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侵略者、地球で詰む

侵略者、日本の引っ越しで詰む

「もう限界だ!」


Z-34の怒声が、帝国軍の宇宙船司令室に響き渡った。


「昨日も警察が来て『不審な飛行物体の通報があった』と。先週は自衛隊のヘリコプターが偵察に来た。もう隠蔽工作だけで戦力の7割を消費している!」


「でも司令官、この宇宙船は最新鋭の光学迷彩を...」C-404が間の抜けた声で言う。


「それでも『なんとなく変な感じがする』という理由で通報されるのだ!地球人の第六感を甘く見ていた」


A-3が冷静に付け加える。「それに、近所の子供たちが『UFO基地』と呼んで遊びに来るようになってしまいました。お菓子をあげないと帰らないという地球の風習も厄介です」


「よし、引っ越しだ!目立たない人間の住居に紛れ込む。高級マンションなら防音もセキュリティも完璧だろう」


■誤算1:外国人という壁


翌日、Z-34一行は都心の高級不動産屋を訪れた。


「タワーマンション最上階、360度の眺望、完全防音仕様...」


営業担当者が熱心に説明する中、Z-34は満足そうに頷いていた。


「これなら問題ない。契約を...」


「お客様、念のため確認ですが、日本国籍はお持ちですか?」


「国籍?我々はそもそも地球人ではなく...」Z-34が説明を始める。「母星の名はアンドロメダ座β-7第三惑星、正式名称はザルクトロン帝国領...」


「はい、外国人ということですね」営業担当者が遮る。


「いや、そもそも地球外生命体であって...」


「申し訳ございません。こちらの物件は日本人限定となっておりまして」


「なぜだ?金なら十分に...」


「オーナー様の方針で、外国人の方はお断りしているんです」


次の高級マンションでも同じ反応。

「永住権はお持ちですか?」


「永住権?我々がこの星を征服すれば、全ての土地は帝国の所有物となる。つまり、いずれ我が領土となるため、永住権など必要ない」Z-34が胸を張る。


「はあ...」営業担当者は困った顔をする。


「むしろ、現在の地球人こそ、我々に居住許可を申請すべきでは...」


「では、審査が通りませんね」


A-3が小声で囁く。「司令官、その論理は地球では通用しないようです」


3軒目では門前払い。

「外国人?うちは日本人だけですよ」


■誤算2:安アパートという選択


結局、駅から徒歩20分(地球人基準)の築40年木造アパートに落ち着いた。


「ここなら外国人OKって書いてあります!」C-404が嬉しそうに指差す。


不動産屋の担当者は疲れた顔で説明する。

「正直、ここは...まあ、いろんな方が住んでますから。多少のことは大丈夫かと」


Z-34は不安を感じたが、もう選択肢はなかった。


■誤算3:想像を絶する住環境


入居初日の深夜2時。


「うおおおお!!そこだ!!倒せ!!!」


隣の部屋から絶叫が響く。


「敵襲か!?」Z-34が飛び起きる。


A-3が壁に耳を当てる。「いえ、どうやら『ゲーム実況』というものらしいです。一人で画面に向かって叫んでいるようです」


「なぜ深夜に一人で叫ぶ必要が...」


朝5時。今度は下の階から大音量でアニメのオープニング曲が流れ始めた。


「キラキラ光る〜♪ 希望の星〜♪」


「また始まった...」A-3がため息をつく。


調査の結果、下の階の住人は「アニメ鑑賞会」と称して、毎朝5時から10時まで連続でアニメを見ているらしい。しかも大音量で。


「なぜ早朝に...」

「『朝アニメは最高』という地球の文化らしいです」C-404が説明する。


そして週末の夜。


「ヘイ!カンパーイ!!」

「ウォッカ!ウォッカ!」

「♪〜(聞き取れない言語の歌)」


上の階から、酔っ払いの歌声と足踏みが響く。


「これは...」

「外国人労働者の方々が、週末にお酒を飲みながら母国の歌を歌っているようです」A-3が分析する。


ドンドンドン!!(床を踏み鳴らす音)


「踊りも始まったようですね」


■誤算4:ペットの熊騒動


入居から2週間後、新たな問題が発生した。


「司令官!緊急事態です!」C-404が血相を変えて駆け込んできた。


「どうした?」


「あの...例の熊が...」


先日のスーパーでの一件以来、なぜか帝国軍の宇宙船に住み着いてしまった熊。C-404の味が忘れられないらしく、彼を「非常食」として認識していた。


「散歩に連れて行ったら、猟友会に追いかけられて...」


窓の外を見ると、武装した猟友会のメンバーが集結していた。


「熊が町に出た!」

「住宅街に熊だ!」

「子供たちが危ない!」


Z-34は慌てて外に出る。

「待ってください!これはペットの熊で...」


猟友会の会長が銃を構える。

「ペット?熊を飼うなんて違法だろ!」


「いや、宇宙の法律では...」


「ここは日本だ!」


A-3が冷静に説明を試みる。

「正確には、この個体は我々の宇宙船に勝手に住み着いただけで...」


「熊は熊だ!危険だ!」


その時、熊が顔を出した。

「うまうま〜」


C-404の方を見て、よだれを垂らしている。


「ほら!獰猛じゃないか!」猟友会のメンバーが叫ぶ。


C-404が震え声で。

「あの...確かに僕を食べたがってますけど、基本的には大人しい...」


「食べたがってる時点でアウトだろ!」


町内会長も駆けつけてきた。

「まあまあ、落ち着いて。Z-34さんは町の大切な仲間だし...」


「でも熊は熊だ!」


「でも、この熊さん、この前のスーパーの一件でテレビに出て有名になったし...」


猟友会の若手メンバーが気づく。

「あ!YouTube で見た!宇宙人VS熊の!」


「サインもらえますか?」


急に態度が変わる猟友会メンバーたち。


結局、「タレント熊」ということで、特別に飼育許可を申請することになった。


■誤算5:管理人という存在


騒動が収まった翌朝、Z-34は管理人に呼び出された。


「あのさ、熊飼うのはさすがに...」


管理人は煙草を吸いながら、面倒そうに言う。


「ペット可と聞いていたのですが」


「犬猫の話だろ、普通」


「契約書には『ペットの種類は問わない』と...」


「常識で考えろよ」


「我々の常識では、熊は中型ペットに分類されます」


「知らねーよ、宇宙の常識なんて」


■誤算6:さらなる試練


熊の件で、アパートの住人たちの態度が微妙に変わった。


ゲーム実況の隣人:「熊飼ってるとか、ヤバくない?でも、配信のネタにはなるな...」


アニメ鑑賞会の下の階:「熊のアニメ作ろうかな。宇宙人と熊の友情物語...」


外国人労働者たち:「熊の肉、美味しい?」(期待の眼差し)


さらに、ゴミ出しも複雑になった。


「熊の糞はどのゴミ?」

「ペットの糞は可燃ゴミですが...」

「でも量が多すぎて...」

「小分けにして出してください」


■誤算7:順応する帝国軍と熊


1ヶ月後...


「司令官、緊急報告です!」


「何事だ!ついに静かな物件が見つかったか?」


「いえ、熊が...」


モニターに映し出された熊は、C-404と一緒にゲーム実況をしていた。


「うまうま!(そこだ!倒せ!)」

「熊先輩、ナイスプレイ!」


「なんということだ...」


さらに数日後。


「司令官、A-3と熊が...」


今度は熊とA-3が、早朝からアニメを見ていた。


「この作画の緻密さ、まさに芸術です」

「うまうま(泣ける)」


「熊まで...」


そして週末。


「カンパーイ!」


Z-34が振り返ると、上の階の外国人たちとC-404が一緒に飲んでいた。


「司令官も一緒にどうですか!母星のお酒持ってきました!」


「これがアルコール度数95%の...うぉっ...つよい...」


外国人たちも盛り上がる。


「オー!スペースウォッカ!」


「カンパーイ!」


■最終報告書より抜粋


「母星への報告:地球の住環境は、我々の想定を超えた困難さだった。


特に『安アパート』と呼ばれる居住区画は、まるで精神修行場のような環境である。騒音、不規則な生活リズム、文化の違い...これら全てが混在する中で、なぜ地球人が正気を保っていられるのか理解できない。


さらに、ペットの熊に関する騒動により、我々は地域の有名人となってしまった。『熊を飼う宇宙人』として、連日取材申し込みが殺到している。


しかし、最も恐ろしいのは、この環境に我が軍の兵士たち、そして熊までもが『順応』し始めていることである。


C-404は今や人気ゲーム実況者として、熊とのコンビで活動。A-3は『アニメ評論家』を自称し、熊との考察動画を投稿。


そして私自身も、週末の『国際交流飲み会(熊も参加)』の幹事を任されている。


地球の真の防衛システムは、この『なんとなく受け入れてしまう』という恐ろしい同化作用なのかもしれない。


追伸:来月、町内会の夏祭りで『宇宙人音頭』に加え、『熊音頭』も踊ることになった。もはや侵略どころではない。


追伸2:熊の住民票申請は却下されたが、『特別住民』として登録された。これは前例のない措置らしい」


窓の外では、相変わらず騒がしいアパートの日常が続いていた。


そして今夜も、Z-34の部屋からは


「うおおお!!ボスを倒したぞ!!」

「うまうま!!(やったー!)」


という叫び声が響いていた。

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