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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第三章 どうも、お姉ちゃんです
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第9話 お姉様のお願い

「ふー、はー、ふー」


 あー、懐かしの我が部屋。私の好きなラベンダーの香りがほのかに漂っている。

 何も変わっていない。ふかふかのお布団に今すぐダイブしたい。


「お嬢様、お茶でもお持ちしましょうか?」


 私の専属メイドであるシャネルが、私の奇行(両手を上げ下げして全身で深呼吸しただけであるが)をほほえまし気に見ながら、私を甘やかしてくる。


「シャネル!」

「はい?お嬢様」

「ただいまっ!!」


 微笑みを浮かべていたシャネルの目の端がちょっと光っている気がする。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 はー。癒し。

 男爵家の三女であるシャネルは、私が3歳のときに付けられた専属メイドで、そのとき確か16歳だったから、今は22歳のはず。我が公爵家の使用人は皆有能であるだけではなく、顔もいいのだが、シャネルも淡い茶色のふわふわとした髪、色白、小柄な小動物系の美人さんである。本人は童顔であることをよく嘆いていたが、それもまたかわいい。癒し。

 あー、でも、私が木登りをしたり、脱走しようとしたりすると、微笑みながらも黒いオーラをばんばん放って追いかけてきていたなあ。懐かしい。


「お茶は、さっきいただいたから、もういいの」


 ひとまずお気に入りのふかふかなソファに座ってから、ちらちらシャネルを見つめる。

 

「弟様のことをお知りになりたいのですか?」


 さすがである。


「気になるのでしたら、直接お話しされてみては?」


 そういう性格でしょ、あなたは、って顔してますね。いやいや、確かに好奇心旺盛なほうだとは思うけれど、前世の私に引っ張られて、年齢の近い異性ってちょっと苦手になっちゃったんだよなー。


 それに、どうしてもひとつ気になることがある。


「あの、お姉様のことなんだけど……」




 トントントン


「アンネ?入ってもよいかしら?」


 わお

 

「どうされますか?お知りになりたいことは、直接お聞きになられては」

「……うん」


 タイミングがいいのか悪いのか。

 部屋着であるシンプルなワンピースに着替えたお姉様は、今日もお美しい。


「疲れてはいない?」

「大丈夫です、お姉様!」


 仲良くソファに並んで腰かける。そう、私たちは、仲良しなのだ。

 私がいなくなってからの3年間、寂しかったこと、学園に入学した話、私の碧の塔での生活。

 知らぬ間に出されていたお茶やお菓子を飲み食いするとき以外、私たちの口は止まらない。

 いつも通り。そのことにお互い、少し安心する。


「……あの、ね」


 一通り話が尽きそうなあたりから、お姉様は何かを言おうか言うまいか、迷っているようだった。

 ちなみに、さっきお父様には言わなかったが、その金色の石を身に着けていても、やラウルレベルの精神魔法使いは、心を読もうと思えば読めてしまう。(おそらくお父様はそのことに気付いている。ただ、お父様が王様から与えられている魔道具は、めちゃくちゃ高性能なので私でも読めない。)

 でも、私は、できる限りこの力を、少なくとも今は使いたくない。だから、待つ。



「お姉様」


 なんでも聞きますよ。そんなニュアンスを声に乗せる。


「……『あの子』のこと、どう、思う?」

「新しくできた弟のことですか?」


 今、「あの子」というなら、彼しかいまい。

 お姉様は、小さく頷く。

 正直、「あの子」を目にしたお姉様の態度についてはさっきからずっと気になってはいた。

 だが、ここでなんと答えるのが正解なのか……。


「まだお話ししたことがないから、よく分からないわ」


 the 無難な回答である。

 すみません、いろいろ実は知ってます!そんでもって、攻略本に書いてあるみたいにお姉様が彼の実の家族を奪ったのかとか、それはなぜなのかとか、めっちゃ気になってます!とはさすがに言えぬ。


「……そう、よね」


 小さなため息。失望、というよりかは、安堵?


「ならいいの」


 いや、よくないっす。おーしーえーてー!


「アンネ」


 お姉様の猫目に強い光がともる。


「私は明日には学園に戻るけど、あの子にはあまり近づかないでほしいの」


 へ?


「なぜですの?」

「それはいえない」


 ばっさりである。

 もう迷いは断ち切れたようで、でもどこか思いつめたような表情もしていて。

 子どもながら、完璧な令嬢と名高いお姉様の表面上の表情はさっきからずっと変わらない。だけれど、妹である私には、いや、人の心の機微に敏い私には、なんとなく分かってしまう。



「アンネ、お願い」


 夕日のような茜色の目の奥には、誰かを陥れようとか自己保身とかではなく、真剣に私のことを心配しているような色がみえる。


「お姉様」


 きっと、お姉様と仲が悪くなるとしたら、あの弟のせいなんだろうな。


「一緒に暮らしているのですもの、絶対に近づかないとは約束できませんわ」


 でも、大好きなお姉様に心配はかけたくない。


「ですが」


 渾身(こんしん)の笑顔で明るく答える。


「わたくしからはできる限り近づかないようにしますわ」


 1歳差しかないわけだし、同じ家に住む以上、会話することはあるだろう。できれば、あの乙女ゲームが始まる前に話してみたいし。

 お姉様がうつむいていた顔を上げる。目がうるうるしている。そこまでお姉様が思いつめる何かがあったのか。やはり、気にはなる。


「ありがとう、アンネ。……私の妹」


 がばっと抱きしめられて悪い気はしない。うん、そうだな、あの子のプロフィールに「アンネヘルゼ」と仲が良いという情報はなかったはずだし。イベントごとで必要があれば、姉である以上、ヒロインのために呼び出すとかはできるはず。お姉様にはバレないようにしなきゃだけど。

 ドアの近くで控えているシャネルが「ああ、美しき姉妹愛」みたいな顔をしている。ふふふ、我ら美少女だし、なかなか絵になる場面だろう。

 




 トントン


 嫌な予感がする。いや、きっと幻聴だ。2回ノックは、トイレだし。



 トントントン


 ノックしすぎだろ。シャネルが眉毛だけ器用に上げて、どうします?と目で問うてくる。

 名乗らないなら無視してよくね?ってこちらも目で返信。

 お姉様の体がまた強張ってるじゃねーか。この幸せな空気を壊しやがって。


 ドアの外側にいるはずのお姉様の護衛が誰かに何かささやいている。マナーについて助言したのだろうか。

 小さく息を吸い込む気配がする。



「アンネヘルゼ様、ルーウェンでございます。ご挨拶に参りました」 


 ……ああ、タイミングが悪すぎますわ。

お読みくださりありがとうございます。

次回は、11月26日(日)22時に投稿します。

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