第49話 犯人は……
*一部表現を修正しました(24/9/1)。
「……何が起きてるの」
後輩三人組が退出し、入れ替わりに私たちの付き人が戻って来た。つまり、実質、今、この部屋にいるのは私たちだけ。
軽く説明しておくと、この付き人、使者として王宮から派遣され、今後、候補者の生活をサポートするとともに、365日24時間体制で私らを監督(監視)し、アンセニョ先生に報告する役割を担っている。
ただ、彼について、語られずとも分かったことがある。……勘の良い方であればお気づきだろう。彼も攻略対象なのだ。だから、攻略本を確認すれば、その本名も経歴もすぐに分かった。アンセニョ先生絡みのストーリーを復習していたときに目を通していたから、幸か不幸か、彼を見た瞬間分かってしまった。
私に対しては「ゴウ」と名乗った、この見た目10歳いかないくらいの美少年は、残り4人の付き人とまったく同じ顔をしている。事情を知らない人が見れば、五つ子にしか見えないだろう。実際、攻略本では、婚約者候補2人が顔合わせしたとき、相手の付き人の顔を見て、「あら、あなたたち、双子なの?」という選択肢が登場する。それに対する答えは、「ふふふ、不思議でしょ?」だ。
ちらりとハンナの側に控える少年の顔を見る。
「そうだわ、紹介し忘れておりました。こちら、私の付き人、シイと申しますの」
「シイでございます」
いつもより10割増しくらいの丁寧な口調と高い声色でハンナが”彼”を紹介する。
ちゃんと先生に報告されていることを見越して、なのだろうが、ちゃんとした教育を受けていないらしく、この世界、この国の貴族の振る舞いとしては少し動作がおかしい。
「そう、よろしく。こちら、私の付き人、ゴウよ」
「ゴウでございます」
シイとまったく同じ表情、声、動きでゴウがお辞儀をする。
その瞬間、一瞬、ハンナの肩が揺れた。
《まって、やっぱり、じゃあ、あとの3人の名前ってさ?》
《イチ、ニイ、サンなんじゃないの》
《やばい、つぼるわ、ちょっと待って》
ハンナと出会って初めて、彼女が心の声を聞こえる人であることに感謝した。
……まあ、合間合間に声に出して会話しないと、無言で向かい合っている人になっちゃうけど。
なんとか笑いをおさめたらしく、ハンナが顔を作って、同じようにゴウにも挨拶を返す。
「このまま少しお時間をいただいても?」《アンネヘルゼ様、この子らの正体わかってるん?》
「もちろんですわ」《一人ってことは知っているわ》
「ありがとうございます」《うわぁ、やっぱり、結構やりこんでた勢やったんか》
「ちがうわ」
「アンネヘルゼ様?」《心の声、口にでてるでー》
……むずかしい。会話が。貴女、よく心の声だけ関西弁でいけるわね。器用か。
それに、ハンナは単なる元プレーヤーというだけのはずなのに、どうやら彼の正体も覚えているようだ。……まさか50人の設定全部を覚えているのか?
「ごめんなさい、その、少しいつもより他人行儀だから、いつもとちがうわね、と」
「ふふふ、そうですわね、では、いつものとおり、アンネと呼んでも?」
いやいや、いっつもアンネヘルゼ様呼びじゃん、あなた。
とはいえ、会話の沈黙時間を短くするうえで、その呼び方されると、ちょっと長いのよね。私がしゃべり始めるまでが。
「……もちろんよ」
「さすがだわ、アンネ。貴族であっても、心を許した者しかいない空間では、むしろきちんとその親しみを示すべき。……以前、そんな話もしていたものね。本当に尊敬するわ」
なんだかよくわからないうちに、なんだかよくわからない設定を押し付けられた気がするが、……話をしたかったのはこちらも同じ。今は深く考えないで置こう。
にしても、そのうちボロが出そうだから、できれば完全に二人きりで話したいところ。
もはや、心の声ではなく、目で語り合う。
「シイ、少し下がっておいてもらえない?」
「もうしわけございません、ハンナ。私たちを下げる特権は、上席様にしかないのです」
失敗。その上席ってのは、あれか、この順位最上位、つまり、現時点での婚約者候補トップって意味よね?おそらく。
「そう。……教えてくれてありがとう。では、少しだけ、ここでアンネとお話ししても?」
「お話しなさるなら、談話室をお使いください。ご案内いたします」
お、おう。なんというか、従者とか使用人とかではなく、招待客をもてなす、この家の執事のような風格がある。
見た目は8、9歳だけど。……えっと、今の実年齢はいくつなんだ?×5したら、40歳超えてる?
「そう、でしたらお願いいたしますわ。ゴウもそれでよろしい?」
「はい」
声をかけると、ゴウはこくりとうなずいた。金赤と白のグラデーションの髪の毛も、いっしょにひょこひょこ動く。かわいい。
一応、個体差があるのかしら。シイよりも幼い感じがする。
「では、アンネ、参りましょうか」《まさに合法ショタだよね》
「ええ、ハンナ」《言い方》
一、二、三、四、五、というかなり雑な名づけをしたのが誰かは知らないが、”彼”の本名は「ルナール」。実家はお取り潰しになったモルフォーズ伯爵家。覚えているだろうか?ユーリの母親の実家である。同じく品種改良のような子作りにより生み出された彼は、狐の変身魔法に特化し、生まれた瞬間から、尻尾と耳が生えていたという。
つまり、変身魔法の強い属性を持って生まれた、ということなんだけども、複数の、それも獰猛な動物の変身魔法を理想とする当主からすれば、狐は失敗作だった。そのため、すぐに母親から引き離された彼は、他の失敗作の兄弟たちと同様、屋敷地下深くに閉じ込められ、次の世代を生み出す種となるか、優秀な兄弟たちの練習の実験台になって短い生を終える予定だった。
だが、出生時の簡易鑑定を担当した伯爵家お抱えの鑑定士(実は王宮からのスパイ)が、彼に分身術の潜在能力があると見抜き、それを耳にしたハルツ家(アンセニョ先生の実家)が生後間もない彼を密かに救出したそうだ。そうして、引き取った彼に、ハルツ家当主は名前と役割を与えた。それが、王家の子息・子女の婚約者候補の付き人である。
実年齢は、攻略本によると、ヒロインより二回り近く年上。分裂すると、分裂した数だけ見た目が幼くなるらしい。つまり、5人に分裂している今の見た目は、7、8歳当時の彼の姿ということだ。
先頭のシイにつづいて、部屋を出る。ここは、2階の一室らしい。私たちの部屋はそれぞれ1階の花弁部分に割り当てられ、2階が教育用、3階が王族のスペースだとか。
さて、移動中の今なら無言でもおかしくないわよね?
《ハンナ、何が聞きたいの?》
《なんで私らが婚約者候補になったか、が知りたい》
《その子になんて言われたの?》
《なーんも言われてへん。いきなり昨日、内示を渡されただけ》
《そう》
《そういや、体調大丈夫なん?顔、かなりやつれたように見えるけど》
《どうにか。来週からは登校するわ》
《ほんまか。まあ、無理はせんときや。今、学校の雰囲気かなり悪いし》
《……あなたこそ大丈夫なの?》
わざと優雅にゆっくり歩きつつ、心の会話のテンポはどんどん速くなる。
《大丈夫……ではないけど、まあ、なんとかなってる》
《あなたのことは疑ってない。でも》
《あの風船を用意したんは確かに私や。空気入れたのは副会長やけど》
《え?王子が?》
思わず顔を見る。家の者に出来上がった風船を用意させたんじゃなかったのか。
《ちゃう、仕事しない方》
「え!?」
思わず再び声が出る。思わず振り返ったシイに訝しげな目を向けられるが、それは無視する。
なんで私は真っ先にそこを調べなかったんだ。
いくら部屋から出られない、部屋にも人を呼べない状態だったとはいえ……。
……そうだ、だって「ハッパ」と一番因縁があるのは……あの人だ。
「アヌアーレ王国の大虐殺」で使用され、一躍有名となった魔法を使わない化学兵器。彼の母親は、かの王国の元王女。……でも、なぜ?あそこで撒いたところで、彼に何の得がある……?
《誰かにそのこと、話したの?》
《言えるわけないやん。あの人の正体、私は知ってるんやから》
この大きくはない王国の、きわめて身分の低い男爵令嬢が、かの大帝国の皇太子様の不祥事を告発して、誰が聞いてくれるわけ?
その目は、そう言っていた。
《もし、もしもルドルフ副会長が犯人だとしたら》
《うまくやらんと。最悪の場合、うちの国、滅ぼされるんちゃう》
杞憂だ、大げさだ、と笑い飛ばすことはできなかった。
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