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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第五章 どうも、雲行きが怪しくなってまいりました
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第54話 間違い探し

遅くなりました。

*修正(24/11/10)

「今日の授業はここまで」

 

 カイル先生が教室を出ていく。


 学校に戻ると、そこには”いつもの日常”があった。

 まるで何事もなかったかのように、皆が私に挨拶をし、時間割通りに授業が始まり、いつものメンバーでお昼ご飯を食べる。

 違うのは、いつも隣にいた、”彼”がいないだけ。


 誰も、”彼”の名前を口にしない。

 ……それともう一つ、席を挟んだ隣の席も空いたまま。

 

「姉様」

「わっ」


 いつの間にか、横にルーウェンが立っていた。なんだか、ものすごく久しぶりに見た気がする。

 既に帰り支度を終えた双子が、ちらりとこちらを振り返る。


「生徒会室に行きましょう」

「え?」

「例の補講、今日はないんですよね?」

「あー、うん」


 思わず素で答えてしまう。

 あれから、結局、私は1週間の自宅療養(実質的には、自宅謹慎に近い)を命じられ、アンセニェ先生の補講については免除された。あと、王子の上申によって、しばらく王子妃教育も保留されることになったらしい(あまりにもよく倒れるから、王子妃としての適正に疑いありとされたんじゃないか、と推測している)。

 ちなみに、今日、王子は公用で遅刻して来た。だから、挨拶含め、まだ一言も話していない。

 あの後、王子の記憶は消されたのか、はたまた口外禁止の魔法をかけられたのか、そこんとこはよく分からない。


「冷たい弟だな。今日くらい、好きにさせてやれよ」


 独り言にしては大きすぎる声で、フラムがつぶやく。


「将来宰相になられるお方は、我々とはちがうお考えをお持ちのようですね」


 珍しく、ブレーキ役のはずのフラメまで毒を吐く。


「……何か、言いたいことがおありのようですね」


 ルーウェンがすっと目を細める。こちらも珍しく、真正面から答える。


「いえいえ、友人がいない方には、酷な要求でしたね。失礼しました」


 にっこりとフラメが振り返る。やめてやめて、確かにこの子、友だち、いないけど!


「……っ」

「ルー」


 この子、最近は何を言い出すか(&何をし出すか)分からないので、ここはすかさず止める。

 ただでさえ、我が家について、今、いろいろなことが言われているのだ。これ以上、噂の種を増やすわけにはいかない。


「そうね、最近行けていなかったし、行くわ」

「お嬢!」


 黙って、というメッセージを、きちんと受け取ったフラメが、今度はいつもどおりフラムを押さえてくれる。フラムが気遣ってくれているのは分かっているが、こういう場面で甘えられないのが高位貴族なのだ。


「行きましょう、ルー」

「……はい」


 瞳の奥で揺れていた炎が、すっと消える。そうよ、あなた、一応冷静沈着クールキャラなんだからね。

 ……っと、いけない、また公式設定でレッテル貼りをしてしまいそうになる。


 ルーウェンとともに、教室を出る。既に王子は教室を出たようだ。先に生徒会室に行っているのか、また、何か公務に追われているのか。よく分からないが、ひとまず今この瞬間、会わずに済んだことに、少しほっとする。


 ずんずん歩いていくルーウェンの半歩後ろを歩きながら、なんだか不思議な気持ちになる。

 この講堂棟に来るのも、すごく久しぶりな気がする。

 そのまま3階の生徒会室に行くのかと思いきや、いきなり腕を引っ張られる。


「ルー?」


 ここはまだ2階だ。

 なのに、ルーウェンは階段を上ることなく、そのままフロアに入っていく。

 その先にあるのは、スペシャル・ラウンジに繋がるエレベーターの入り口だけ。


「ルー!」

「……会長が、お呼びです」

「え?」


 思わず声が跳ねる。

 そういえば、すっかり忘れかけていたが、師匠がラウル兄さまに課した罰(半径3m内でバチバチさせるやつ)は、もう解かれたんだろうか。師匠特製ブレスレッドの3日間はもう終わっているはずだけれど。


「……会長と会えるのは、嬉しいんだ」

「え?」


 今度は純粋な疑問形。だが、少し抵抗が緩んでしまい、ルーウェンの方によろけそうになる。それでもルーウェンは力を緩めることなく、歩みを進める。


「ルーウェン!」


 そのまま受付を通過し、無情にもラウンジへ続く渡り廊下のドアが、すっと開く。

 待ってくれ。本当に、いろいろと。

 いってらっしゃいませ、じゃないんだよ。


 無情にも、扉は閉まり、籠(エレベーターというより、ケーブルカーの方が近い)の中、妙な緊張感がただよう。

 こうなったら、もうどうしようもないから、大人しく席につく。ああ、ふっかふかー(遠い目)。


 ちらりと正面に座る弟を見る。

 ……ばっちり目が合うんだなあ、これが。

 思わず、視線をそらす。

 ほんとは、この状況の説明を求めたいけれど、一言でも不要な発言をすると、何かが終わってしまいそうな、そんな気がする。だから、臆病な私は、口を閉じる。


 体感30分くらい。

 籠が止まり、すっと、立ち上がる弟。

 のろのろと立ち上がる私。


「ようこそ、スペシャル・ラウンジへ」


 いつもの執事風おじ様が、うやうやしく迎えてくれる。

 滑らかに歩く二人に、無言で付いていく。

 ラウル兄さまと会うならば金の間だろう、と予想していたが、どうやらちがうらしい。

 先週初めて存在を知った地下迷路に、またもや潜っていく。


「どうぞ」


 5、6分ほど歩いただろうか。案内された先にあるは、この豪華なラウンジ棟には似合わない無機質な鉄板の扉。

 ルーウェンは小さくうなづき、その前に立つ。すると、自動ドアのように、分厚い鉄の扉が開く。

 その先は、ちょっと良いビジネスホテルの廊下、という感じの暗く細い通路が続いているようだ。


 ここは、どこ?という言葉を飲み込み、また、大人しく付いて歩く。

 廊下には、等間隔に扉が並んでいるだけで、なんの装飾もない。床に赤っぽいカーペットが敷かれていなければ、監獄なんじゃないか、と疑いたくなるようなデザインだ。


「私は、こちらの部屋で待っています」


 真正面の扉のすぐ手前で、ルーウェンは立ち止まる。

 そのまま、こちらの反応を待つことなく、右手の部屋へと消えていく。

 ちらっとルーウェンの背中越しに見えたのは、ソファとローテーブル。おそらく待合室のような部屋なのだろう。


 ああ、ルーウェンもいなくなったし、このまま、勝手に帰っちゃダメかな。

 毎度のことながら、現実逃避を一瞬模索する。

 ええ、……ダメですよね。はいはい。


 大きく息を吸い、扉を軽く3回叩く……応答なし。

 うーん。この場合でも、入って、いいのよね?

 さっき、ルーウェンがやっていたように、おそるおそるドアノブが本来ついているあたりに手をかざす。本当に自動ドアのようだ。すっと、音もなく扉が横に開いていく。 


「失礼します……」


 入って真っ先に目に入ったのは、巨大な天蓋ベッド。

 部屋全体は廊下同様薄暗く、天蓋カーテンもあるせいで、そこに人がいるのは分かるが、それが誰なのかはよく見えない。


「呼び出してごめんね」


 聞き覚えのある声。同い年にしては低めの、それなのによく響く少女の声。


「……ハンナ?」

「うん、……来てくれて、ありがとう」


 天蓋が開かれ、部屋の電気が灯る。


「……!」

「こんな格好でごめんね」


 寝間着でごめん、みたいな調子でほほ笑む彼女の足には、銀色の鎖が巻かれていた。

お読みくださりありがとうございます。

不定期更新ですが、読んでいただけると嬉しいです。

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