ポチくんの話
むかし、むかしあるところに……
むかし、
筆者がまだ、いたいけない? 小学生だった頃。
母方実家の御仏壇には二枚の写真が飾られていて、
私は遊びに行く度にその「写真」が、なんとなく気になっていました。
一枚は亡くなった大工の祖父が大きな木材にカンナをかけている写真で、
祖父はタオルで鉢巻をして、こちらに向いてニカッと笑っています、
もう一枚は白い雑種の中型犬で、こちらも舌を出してエヘと笑っている良い写真です。
ある時、祖母に「この犬は?」と聞くと、
母と祖母は懐かしそうに「ポチかー」「ポチなぁ」と顔を見合わせて、
当時の話をしてくれました。
ポチは母が中学生のころに飼っていた雑種で、大雨の日に ( 多分 ) 親とはぐれてクンクン泣いているところを祖父が保護した子犬だったそうです。
母曰く「ちょっと貧相な雑種」で「いつも申し訳なさそうにしっぽを股にはさんでいた」そうです。
そんなポチはたいそう賢い犬で、毎日下校する母をお迎えに来ていたそうで、
校門で母を待つポチに空のお弁当箱を渡すと、ポチはそれを口にくわえて、
母を先導して帰宅するのが日課だったとか、
当時は昭和で、日本中が『ALWAYS 三丁目の夕日』で、
今ではダメですが、野犬も放し飼いのわんわんも多い時代でした。
そんなある日の下校途中、母とポチは近所の土佐犬と遭遇します。
この土佐犬は体がとても大きく、近所でもぶいぶいいわせていたボス的な犬で、
その日、この土佐犬を飼っていた御屋敷の門が開いていて、
ボス ( 仮名 ) が道路に出てきていました。
そこに折悪しく母とポチが通りかかり …
一人と一匹に猛然と吠え掛かる土佐犬、
どうしよう噛まれる、逃げなきゃと思っていても、
母は足がすくんで逃げ出せず、その場にしゃがみこんでしまいました。
その時 ー
母が聞いたこともないような唸り声をあげて、
ポチがしっぽをまっつぐに上げ、猛然と土佐犬に突進していったそうです。
ポチは血だるまになりながら母を背に一歩も引かず、
一、二回りも大きな土佐犬に食らい付き、ついに「きゃいん」いわせたそうです。
その後、ポチは近所の犬たちに一目置かれる存在になったそうですが、
やっぱり風采は上がらず、
しっぽを股に挟み、ちょっと申し訳なさそうに歩く癖は治らなかったとか、
この話は、小学生児童だった私の心に深く残り、
「いつかポチのような賢くて勇敢なお犬様と義兄弟の契りをかわしたいものだ」
と、思っていたのですが、
我が家は「秘密結社NNN ( ぬこぬこネットワーク ) 」からの派遣が絶えず、
いまだに望みは果たせていません。
じいちゃんの、犬に「ポチ」と名付けてしまう安直なネーミングセンスはどうかと思うんだけど、ツバメの雛に「ちゅん太」とつけてしまう私の言えた義理ではなく …