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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第五章 どうも、雲行きが怪しくなってまいりました
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第52話 知らないとは言わせない

*一部表現修正しました(24/10/14)。

 がんっ。


 平和な空気が戻り、朝礼も終え、一時限目の座学(古語)が終わろうとする直前、扉が乱暴に開けられた。


「君、今は授業中ですよ」


 立派な髭をさすりながら、おじいちゃん先生が、やんわりと注意する。


「ルドルフ副会長?」


 誰かが小さくその名前を呼ぶ。

 疑問形になったのは仕方がないだろう。辺境伯の縁戚ルドルフ・ラニュレルとしての姿は、その美貌と特徴的な黒い肌からして、編入2週間目にして知らない者はおそらくいない。そのうえ、今日はその瞳が、かの皇国の皇族の証である強烈な紫色に光っているのだから。


「ハンナ、来い」


 有無を言わさぬ、王者の覇気。ああ、やっぱり、あの恐ろしき皇族の血を、彼は引いているのだ、と納得させられる。

 おじいちゃん先生は、ひっ、と小さく声を出したまま、動けずにいる。


「ルドルフ先輩」


 多くが息を飲み、動けなくなる中、すっと立ち上がったのは、我が国の王族、リファリオ王子だ。


「今は授業中です。用があるならば、後にしてください」

「お前に、用はない」


 ルドルフの目は、ハンナをロックオンしたまま微動だにしない。

 ちらりと視線を横にずらす。通路を挟んだ机の下、彼女の手は細かく震えていた。


《ねえ、アンネ?》


 それでも、ハンナの思考は停止していないようだ。恐怖の色を浮かべつつも、それを理性で押さえつける。この状況での感想としてはおかしいかもしれないが、ああ、かっけーな、と純粋に思う。


《これって、あの件よね?》

《……だと、思う。ごめん、一昨日師匠に報告したの、伝えるの忘れてた》


 一昨日お使いに出したスノウは、あれから帰って来ていない。

 伝えた情報量も少なかったから、仮に話が伝わっていたとしても、もっと話を聞こうと師匠から私に何らかのコンタクトが来るだろう、みたいに呑気に考えていた。それに、昨日、ハンナはマナーの補講で王子とのお茶会以外の時間、部屋にいなかったし。……いや、頑張れば今日早く来るとかして伝えられたはず、うん、言い訳よくない。なんでも後回しにする私の悪い癖が出てしまったんだ。申し訳ない。


 タイミング悪く、一限目終了のチャイムが鳴る。

 教室に張りつめていた緊張が、緩む。

 一瞬の沈黙の後、再びルドルフが口を開く。


「ハンナ・バルネア、来い」

「っハンナさんは、何も悪くありません!」


 悲鳴のように小さな声が、左隣から発される。


「ル……ルドルフ先輩は……な、な、何か、勘違いを、さ、されているのだと、おっ思います!」


 震える声で、叫ぶように、シャルネがどうにか言葉を継ぐ。

 友人思いの彼女のことだ、さっき、笑って流してくれたハンナのために、今、動かなきゃ、と思ったのかもしれない。それでも、それは今じゃない。……あなたも、私も、ヒロインじゃないのだから。


「シャルネ・ランスロット」

 

 その声色に、嫌な予感がする。これ以上、この人を喋らせてはだめだ。


「ルドルフ先輩」

「姉様!」


 こちらに関心を移させようと、どうにか立ち上がる。声は震えた、仕方ない。怖いし。

 そこにすぐさま、声をかぶせてくる過保護な弟。


「ああ、そういやお前らもここだったな」


 怒りの色はずっとたちのぼり続けている。

 それでも、ようやく視線がハンナからずれた。 

 歪に上がった口の端は、以前、私を抱き上げたときの、チャラい問題児という彼がこの学園で作りあげつつあった設定を砕きつつある。


「なんだ、その女男は、シスコンぼっちゃん公認なわけ?」

「……どういう意味だ?」


 眉を顰めるルーウェン。ひっと小さく息を吸うシャルネ。その顔は真っ青で、今にも倒れそうだ。


「わかりました、私、行きますから!」


 慌ててハンナが立ち上がる。やはり彼女、一攻略対象者にすぎないシャルネの正体をきちんと知っていたようだ。

 反対側では、過呼吸状態になりつつあるシャルネが喉を両手でおさえている。すかさず、前の席のフラムとフラメが立ち上がる。ああ、このままではいろんな人の秘密が、何のフォローもなしに暴かれて行ってしまう。


「私が、報告したんです」


 怒っている理由が合っているのか、この言い方で伝わるのか、自信はないが、衆人環視のもと、これ以上の言い方が思いつかない。

 横から、咎めるような視線を感じるが、私だって、もう、彼女だけを悪者にしたくはないのだ。


「……」


 再び紫色を帯びた、よどんだ瞳が目がこっちを向く。

 次の瞬間、風が通り過ぎ、気づけば、教室とはちがう部屋にいた。

 さすがに強力な結界がある以上、学園内ではあるはずだ。それでも真っ暗だから、ここがどこか分からない。

 この人、本気出したら、戦場でも一瞬で大将を連れ去るなり、殺すなりできるんだろうな。

 そんな場違いなことを考えて、思わずぞくっとする。


「話せ」


 後ろ、それも息がかかる近さから、声がした。


「お前が、誰に、何を話したのか」


 ガチャリ。後ろに回された手にはいつの間にか手錠がはめられていた。

 耳が優しくなでられる。

 何だか頭がふわふわする。まずい、本当に、これはまずい……。

 これは、緊急事態だ。どうにか、精神魔法を発動させねば。……ああ、やばいやばい。いつもは無意識的に使える防心魔法や読心魔法さえ使えない。手錠に何か細工があるのか。ああ、やばい、本当に、これ、は……。


「アンネヘルゼ・リヴァルウェン」


 名前が呼ばれる。まるで、心から愛する人の名を呼ぶかのように。うっとりとした口調で。

 ああ、おちて、いく。

 自分の声が、どこか遠くで聞こえた。 

お読みくださりありがとうございました。

更新が止まっており、すみません。しばらく不定期更新になります(24/10/14)。

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