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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第二章 どうも、シスター見習い(仮)です
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第7話 ラウル兄さまは、シスコンらしい

タイトルをつけました!

「ほらー、また僕のこと、忘れてない?」

「ラウル兄さまのことを忘れられる人間なんて、この世にいないと思いますわ」


 顔が近すぎたから、意識を保つために現実逃避しただけなのです。

 ちなみに、僕って一人称も、後輩ちゃんによると、私の前以外では使ってないらしい。


「アンネさえ僕のことを覚えていてくれたら、僕はそれで十分だよ」


 はい、でましたー。そういうとこだよ、そういうとこがシスコンって言われるんだよ!

 なんとか顔からは手を放してくれたけど、次は頭をわしゃわしゃなでている。


「ラウル兄さま!わたくし、もうすぐ9歳になるんですのよ!」

「そうだね」


 うっ、だから?って顔が最高に美しいです。

 ええ、ご覧の通り、ラウルは無事シスコンになりましたよ!

 といっても、私は、ラウルの実の妹ではないですけどね!

 まあ、私のお母様とラウルのお母様が姉妹だから、確かに血縁的には近いし、それもあって「ラウル兄さま」呼びになったわけですが。


 ラウルの攻略ページを読んだ日の前日、ラウルに私たちの母親が姉妹であることを教えられた。だから、兄のように思ってくれたら嬉しいって恥じらいながら言われたから、ええ、私が!、私が、調子に乗って、じゃあラウル兄さまとお呼びしても?とか言っちゃったんですよ、ええ!


 ……あー、でもラウル兄さま呼びしたときの、ラウル兄さま、とろけそうな笑顔を浮かべてて、やばかったです。あー、イケメン、こわい。


 とにもかくにも、偶然やってしまったことが、攻略本に書かれたとおりだったのは、幸いでした。攻略本によると、今までひとり膨大な精神魔法の力に悩み、周囲から孤立し、心を閉ざしかけたときに私が現れ、以降、本当の妹のようになついてきた私をかわいがり、どんどん過保護になる、らしい。

 

 実際、彼は魔法の塔に預けられた後、家族からの手紙も来ず、周りもその身分の高さと精神魔法を恐れて、あまり近寄らなかったようで、私が来るまでは孤独だったようだ。

 私も同じ公爵家の人間ではあるが、彼は今も魔法の塔の最大の庇護者であるファリオット公爵家の直系の御子息でもあるから、よけいに畏れ多かったんだろう。

 つまり、彼にとって私はようやく怖がらずに話してくれる相手だったわけだ(初対面で気絶してしまったのは、大変申し訳ない。)。


 私たちは9歳になるまでは、魔法の塔から出られない。9歳になったら、年に4回帰宅することが許されて、10歳になったら魔法の塔を出る。

 私より2歳上のラウルは、先月の誕生日で11歳になった。だから本来はもう公爵家に戻っているはずなのに、私のことを心配して、碧の塔の一室にとどまっている。11歳になる年に1年間だけ貴族が通う幼稚舎にも行っていない。

 本人は、聖職者にも興味があるし、幼稚舎で今更学ぶことなんてないからって言ってるけど、ラウルのお母様いわく、私を一人にするのが嫌だかららしい。だから、貴女からもラウルを説得してってお手紙が私に来たときは正直、焦った。7、8歳の子どもに10歳の子どもを説得するようお願いする親もどうかと思うが、叔母様は藁にも縋る思いだったんだろう。

 


 そんな親泣かせなラウルは、いつの間にか横に座っていつものように私の髪をなで続けている。

 単なる「予言者」の私には物語を左右することなんて許されてはいないけれど、これ以上のシスコンになられると、私の心臓が持たない自信がある。

 イケメンは遠くで愛でるものであって、至近距離のイチャイチャは幸せを通り越してただただきつい。



 あー。自分の顔がいつも通り真っ赤になっているのが分かる。貴族たるもの常に感情は隠さねばならぬのに。

 だが、ラウルが幸せそうならば、耐えるのみ。うう、きっと世間的には私も立派なブラコンなんだろう。

 本当の兄弟じゃなくても同じ銀髪金目だから、外見上は麗しい兄妹にみえるはず。……いや、ラウルほど私は美形じゃないから、やっぱり初々しいカップルに見えるかもしれない。


 ただ、私たちが婚約することは絶対にない。

 リアス様いわく、ラウルは100年に1人レベルの精神魔法の使い手で、私は必死に努力すればリアス様に精神魔法では匹敵するポテンシャルがある使い手らしい。

 魔法は遺伝するから、同じ属性の強い魔法使い同士が結婚すること自体は古くから行われてきた。でも、精神魔法はその危険性から、王家を含めてどこかの家に集中することがないように、ってのが暗黙の了解になっている。だから、一定以上の潜在能力のある精神魔法使いの結婚については、王前会議で決定されることになっている。強い魔力をもっていても、家同士のバランスをとるため、独身を貫くことを強いられた者もいるそうだ。

 つまり、100年に1人レベルのラウルと1000年に1人もいないレベルの私の婚約は絶対にありえない。そんなことして、1万年に1人レベルの精神魔法の使い手とか生まれちゃったら、その子が反乱を起こしたとき誰も止められないし、その子を巡って争いが起きかねないから。



「……帰るの、怖くない?」


 いつも甘々な雰囲気ぷんぷんのラウルから弱弱しい声が漏れる。

 今日はきっとその話だろう、とは思っていたが、予想以上に心配されているようだ。


「……大丈夫ですわ」

「ほんとに?」


 子犬のような瞳でじっと見つめてくる。

 精神魔法の使い手は、金色の目が多いとされるが、ラウルと私の瞳の色はとても似ている。


「だって、ここに帰ればラウル兄さまが待っていてくださるんでしょ?」


 ラウルは9歳で帰ったとき、実家でどんな扱いを受けたのだろう。

 ラウルのこの反応を見ていると、あまり心地よい時間ではなかったということは分かる。

 だけど、私も10歳になれば実家に帰ることになるし、ラウルも来年からは聖リアス学園に入学する。そしたら、今までみたいには過ごせない。

 だから、私も兄離れをしなきゃならないし、ラウルも妹離れをした方がよい。それはお互い分かっている。それでも。それでも、今は、まだ。


 ラウルの金の瞳が不安気に揺れている。私には、ラウルの心も不安気に揺れているのが分かる。


「ラウル兄さま」


 ラウルの瞳に映る私はまっすぐラウルを見つめている。


「大丈夫ですわ。私にはラウル兄さまがおりますもの」

「でも……」

「1カ月すれば、ちゃんと兄さまのもとに帰ってきます」



《ラウル兄さまが、私が家族に傷つけられないかを気にしていることも、……家族に受け入れられてラウル兄さまを見捨てるんじゃないかと気にしていることも、わたくし、気づいておりますのよ。》



 精神魔法でまず習うのは、心の防御方法。知られたくないことを読ませないために。

 私たちは、魔法を使う度に強くなるが、成長するだけでも魔力量はある程度増える。

 一定の魔力量を超えた精神魔法使いは、防御されていない心の声を、自然に聞いてしまう。

 だから、その次に習うのは、心の声を聞かないための術。

 ラウルは6歳になる前から、周りの心の声を聞いてしまい、両方の術を自然と身に着けた。

 だけど、私がまっすぐラウルの瞳を見たとき、彼がその両方の術を使うのを放棄しているのを、私は知っている。


 だから、声と心と瞳で伝える。


《わたくしにとって、ラウル兄さまが一番大切な、大好きな家族ですもの》


《ほんとうに?》


《ええ、ほんとうに》


 9歳の誕生日の朝、実家に帰る。そこからまず1カ月は、実家で過ごすことになる。

 両親や姉とはずっと手紙のやりとりはしてきたし、誕生日にはいつもお花やプレゼントも送ってくれた。それでも、いざ対面した時、どんな態度をとられるのかは分からない。

 でも、私は、リヴァルウェン家の娘。ラウル兄さまとは本当の家族ではないし、もう少し大きくなれば、男女である以上、この関係性は続けられない。

 それでも、この3年間、私にとっての一番の家族はラウルで、私が今一番大切にしたい人は彼なのだ。


「時間があれば、会いに来てください」


 たった1カ月離れるだけなのにこの調子じゃ、来年からどうするんですか。

 そんな泣きそうな顔されたら私も、つられて泣きそうですわ。


「うん、……毎日は無理かもしれないけど、会いに行く」


 いや、毎日来るのはだめでしょ。両親がびっくりしちゃいますわ。

 

「大切な僕のたったひとりのアンネ」


 ぎゅーっと抱きしめてくる腕の力が、いつもより少し強い。

 やれやれ、困ったお兄様ですわ。


「ラウルお兄様」


 背中をよしよしする。


「そんな調子じゃ、私が結婚するとき、どうしますの?」


 ちょっと冗談っぽく言って笑ってみる。


「僕もついてく」


 いや無理だろ。

 ぎゅーっがさらに強まる。


 ほんとに困ったお兄様である。




 窓の外の日が沈む。もうすぐ、3年ぶりの我が家だ。

お読みくださりありがとうございます。


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