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第7話 好きな人が好きな人

 トレーニングジムを出て、しばらく二人は並んで歩いた。


「藪さんが襷をつけて遊んでるって、なんかちょっと想像しにくい」

「そう? あの子、結構賑やかだよ。元々人気者だから周りもみんな一緒について来ちゃうしね。だから先輩も無下には怒れなくて困ってるよ」


 梓はくすっと笑った。


「あ、今のは彼女には内緒だよ。ああ見えて、藪さんも結構気にする方だから」

「うん。きれいだし人気者だし運動できるし賢いし、ホントに凄いな」

「はは。ま、いい子には違いない」


 二人は分かれ道にやって来た。梓は駿の方を向いて頭を下げる。


「今日は本当に有難う」

「ううん、気にしないで。じゃ、またな」


 駿は爽やかに去って行き、梓もまた自宅に向けて歩き出した。しかし、その光景に目撃者がいたなんて二人は思いもしなかった。


 美順である。自転車に乗って寄り道をして、たまたまその場に出くわしたのだ。


 あの二人…、何なん? 竹内君と地味っ子の飯野さん? どうなってんだ?


+++


 自宅に戻り、就寝前に梓はお気に入りのメモ用紙を取り出した。襷のお礼を言わなくちゃ。藪さんが遊んだ襷、宝物だ。

しかし書くことが見つからない。まさか藪さんが…なんて書けないから、梓は仕方なく


『たすき、有難うございました  飯野 梓』


とだけ書いた。ここに…っと、梓は小さなキャンディを取り出し、メモ用紙で包む。端っこを優しく捩じって、


「ふう、これでよし」


 明日、隙を見つけて渡そう。


 その夜、梓は襷を枕元に置いて眠った。


+++


 翌日の2年3組。授業が始まる前に藪 亜朱沙は駿に声を掛けた。


「竹内君、おはよう」

「ああ、おはよう」

「あのさ、今日の練習ね、グラウンドの短距離コースをサッカー部が借りたいんだって」

「へぇ?」

「初めの30分位らしいんだけど、その間はあたしたち、サッカーコートで練習しなきゃなの。朝、昇降口で溝口先輩に言われて」

「へぇ」

「だからアップはサッカーコートなの。2年のみんなに伝えてって」

「うん、判った。30分もアップするのはだるいけどなぁ」

「鬼ごっことか、する?」

「また先輩に怒られるよ。藪さんすぐ遊ぶんだから。ま、みんなには言っとくわ」

「うん、お願いする。鬼ごっこだよって」

「こら」


 亜朱沙はペロッと舌を出した。単なる事務連絡である。しかし亜朱沙は嬉しかった。溝口先輩があたしに話を振ってくれて、まじ感謝だわ。よぉし、あたしが鬼になって竹内君を捕まえてやる。亜朱沙はウキウキと授業に臨んだ。


 その様子を梓はそっと見ていた。藪さん、ほっぺがほんのり赤い。そっか。きっと藪さんは竹内君が好きなんだ。お似合いよね。梓は昨日を思い出した。藪さんが知る事じゃないけど、私は自重しなきゃな。藪さんに誤解されちゃうと困るし。 


 もう一人、教室で駿と梓に注目していたのは美順である。昨夕目撃した光景。今朝はあの二人に変わったところはない。寧ろ亜朱沙が竹内君と楽しそうに話ししている。もうちょっと様子を見ようか。美順は胸騒ぎを押さえ込んだ。


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