第1話「天才科学者、異世界で目覚める」
世界を震撼させた天才科学者・神代蓮。
量子制御と超次元理論の研究の末、彼は国家間戦争すら止める存在となった。
だが、ある日、研究施設ごと事故に巻き込まれ、気づけば異世界の草原に転がっていた——。
「魔力? なるほど、エネルギーの一種か」
そこは剣と魔法のファンタジー世界。しかし彼には科学的思考と現代知識があった。
物理学で魔法を解析し、化学で錬金術を超越する。
「科学は魔法をも凌駕する!」
これは、現代最強の科学者が、魔法と科学を融合させ、異世界で最強の魔法使いとなる物語である...
……目が覚めた。
まず感じたのは、柔らかい風と草の匂い。
研究所の無機質な金属臭とはまるで違う。
青空。雲。小鳥のさえずり。
――どこだ、ここは?
俺の名前は神代蓮。
現世では“狂気の天才”だの“科学の怪物”だのと呼ばれた科学者だ。
量子制御と超次元理論を軸に、俺は世界中の難題を解き明かし、国と国のパワーバランスさえ変えてきた。
だが、最後に覚えているのは――。
「……ああ、実験中の事故か」
俺は小さく呟いた。
あの時、俺は次元干渉装置の実験を行っていた。
未知のエネルギーを観測するために、量子フィールドを強制展開した瞬間――。
施設ごと、爆ぜた。
……まあ、死んだんだろうな。
「ということは……」
頭の中で、ある答えが浮かぶ。
転生。
目の前には、青々とした草原が広がっている。
遠くには山脈、そして見慣れぬ巨大な月が二つ。
地球じゃない。
「ファンタジー異世界ってやつか。ま、悪くない」
科学者の端くれとして、未知の世界には興奮する。
――ポョン。
足元で不思議な音がした。
見ると、半透明のゼリー状の物体がうねっている。
……スライム? ゲームで見るやつか?
「なるほど、異世界モンスターってやつか。なら――」
逃げる? いや、そんな発想は俺にはない。
実験対象だ。
俺はスライムの動きを観察する。
ゼラチン状の体。内部に不明な核らしきもの。外殻は粘性のある膜で覆われている。
生物学的に興味深い。
「動きは遅いな……よし、捕まえるか」
足元の木の枝を拾い、スライムの体を突く。
べちょり、と手応えがあり、内部の液体が波打った。
なるほど、刺激に反応する。
膜は外界との障壁。核はエネルギー制御の中枢か?
「つまり――あれが“魔力”ってやつか」
唐突な閃きが降りてくる。
魔力とは、未知のエネルギー体だ。
現象の再現性がある以上、原理は必ずある。
ならば――解析できる。
俺は深呼吸し、自分の内側に意識を向ける。
……感じる。
腹の奥に、熱のような流れ。
これが魔力か。
「面白いじゃないか」
未知のエネルギーを扱うのは、科学者冥利に尽きる。
俺は魔力を右手に集めるイメージをした。
すると――。
ボッ。
小さな炎が手のひらに灯った。
「おお……成功か。いや、これは“火の玉魔法”ってやつか?」
だが、すぐに違和感。
効率が悪すぎる。
魔力の8割が熱として無駄に放散されている。
制御構造も単純。
「なるほど。これがこっちの“魔法”ってやつか。だが、まだまだ改良の余地があるな。」
俺は笑った。
この世界の魔法は、エネルギー変換効率が低すぎる。
だが、構造を理解すれば――より効率的に、より強力な魔法が作れるはずだ。
「いいじゃないか。科学で魔法を解体してやる」
未知の世界。未知の法則。
だが、科学は全てを解き明かす。
「異世界か。……なら、俺がやることは決まってる」
俺は空を見上げ、宣言した。
「科学で魔法を凌駕し、この世界で最強の魔法使いになってやる!」
そうして、俺の異世界での実験が始まった。




