」
歓声が上がる。
ユリウスたちが飛び跳ね、エリシアが涙ぐむ。
トウドウが近づき、低い声で言った。
「……驚きましたよ、レンさん。
あなた、ほんとうに“こっちの世界を変える気”なんですね。」
俺は笑った。
「変えるさ。科学の力でな。」




