第13話 《アルケミック・ノヴァ》
闘技場は炎と熱風に包まれていた。
グレイの召喚した炎の巨人が、俺とリシェルを追い詰めている。
「終わりだ、異端者!」
グレイが勝ち誇ったように叫ぶ。
観客席からも嘲笑が漏れる。
――そうだろうな。
普通の魔法なら、ここで詰む。
だが、俺は杖を握り直した。
「……なら、普通じゃない魔法を見せてやる。」
俺は深く息を吸い、詠唱を開始する。
科学と魔術の融合――実験段階の暴走術式。
「Fe + O₂ → Fe₂O₃……
Mg + O₂ → MgO……
Na + Cl₂ → NaCl……」
意味不明な言葉の羅列に、観客席がざわめく。
「な、何を唱えている……?」
「術式詠唱じゃない……実験みたいだ……!」
リシェルが目を見開いた。
「レン、それって……!」
「――ああ、俺の切り札だ。」
杖の先から複雑な多重魔法陣が展開される。
一つは酸素濃縮、一つは金属粒子抽出、もう一つは魔力核の圧縮。
それらが連鎖し、巨大な術式構造を形成していく。
「燃焼、酸化、崩壊――」
詠唱が最終段階に至る。
観客が息を呑む。
ヴァルクス教授でさえ、わずかに眉をひそめていた。
「――錬滅新星!」
瞬間、世界が白に染まった。
酸素と金属粒子の強制収束による超高温の連鎖反応。
魔力を媒介とした錬金的爆縮。
新星のような閃光が闘技場を飲み込み、轟音と共に衝撃波が弾けた。
観客席まで振動が伝わり、悲鳴が上がる。
グレイはとっさに防御結界を張る。
「そんな小細工で――」
バキィッ!
音を立てて障壁が砕けた。
爆風に呑まれ、グレイは吹き飛ばされる。
意識を失い、闘技場に崩れ落ちた。
――沈黙。
審判が震える声で告げる。
「勝者……レン・カミシロ、リシェル・ヴァルディア組!」
「な、何だ今のは……」
「魔法……なのか……?」
観客の誰もが言葉を失っていた。
ヴァルクス教授が立ち上がり、こちらを睨みつける。
だが俺は、勝ち誇るでもなく静かに杖を下ろした。
――これが、科学と魔術の融合だ。
リシェルが隣で肩で息をしている。
「……やりすぎよ、レン。」
「まあな。でも、これで連中も黙るだろ。」
俺は観客席を一瞥する。
恐怖と好奇心が入り混じった視線がこちらを向いていた。
異端――だが、その異端が結果を出した。




