第11話 科学魔法研究室、始動
討論会の翌日。
学院内は噂で持ちきりだった。
「昨日の討論、見たか?」
「レンって奴、ヴァルクス教授に真っ向から言い返したらしい!」
「神秘を否定した異端者だってさ……」
――異端。
その呼び名が俺の代名詞になったらしい。
だが、俺にとっては好都合だ。
異端なら異端らしく、やりたいことをやるだけだ。
「で、本当に作るの?」
リシェルが腕を組み、俺を見下ろす。
「もちろんだ。科学魔法の研究室をな。」
学院の一角、空き部屋だった小さな実験室。
俺は机を並べ、石板や測定用魔具を持ち込んで簡易の研究拠点を整えていた。
「ここを拠点に、魔法を分解・再構築する。
賛同者も集める。ひとりじゃできないからな。」
リシェルがため息をつきながらも、興味深そうに机の上の装置を眺める。
「あなた、ほんと変わってるわ。でも……いいわ。私も協力する。」
「学院首席のお墨付き、ありがたいな。」
噂を聞きつけて、三人の学生が研究室の扉を叩いた。
「レンさん、本当に誰でも入っていいんですか?」
入ってきたのはユリウス・カイネル、茶髪の快活な青年だ。
貴族社会に馴染めない平民出の魔導学徒だが、目は希望で輝いていた。
「もちろんだ。ここでは身分も家柄も関係ない。」
その後ろから、恥ずかしそうに銀髪の少女が顔を出す。
エリシア・フェイン。魔法薬学科の優等生で、薬学の知識は学院でも随一らしい。
「わ、私……治癒魔法の改良に興味があって……お役に立てれば……」
さらに大柄な男がドカドカと入ってきた。
ダリオ・クローヴェル、魔導戦士科の落ちこぼれだ。
「俺でも強い魔法が扱えるようになるなら、何でもするぜ!」
――いい人材だ。
戦闘、薬学、実験補助。最初のメンバーとしては十分すぎる。
「いいか。ここでは**“魔法を技術にする”**――それに賛同するなら誰でも歓迎だ。」
そう告げると、三人の目が一斉に輝いた。
だがその時、研究室の扉が勢いよく開かれた。
「……好き勝手やってくれるな。」
入ってきたのは、ヴァルクス派の若手教授だった。
濃紺のローブに険しい目。
「教授会からの伝言だ。
“異端者の研究室を学院の施設で運営することは認められない”――だそうだ。」
予想通り、ヴァルクスが動いてきたか。
「……でもまだ、禁止はされていないんだろ?」
俺は挑発するように笑った。
教授は舌打ちし、扉を乱暴に閉めて去っていった。
「大丈夫なの?」
リシェルが心配そうに問う。
「問題ない。あいつらは俺を潰したいだけだ。
なら――結果を出して黙らせるだけだ。」
俺は机に広げた術式の草稿を見つめ、ペンを走らせた。
「次は――戦闘用複合魔法だな。
治癒と破壊を同時に行う、誰も見たことのない魔法を作る。」
ここからが本番だ。
科学魔法の時代を、この学院で証明してやる。




