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20)ご家庭訪問2

「さて行くぞ」

小野屋の裏の湧き水から汲んだ瓢箪の水は冷えていて美味しかった。猫又姐さんの持たせてくれた弁当を腹の中に納めた一行は、山道を登っていた。


 先に立って行くのは三人兄弟の鎌鼬かまいたちだ。

「ありがとうございます。歩きやすくて助かります」

下生えを刈りながら先導してくれる三人に、タカはお礼を言った。

「あたぼうよ! 」

「小野屋のタカ坊、そろそろ着くぜぃ! 」

「ほおら、あっちに見えてきた」

鎌鼬たちの言葉が終わるころ、森が切れて、目の前に巨大な鍾乳洞が現れた。

「ほれ、あそこだ」


 鍾乳洞からは、お兄ちゃんドラゴンの顔が覗いていた。

「おーい」

手を振ったタカに気づいたらしい。

「タカ! あいぼーとおやぶんも」

ドタドタとお兄ちゃんドラゴンが走ってくる。

「そもそも静かにできねぇ年頃なんじゃねぇか」

番傘の親分は苦笑混じりだ。頭上から、散るにはまだ早い木々の葉が振ってきて、番傘の親分に当たっては軽やかな音を立てている。


 その後ろからゆっくりと出てきた存在に、タカは目を奪われた。

「本物だ」

西洋の古典絵画に描かれるドラゴンが、全身が光沢ある金属のような鱗に覆われた肢体をゆっくりと洞窟から陽の光へと晒しつつあった。

「ありゃ、親父さんっすかね」

「多分」

前に町に来た母親のドラゴンよりも、大きく、どこか神々しい。

「お兄ちゃんが憧れるのもわかるっすねぇ」

「わかるねぇ」


 タカの手から離れた番傘の親分とビニール傘の相棒とタカの前にいるのは堂々たるドラゴンだ。

「息子が世話になっているそうで、ありがとうございます」

この森は、旅の途中の借りの宿のはずだ。堂々たる風格のせいだろうか、森の王か精霊のように見えた。

「ありがとうございまーす」


 父親のドラゴンに続いたお兄ちゃんドラゴンに、タカの緊張はほぐれた。

「いえ、こちらこそ。元気に頑張る息子さんに、いつもみな元気をもらっています」

「そうおっしゃっていただけるとは、ありがたいことです」


 多分、父親のドラゴンは微笑んでいるのだろう。雰囲気が少し柔らかくなった。

「さすが親父さん、足音一つしやせんねぇ」

ビニール傘の相棒の囁きが聞こえたらしい。父親のドラゴンが小さく笑った。


「この子はまだ子供ですから。なかなか自身を上手く扱えないようなのです」

そういえばタカも小さな頃、足がもつれて転んだり、フェンスから飛び降りて失敗して怪我したり、色々あった。あれと同じなのかもしれない。


「タカ、相棒、親分、赤ちゃんこっちだよ 」

妹を紹介しようと大はしゃぎのお兄ちゃんが飛び跳ね、タカは慌てて近くの木の幹に手を添えた。


「タカ、行ってやんな。ちょっと俺は親父さんと相談だ」

番傘の親分の言葉に、父親のドラゴンが頷く。


「赤ん坊っすよ、ほれ、タカ、行きやしょうや」

早く来いと急かすビニール傘の相棒の後ろを、タカは追いかけた。


 タカの頭をよぎったのは、番傘の親分の元の持ち主だ。海道一の大親分といえば、タカが思いつくのは一人だけだ。果たし合いになるような話題はないはずだ。


「にちゃ! 」

可愛らしい声が聞こえる方にタカは足を向けた。


 赤ん坊のドラゴンは可愛らしかった。

「まだ飛べないものですから」

母親のドラゴンに頭を擦り付け、兄に甘えて大はしゃぎだ。小型車よりは小さいドラゴンは、一生懸命羽ばたいているが、羽根の動きが頼りない。

「とうの!」

舌足らずで可愛い。


「ニチャのおともあち? 」

まんまるな大きな瞳にタカが映っていた。


「そうだよ」

可愛い赤ん坊にメロメロになりかけたタカは、出発前の保安官のジョーの忠告を思い出した。

「いいか、赤ん坊ってのは可愛いけどな。あんまり可愛がると兄ちゃんが嫉妬するから気をつけろ。甥も姪もいる俺からの忠告だ。忘れるなよ。子供ってのは嫉妬深いもんだ」


 多分、まだ、間に合うはずだ。

「お兄ちゃんと仲良しだよ」

タカはお兄ちゃんドラゴンの頭を撫でてやった。

「赤ん坊ってのは可愛いっすねぇ。こんな可愛い妹がいたら、お兄ちゃんが頑張るってのもわかるもんすよ。いや、お兄ちゃんは良いお兄ちゃんすねぇ。立派立派」

ビニール傘の相棒の褒め言葉のほうが上手な気がする。人生経験豊富な持ち主たちに愛されてきたビニール傘の真骨頂しんこっちょう発揮はっきされているのかもしれない。


 こうなったら、タカにしかできないことをするしかない。タカはビニール傘ごとお兄ちゃんドラゴンを抱きしめた。

「お兄ちゃん、今日はお招きしてくれてありがとう」

腕があるタカにしかできないことだ。


「にちゃ! にちゃ!」

入れてくれと騒ぐ赤ちゃんドラゴンもまとめてタカは抱きしめてやった。






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