第四話
「……マジアゴ!……マジアゴ!」
森の奥深く、人の気配など微塵も感じないその場所で、アは確かに声を聞いた。微かに聞こえる声を頼りに草木を掻き分け、音の発生源を辿る。
「これは、……穴?」
アが見つけたのは底が見えない深そうな穴だった。
声はこの中から聞こえる?
何時間も歩き、アは、手掛かりになりそうなものなら何でもよくなってきていた。躊躇う様子も無く、勢いよく踏み切って穴に吸い込まれていく。
「あぎゃぁぁぁぁぁあああ……」
情けない叫びを上げながら、アはどこまでも落ちていく。イノシシの身体は大きく、穴の壁にアゴがプルプルと当たって煩わしい。壁をアゴ型にマーキングしていくアの姿は、地表からはもはや見えない。
プルンッ
突然落下が止まり、大きく身体が宙に舞う。
どうやら落下地点は植物か何かの上だったらしい。しかし妙に反発する植物だ。
「マジアゴォ?」
見ると、アが立っている場所はアゴだった。奇妙に大きいそのアゴラーらしきものが、アを受け止めるクッションとなったのだった。
カツ、カツ、カツ、と、土とは程遠い、硬い音色の足音が近づいてくる。
「ようこそ、隠れ家へ。」
眼前に現れた顔の見えない誰かは、突然の来訪者を歓迎しているようだった。