第9話 苛めに見えない
佐藤 美順は有言実行の少女だった。そして藪 亜朱沙の心にはドロッとした気持ちが芽生えていた。
その日の体育の授業はバレーボールである。梓は球技が押しなべて得意ではない。
「ほらっ、後ろ!」
相手のサーブが飛んでくる。狙われているのは梓である。
ぼこっ!
腕で受けたサーブは梓の顔面に跳ね返った。
「あーあ、もう」
亜朱沙は前衛で露骨に嫌な顔をする。
「す、すみません」
憧れの亜朱沙の顔色に梓は落ち込む。そんな時間が40分も続いた。
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二日後、その日も体育の授業があると言う朝、亜朱沙は周囲に聞こえるように言った。
「バレーボールさ、チーム編成変えてくんないかなぁ。足引っ張られるのやだし」
明らかに自分の事と察した梓は聞こえないふりをしながら小さくなっている。
「なんとかするよ」
美順が答えた。
その日の体育の授業、梓は体操着を探し回ったが見つからなかった。普通に梓のロッカーに入れておいたのに見当たらない。持って帰った覚えはないんだけど…。
止む無くその日の体育を梓は見学した。結局体操着は屋外で発見された。何がどうなったのか梓には理解できなかった。
亜朱沙も事態を正しく理解していなかった。確かにバレーボールのチーム編成を変えて欲しいと愚痴った。そしてその日のバレーボールはチーム編成が変わったのだ。梓が抜けたからである。しかし、まさかその状況が故意にもたらされたものとは思いもしなかった。




