第11話 体育大会
その日は2学期の目玉行事、秋の体育大会の種目割り当てを決めるホームルームが行われていた。体育委員が教壇で声を張り上げている。
「最後のリレーは得点も大きいし、目立つので独断かつまじで選びます。男子は竹内君、女子は藪さんでいいですよね!」
クラスは拍手で包まれる。梓もその決定に異論はなかった。
「それから、クラスのキャプテンですが、その竹内君にお願いしたいですけど、それもオッケイ?エブリバディ」
「オッケイ!!」
「意義ナーシ」
クラスは盛り上がる。体育委員は満足げに頷いて続けた。
「えーと、競技以外の担当ですけど、競技が当たっていない人から決めたいと思います。まずはゴールのテープ係をやりたい人」
梓は真っ直ぐ手を挙げた。運動には不向きな自分だが、藪さんの晴れ姿が間近で見られる係。是非やりたいと思っていたのだ。それを見て、亜朱沙がこっそり美順にサインを送った。両手の人差し指が交差している。
「じゃあ、飯野さんでいいですか?」
「意義あり!」
美順が手を挙げる。
「体操着を忘れる人には難しいと思います」
クラスは爆笑に包まれる。梓はいたたまれなかった。そう言われると返す言葉がない。しばしば紛失する体操着。未だに原因が判らず、梓の不注意と言うことになっている。結局梓は制服でも務まる『掃除係』に落ち着いた。亜朱沙が指で丸を作り、美順が積極的に推したからだ。梓は仕方ないと諦めた。
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体育大会当日も梓の体操着は行方不明となった。職員室で担任から叱られた梓は、一人制服のまま、清掃や給水運搬など裏方の仕事に携わることになった。
競技は午後の部に入っている。各学年の創作ダンスの後、綱引きが始まった。勝利すると得点が大きく、最後のリレーの前ながら、各チームに文字通り、力が入る競技である。
綱引きはクラス対抗だが、順位に応じた得点がクラスの所属する赤・白・青の各組に加算される。2年3組は青組の期待を背負って2年生の総当たり最終戦で優勝を狙っていた。
「よぉーし!優勝するぞぉ!」
「おおーっ!」
意気上がるクラスメイト達を梓も席から応援する。相手は2年1組。3本勝負である。1本目、2本目は勝利を分け合い、最後の3本目に勝敗はもつれ込んだ。
「行くぞー! オーエス!」
「オーエス!」
綱の中央に結ばれたリボンは右に行ったり左に行ったりとなかなか定まらず、皆顔を真っ赤にして引っ張り合う。3組が一体となって綱を引き寄せた。リボンが3組に引き寄せられる。梓も声をからして応援する。すると1組は綱を揺らす戦法に出た。3組は懸命に耐える。しかし次の瞬間、揺れる綱を押さえていた先頭の生徒の足が滑った。
「うあ!」
綱は一気に1組側に引き寄せられ、3組は総崩れになった。綱に引っ張られ生徒たちは折り重なって倒れこみ砂埃が舞い上がる。生徒席からも悲鳴が上がった。
「只今の勝負は2対1で2年1組の勝利です!」
アナウンスに沸き上がる場内。しかし、2年3組の倒れ込んだ生徒の一人がなかなか立ち上がれない。先生も駆けつけた。
「足首を捻ってしまいました。すみません」
痛みに顔を歪めたのは亜朱沙だった。保健委員でもある梓は救急箱を持って駆けつけた。保健の先生が亜朱沙に肩を貸し、保健室へ向かう。梓も救急箱を持って後ろからついて行く。保健室で、足首に湿布を貼って、包帯でグルグル巻きにされた亜朱沙は、オロオロする梓に向けて皮肉を放った。
「一人、人数が減ったから無理しちゃったのよ」
梓は何と答えて良いのか判らず、ただじっと俯いた。




