第51話 表と裏で話は進む
遅くなりました。毎週休日に更新予定ですが、遅れ気味です。すみません!
*表現を少し修正しました(24/9/22)。
「ごきげんよう、皆さま」
土日を入れると5日ぶり?くらいの登校。なんだか緊張してしまう。
本当は、もっとぎりぎりに登校したかったのだが、貴族夫人たるもの、常に10分前には完璧な姿でいるように、という心構えがあるとかで、遅くとも始業(正確には朝の会)の10分前のちょっと前に登校することになった。
…ううう。
ようやく、今日の朝、学園に帰って来たのだけれども……。はぁっ。
土曜の夕食会の強制欠席により、私の先週の成績はぶっちぎり最下位。すなわち、今週は、授業が終わり次第、あそこに戻って、あの無表情ムチ持ち先生のワンツーマンの補講が毎日開催される。……ああ、いやすぎる。
「アンネヘルゼ様!」「ご体調はもうよろしいのですか?」
既に3分の2は来ていたから、口々に級友から声をかけられる。さっきAクラス以下の生徒からも散々言われた言葉である。正直、まだ休みたい。けど、これ以上休むと本当に不登校になりそうだし、王子妃教育(仮)との関係でも、こうして頑張って来た私、ほんと偉いわ。
とはいえ、このクラスは女子生徒が少ない分、さっきみたいに取り囲まれたり、感動の再会みたいなテンションでグイグイ来られたりしない分ありがたい。ああ、このクラスでよかった。
「ええ、もう大丈夫ですわ。ご心配おかけしました」
「アン姉様」
意図的に視線を教室の奥に向けていたのだが、その切実な声に、なんというか少し罪悪感が湧く。
とはいえ、ここで何かしら弁解をして、あの姉弟は仲が悪いなんて噂されちゃたまらない。
ただでさえ、しばらくは学園の噂の中心人物になってしまうことを避けられないのだし。
「おはよう、ルーウェン。あなたにも心配をかけたわね」《頼む、それ以上(の説明)は待って》
「……いえ、回復されたのであれば」《なぜ。……もう……》
最近、心で会話できるハンナと一緒にいたせいか、思いが伝わらないこの状況がもどかしい。
ルーウェンは、表でも内でも歯切れの悪いまま、視線をそらした。
「おはよう、アンネヘルゼ。無理はしないでね」
「おはようございます、リファリオ様」
その隣の席からも声がかかる。こちらは昨日ぶりだが、お互いそんなことはおくびにも出さない。
婚約者候補の選定が本格化したことで、今後は、この王子様も週末は花の宮で過ごすことが義務付けられるらしい。毎週土曜日には候補者全員との夕食会、日曜日にはその時点の成績に応じた時間・順番で候補者との一対一のお茶会もといデートを重ねることになるそうだ。
ただでさえ、学園での生徒会の仕事も課題もある上、少しずつ王族の仕事も割り振られているらしいから、彼にとってはしんどい時間だろう。以前の様子を見るに、婚約者に対して特に良い感情を持ってなさそうだし。
ひととおり、挨拶を済まし、久しぶりに定位置へと向かう。
ここで、本日のタスク一つ目。
「おはよう、ハンナ、シャルネ」
「おはよう、アンネ」「おはようございます、アンネ」
「おはようございます、お嬢」「はよー、お嬢」
口々にいつものメンバー+ハンナが返事をする。
私に注目しているであろうクラスメートから、予想通り、静かなざわめきが広がる。
《今、愛称で呼んだ、よな?》《あの二人、いつの間にそんなに仲良くなったんだ》《確かに、最初から二人とも席は近かったけども》《生徒会活動で仲良くなったのか?》
小声で話されると中身は聞こえないが、心の声は今日もクリアに聞こえている。
よし、その調子。
「生徒会の仕事もあったのに、お見舞いにも来てくれてありがとう」
「何を言ってるの、友だちとして当然でしょ」《貴族、おもろいなー》
親し気な会話をしている私たちの様子に、今やクラス全員が注目しているのを感じる。
当然ハンナもそれに気づいているようで、瞳の奥がいたずらっ子のようにきらめいている。
《例の件、ハンナさんは悪くない、とアンネヘルゼ様は思っているってことか……》
《むしろ、今までの俺らの態度、やばいんじゃね?》《いや、でも、俺らは別になんもしてないし……》
ようやく狙い通りの心の声が、ちらほら聞こえ出した。
知ってるからね、君らが露骨ではないにせよ、他のクラスの噂話に乗じて、ちょっとこの子と距離を置いてたこと。それも、13日連続日直になっているせいで、この子が朝の会とかで他のクラスの子らからいろいろ言われたり、ぶつかられたりしたとき、それを黙って傍観していたことも。
まあ、それは、この子らも同じなんだが。ちらっと、シャルネ、フラン、フラメに目をやる。
《お嬢がこうやって話してるってことは?》
《お嬢的にはハンナを守ってほしかったってことか?》
フランとフラメが目と目で会話する横で、シャルネが泣きそうな顔でうつむいたのが見えた。
むむむ。ここで、フォローを入れるべきか。
「申し訳ない、ハンナ」「ごめんね、ハンナさん」
目線での数秒間の会話の後、フランとフラメが同時に軽く頭を下げた。
社交界であればめったに見られない光景である。そもそも、高位貴族がそんな簡単に頭を下げちゃ、だめなんだけどね。ただ、今日のところは、見なかったことにしよう。
双子の行動を見て、シャルネの心も決まったようだ。
「……私にも、謝らせてください。ごめんなさい、ハンナさん」
すっと立ち上がり、ぺこりと大きく頭を下げる。普段から物腰は低いし、謝りがちではあるものの、これほど周りから注目されている中で、ここまで頭を下げるのは、彼女なりの誠意なのだろう。
やはり驚いたように、周りのざわめきが強まる。
「……いいえ、私が釈明すべきところ、きちんと釈明もせずにいたのが悪いんですわ」
お上品ver.でハンナがしおらしく微笑む。この2日間の教育の成果を存分に発揮するかのような優雅で寛大な所作である。
茶色の前髪をとめている、白いふわふわの髪留め(彼女の付き人であるシイの分身体)がきらりと光る。加点されたらしい。
おかげで、さっきまでの重苦しい、息をひそめるような雰囲気が、成人貴族たちの間でよく交わされるような、表面上うふふふ、的なものへと変わる。
「……あれ、ハンナさんってそんな口調だっけ?」
「ふふふ、気になさらないで」
「……ハンナ、何か悪いものでも食ったのか?」
「……」《なんや、この子ら、どついていい?》
ああ、もう仮面が崩れかけているよ、ハンナさん。
とはいえ、今もわれわれには、付き人もとい監視役がついているのだから、気は抜けない。まあ、友人との会話であれば砕けた口調で話すことで、むしろ信頼関係を高められる的なことを、今日にでもゴウに言ってみよう。そうしたら、減点はされないはず。
さて、ひとまず、これでハンナも双子とは上手くやれそうだ。
あとは……。ちらりとうなだれた様子の友人に目をやる。
「いろいろと、よくない噂が流れているようね」
だから、変な態度をとってしまったことを、そこまで気に病む必要はないわよ、との思いを込めて、隣の席につく。
「それでも、……直接ハンナさんに聞かずに決めつけてしまったのは、私たちだから……」
それでも、シャルネは落ち込んだままだ。ずーんという灰色の色が彼女(彼)の綺麗な白髪をくすませる。
彼女(彼)としても、きっと葛藤があったのだろう。それでも、皆が噂するように、私が陥れられたのでは、と思って、まだそれほど親しくないハンナと距離をとったとしても、それはおかしなことでも、不義理なことでもない。
それに、なんてったって、ハンナよりあなたの方が身分ははるかに高いのだ。過剰に落ち込む必要はない。
そんな思いを込めて、シャルネに微笑みかける。
「ふー、うん、この話はここで終わり!」
ハンナが、ぱんっつと手を叩く。その音に、シャルネも思わず顔を上げる。
「これからは、ちゃんと話すから、仲良くしてくれると嬉しいな」
まるで少年漫画の主人公のように、ひまわりのような笑顔を浮かべ、手を差し出すハンナ。
その顔をまぶしげに見ながら、小さくうなずき、シャルネも遠慮がちに手を差し出す。
息をひそめるように見ていたクラスメートの誰かが、小さく拍手をした。
なんというか、これまた変な話だが、それをきっかけにクラスに温かな空気が広がる。
うん、これで、このクラスはたぶん大丈夫。
私は、心の中で、一つ目のタスクの完了欄にチェックをした。
お読みくださりありがとうございます。
少し話がゆっくりになっていますが、お付き合いいただけますと嬉しいです!




