姉妹格差〜婚約者を妹に譲れ!〜と令息の疑問〜婚姻する意味ある?〜
甘やかされて、躾されてない妹の我儘による婚約者変更って、実の処、こう言う意味では?
と言う感じです。
そろそろ家に残る妹の婿を、と言う話が両親より出た夕食。妹はよりによってこう言いました。
「私、レイソク様と結婚したい!」
その方は私の婚約者なんですけど。
当家の子供は私とイモウトの2人姉妹。どちらかが家に残り、婿を取り、お父様から当主を継ぎます。
「可愛いイモウトと一緒に暮らして行きたいな。」
「可愛いイモウトと一緒に暮らして行きたいわ。」
そんな花畑な両親の思いから、可愛くない私は嫁に出される事になりました。私とイモウトは然程歳も変わらないので、次期当主ーーイモウトに決まった理由はともかくーーのイモウトの方が先に婚約者を決めるものですが、両親ーー主にお父様ーーの「なるべくイモウトの婿の顔は遅くに見たい」と言う花畑な思いから、先に私の婚約者が決まりました。
健全にお付き合いを重ねて行く私の婚約者、レイソク様は当然、私の家族とも顔を合わせておりますが、どうやらレイソク様はイモウトの好みにピッタリの様です。最もレイソク様は「アレが次期当主?」と不快そうな疑問を持っておりましたので、恐らくはイモウトは未来の身内としてすら、好かれてはいないと思います。
「そ、そうか……、だがそれは家を出て行くと言う事だぞ……?」
「そうよ、それに家柄はあちらが上だからきっと厳しく教育されるわよ……?」
……その様な問題でしょうか。いえ、それも問題ではあるでしょうが。
……女当主は決して珍しい訳ではありませんが、妊娠、出産、育児、家の差配、女同士の社交……、と通常の貴族夫人の仕事も熟さなければならないので、男性当主よりも仕事量が増加する為、都合の良い配偶者に恵まれ、補佐を受けなければ成り立たず、その分、成り手が少なくなります。また身分が上がる程、単純に仕事量も増加する為、高位になる程、より少なくなる傾向にあります。
当然、そんな女当主が受ける教育はかなり厳しいものなのですが……、このイモウト可愛さで家に残らせる両親が教育を施す訳が有りません。それ処か我が家の格に相応しい貴族夫人教育でさえ受けていません。
……レイソク様が呆れた様な疑問を持つのも無理は有りませんわ。
一体、イモウトの配偶者にどの様な人物を選ぶつもりかと疑問に思ってはいたのですが、家の恥になる事は流石にしないでしょうから、ちゃんと考えているだろうとも思っていたのですけれど。
……どうして「姉の婚約者と結婚したい」との宣言に対する非常識を叱らないのでしょうね。
元々私達姉妹に対しての扱いが違う両親で、あからさまに私よりも妹を優遇していましたが、「まさか此処まで……」と言う気持ちです。冷遇までは行かないのでまだ少しは救いがあると思っていたのですが、両親の中では「姉は妹の望みを叶えて当然」と言う思いがしっかりと有るのは変わりないと言う事でしょうか。
お下がりを使用する様な家柄ではなかったので、分かり易い搾取が無かっただけだった、と……。
「お父様もお母様も私に幸せになって欲しくないの?」
「そうじゃないのよ、イモウト。」
「そうだとも。お前の幸せが一番大事だ。」
私が呆れている間にも妹と両親の遣り取りは続きーー、結局、レイソク様の意思次第であると決められました。私の意見等、当然、求められませんでしたわ。
……幼い頃は傷付いて、涙を流したものです。
ですが両親に「貴族令嬢としてみっともない」と叱られるばかりで、その一方で飛んだり跳ねたり走ったりする妹には「元気で良いわ」と褒め、はしゃいで転んで泣き喚く妹には「大丈夫か!?」と心配し、「姉の癖に何故、妹を見ていないんだ!!」と私には怒鳴ってばかりで、やがて私は感情が凍り付いた様に動かなくなりました。
そんな私の婚約者となったレイソク様は両親と違い、私をとても大事にして下さいます。当然、妹の事も私より優先する事は有りません。
その事に付いては身分が上のレイソク様に文句を言える事ではなく、けれど私に文句を言って来ますので、「私の両親は『未来の妻よりも、妻の妹を大事にすべきと申し立ててる』、と訴えれば宜しいですか? 私、愛想もない不甲斐ない娘ですので、上手く言葉に出来ませんの」としおらしくすると、流石にそのまま伝えられると困るからか、何も言われなくなりましたが。
相変わらず、家族に関しては心が動きませんが、レイソク様に対しては穏やかな波が寄せて返す様な、そんな心地になれます。彼の妻になる事、私にはとても大事な事で、レイソク様もきっと私の想いに応えて下さるでしょう。
それから。
我が家にレイソク様のお父様、つまりは私の義理の父になる方が訪ねて来られました。婚約者を姉から妹に変える申し出をお父様がされたのですが、あちらのご当主であるお義父様が「直ぐには返事が出来ない」と返答なされまして。
そして本日、お答えをお持ちになって、態々我が家に訪れなさったのです。本来であれば、呼び付けられるのは此方なのですが……。
「婚約者変更ではなく、婚約解消致そう。息子にはもっと佳き人を宛行う事になってね。」
え……?
……今回の婚約者変更のお話は私の意見ではありませんが、レイソク様サイドからすれば、我が家の総意扱いで、即ち私の意見も含んでいる、つまりは「イモウトがレイソク様を臨んだ」だけでなく、「私がレイソク様と別れたがっている、少なくとも納得している」と受け取られている様でした。
……違うのに!!!
そう思いましたが、私の言葉ではどうにもなりませんでした。レイソク様がいればまだ……、とは思いましたが、そのレイソク様がいらっしゃらないのです。
態々我が家にお一人(御付きは数えません)で義父になる筈だった方が来られたのは、レイソク様に情で訴える行為をさせない為だったのかと気付きましたが、どうにもなりません。
イモウトは食い下がろうとしましたが、流石に両親が止めておりました。
「丁度、そちらも息子には不満がある様、婚約者を変更してまで繋がりを持つ理由も無い、当人達の意見による婚約解消が一番良いだろう。」
この言葉で「婚約者変更のお話自体が此度の原因」と知らされましたから。隣領地を治める格上の家柄のご当主を本気で怒らせてしまう訳には行かないのです。慰謝料の請求が無い内に終わらせてしまうべきだったのです………。
こうして私は家族のせいで婚約者を失いーー、それだけでなく、我が家が隣領地から不興を買ったと社交界で噂され、落ちぶれていきました。
我が家に婚姻話は来ず、やがてはお父様は爵位を国へ返還し……、私達は平民へと成り果てました。
……ああ、どうしてこんな事に……。
皮肉な事に、私は漸く家族と同じ気持ちで心を満たす事が出来ました。漸く嘆きと言う感情を共有出来たのですーー。
婚約者の変更。アネからイモウト嬢へ。それを求められていると知った私は、父上から意向を聞かれ、迷わず返答した。
「婚約は解消して下さい。変更ではなく。」
「何故。」
「婚姻する意味あります?」
イモウト嬢の野生動物さは良く知っている。それだけなら向こうの問題だと思うのだが。
「あの野生動物を此方に押し付けようとしている時点で我が家を馬鹿にしているも同然でしょう。そんな家から、優遇されていない側の令嬢を娶る意味あります?」
いっそ、「子供は政略の道具でしかない」と割り切ってくれた方がマシだ。子供を理由にした情は期待出来ないが、同時に此方も期待されない。
だが格差を付ける家は違う。
優遇されていない側を娶っても、娘への愛情が無いのだから、我が家が助力を乞う事があっても力を貸す事は無く、逆に向こうが困ると此方へ娘を理由に助けてくれと言って来る。馬鹿にしていなければまた話は変わっただろうが。
……そして……、だからと言って、優遇されている側なら良いかと言うと、少なくともあの野生動物相手だと首を横に振らざる得ない。あれを躾して夫人に相応しくするだなんて、それだけの苦労を背負う義務は無い。母上にも苦労をさせたくないし。見合ったメリットもなければ、無理矢理繫がる程の政略的理由もない。
つまり婚姻する理由がない。
愛情? 恋情? 貴族なのだから、そんな個人感情よりも家だろう。まずは家ありきだ。愛情も恋情もその後。
「そうか、分かった。」
彼女が嫌いな訳ではないが、縁が無かったと言う事だ。父上の返答を聞きながら、私はそう思った。
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