第2話 自白
亜朱沙が案内されたのは、妙子の言った通り、新築平屋の一戸建だった。リビングに案内され、ソファに落ち着いた亜朱沙は周囲をキョロキョロと見回す。妙子は温かいお茶を二つ、テーブルに置いた。
「津波のことを考えたら2階建ての方がいいって息子は言ったんだけど、こんな年寄の一人暮らしで2階建てなんて、掃除も手が回らないし、階段も大変になるし無理言ってこうしてもらったのよ。もう一度あんな地震があったらもう私も諦めるわよ。生き延びなきゃって歳でもないし、なるべく迷惑掛けないように幕引きしようって、そう思うようになっちゃってね」
亜朱沙は頷くしかなかった。レポートや講演会でしか聞いたことがない現実が目の前で語られている。
妙子は湯呑を手に取った。
「それであなたは何者なのかしらね。梓ちゃんの元同級生だったっけ」
亜朱沙は居住まいを正し、名刺を取り出した。
「自己紹介が遅れました。あたし、兵庫県川端市役所の危機管理課、藪 亜朱沙と申します。私達の地域でも地震や水害の対策を考えているのですが、その参考に今回はこちらの役所で、ご経験や現在の対策についてお話を伺いに来た次第です」
妙子は名刺をしげしげと見つめる。
「市役所の主任さんなのね。女性の活躍とか騒がしいから結構大変なんじゃないの?」
「まあ、そう言う面は確かにあります。まじで区別されませんから、レディーファーストって死語なの? って思うことはたまにあります」
亜朱沙は苦笑した。
「教師なんて昔から女性も多かったから、正直、区別なんてなかったけどね」
「ご苦労されてますね」
「今じゃいい思い出だけどね。それでお仕事は判ったとして、梓ちゃんとは前の中学で一緒だったのよね。二人とも『あずさちゃん』なのね」
「はい。川端市の北端中学1年と2年。飯野さんは2年の終わりに転校されたので、2年弱一緒でした。名前は意識したことなかったけど」
「そう。お歳は、えっとあれから14年だから28かしらね」
「そうです」
「あの子も生きていたら28歳か。どんな大人になっていたかしらね。優しくてよく気が付く子だったわ」
亜朱沙はまた涙がこみあげて来た。
「あらあら。ごめんなさいね、思い出させちゃって」
「いえ、そうじゃないんです・・・。あたし、梓に懺悔しに来たんです。今さらですけど」
「ざ、懺悔?」
ハンカチで目を押さえ、亜朱沙は背を伸ばした。
「あの、あたし、中学の時、特に2年の時、飯野さんを苛めてたんです」
「え?」
「だから、謝っても謝り切れなくて」
「あなたはそんな風には見えないけどね」
「あたしが直接何かしたって訳じゃなかったんですけど、結果的にそうなってしまって、飯野さんが転校したのもそれが原因って言う人もいて、その時は私も混乱したけど、でもやっぱり私が原因だったって今では確信しています」
妙子はお茶を一口飲んで微笑んだ。
「お話して下さいな」
妙子の目は教師の目に戻っていた。
「はい。あたし、中2の時は、自分で言うのも変ですけど、クラスでは中心メンバーだったんです。女子カーストのトップみたいな」
亜朱沙の記憶は14年前に飛んだ。