第10話 公開討論会
王立魔導学院・大円講堂。
数百名の学生と教授陣が詰めかけ、ざわめきが渦を巻く。
中央の壇上には二人の人物――俺とヴァルクス教授が立っていた。
「本日の議題は“魔法の本質”だ」
司会役の老人が声を張る。
「異端の主張をする新入生、レン・カミシロ。
そして、学院の理論魔法学部教授会議長、ヴァルクス教授。
双方、存分に語れ。」
ヴァルクスが杖を突き、ゆっくりと口を開いた。
「魔法とは神より授かりし力。
我らはただ、それを借りて形にしているに過ぎぬ。
魔法は神秘――人智を超えた聖なる御業だ。」
その言葉に、会場から賛同の拍手とどよめきが起きる。
教授陣は深くうなずき、学生の多くも頷いていた。
俺はすぐに返す。
「神秘? 曖昧な言葉でごまかすな。
魔法は再現性のあるエネルギー変換だ。
理解できないものを“神秘”と呼んで思考停止する――それは学者のやることじゃない。」
会場がざわめき、学生たちが顔を見合わせた。
俺はスクリーンに冒険で得たデータを映す。
スライムの腐食組織の分解、毒沼の成分、傷口修復の効率変化――全て記録したものだ。
「これは《アニヒレイト》を用いてスライムを撃破した時の反応値だ。
酸性組織を中和し、構造を崩壊させることで、最小の魔力で最大の破壊が可能になった。
これが俺の言う“再現性のある技術”だ。」
ヴァルクスは鼻で笑った。
「魔力を数値化? 馬鹿げている。魔法は感覚で扱うものだ。」
「感覚に頼るから進歩がない。
データがあれば術式は再現できる。魔法は誰でも扱える技術になる。」
若い学生たちがどよめいた。
「誰でも扱える魔法……?」
「もしそれができるなら、俺でも上級魔法が!」
一方、教授陣の顔は険しい。
ヴァルクスが杖を突き立て、怒気を込めて言い放った。
「貴様は魔法を貶めている!
神秘を解体し、凡俗の道具に落とす気か!」
俺は一歩踏み出した。
「――ああ、その通りだ。」
講堂が静まり返る。
「魔法を特別扱いするな。
解明し、再現し、誰もが使える力にする。
それこそが、この世界を前に進めるんだ。」
「異端者め!」
ヴァルクスが吐き捨てる。
「異端で結構だ。結果が全てを証明する。」
俺はそう言い放った。
討論は終わった。
勝敗はついていない。
だが――この日、学院は完全に二つに割れた。




