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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第五章 どうも、雲行きが怪しくなってまいりました
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第41話 師匠からの課題

*表現を一部修正しました(24/7/7)。

 ゆっくりと意識が浮上する。

 あー、久々の感覚。


 魔力枯渇したのは、魔法の塔で、どうにか火の魔法を使おうともがいていた9歳が最後だったはず。そう、確か、一時帰宅中、ルーウェンの火の魔法を見て、なんだか悔しくなったんだっけ。お父様もお姉様も、こんなにうまく使えるのに。私は、人前では見せられないような魔法しか使えない。それは、きっと、私の努力不足なんだって。

 あのとき、普段からテキトーなことしか言わない師匠に、初めて本気で怒られたんだっけ。使い手が少ない、僕たちの魔法でしか救えないこともある。それを、お前は、多数派じゃないからって否定するのか、って。お前は、精神魔法使いとして、こんなにポテンシャルがあるのに、”その他大勢”みたいに、僕やラウルのこと、恥ずかしいって思うのか、って。


 正直、そのときは、精神魔法の名家の人間である師匠やラウル兄さまに、私の気持ちなんてわかんないでしょーが、って思った。火の魔法の宗家ともいわれる実家で過ごす中で、皆に怖がられる精神魔法しかほとんど上手く使えない自分が、塔の外ではいかに異質な存在か、ひしひしと感じてしまった。

 特別な魔法なんていらない。みんなと同じ、ふつうになりたい。前世の自我があるがゆえに、周りの目を過剰に気にしていたのかもしれないが。……って過去形で語ってはいるけど、その思いは今もあるんだよなー。だいぶ割り切れるようにはなってはきたけど。いやー、高等部に入ってから、実技のテスト、どうしよう。あーあ。


 ただ、少なくとも、今日、無事に乗り切れたのは、私の魔法のおかげじゃない?いや、あの粉みたいなやつが何かなんてまだわかんないけど。

 ……そうか、もし、万が一、あれが無害なやつだったら。単に私が問題をおっきくして、勝手に倒れたってことになるな。……うううう、知りたい、……でも、知りたくない!



「……ねえ、起きたんだったら、早く目ぇ開けてよー、僕も暇じゃないんだけどー」


 聞き覚えのある声にぱっと目を開ける。見覚えのある天井。はい、医務室ですね。

 しっかりと閉ざされたカーテンの内側には、私と銀髪の男が一人。

 ご自慢の銀髪、久々に見ますが、相変わらず、お美しいですねー。


「……師匠」

「はーい、どうもぉ、自分のキャパよくわかってないアホな弟子のせいで、王都からはるばるやってきましたぁ、王宮からの使者、メサジェちゃんでーす☆」


 相変わらず、へらへら顔やめれ。あと、そのテンションで喋るなら、目も笑ってくれ。


「……ご心配おかけしまし、た?」

「そーだねぇ、ちゃんと心配もしてるよ。その魔道具、結構作るの大変なんだからね」


 あ、私じゃなくて、そっちですか?ちらりと補助具を触る。


「なんでわざわざ火つけるかなー。ちょっと広めに範囲指定したら、あの優秀王子様なら、同じこと、できたでしょ」

「……」

「自分でなんとかしなきゃって考えるの、よくないよー」

「……はい」

「あと、セレモニーで軽く火魔法使うのはいいけどさー。アンちゃん、なんか勘違いしてなーい?わたし、火の魔法使いです!こんなに上手に使えます!みたいなのさせるために、これ、あげたんじゃないんだけど?」


 耳もとのピアスにさらりと触れる。

 顔も近いしわりとドキドキするシチュエーションのはずなんだけど、甘い雰囲気は全くない。

 わりかし、マジで怒ってらっしゃる。いうなれば、氷のナイフを首元に突き付けられている感じ。


「君さ、そんなに目立ちたい訳?」

「そんなこと」

「ラウルも悪いけど。……ていうか、僕、警告したよね?」


 ……そうですね、一年前、ご親切にアドバイスくれたのに、完全に逆方向に走っていますね。ええ、自覚してます、すんません、バカな弟子で!


「君とラウルが近づきすぎると、嫌がる連中が王都にはたーっくさんいるの」

「……はい」

「国家転覆罪とか、嫌でしょ?」

「……」

「君のお姉さんの従者以外にも、君たちを見ている人はいーっぱいいるの。報告が上がってくる度、僕がどんな気持ちでいるか分かる?」

「……すみません」

「それは、何に対する謝罪?」


 思わず、唇をかむ。あー、不自由だ。自分で望んでこんな魔法適性で生まれたわけじゃないのに。そもそも、100年に1人レベルのラウル兄さまと、2000年に1人レベルの私を同じ塔に入れたのは、おめーらだろうが。……家族から突然隔離されて、奇異なものを見るかのような目で見られて。同じ境遇に追い込まれた者同士、支え合って何が悪い。


「はぁっ」


 わざとらしいため息。13歳なんだから、これくらいは、拗ねさせてほしい。


「何を浮かれてるのか知んないけど、そろそろ僕も限界だからね」

「……どういう、意味ですか?」

「別に君がこの学園に通う意味って国からしたらないわけ。むしろ、君がそういう魔法をばちばちに使えますって知られるリスクが上がったらさ、マイナスの側面の方が多いの。わーかーる?そーいうポテンシャルもって生まれちゃった以上、もう、僕と同じ、国家の犬になるしか、君には生きる道、ないの」

「……おっしゃっている意味が分かりません」

「操る魔法、使えるようになってきたらしいね?」

「……」

「自分は、ラウルと違って、心を読むことしかできないから無害ですって思ってた?」


 今も、この空間には防音魔法と認識阻害魔法がびっちりかけられている。師匠の気配に気づく前だったから、防心魔法も、この人との関係では、ほぼ無意味。意識的に心をまっさらにするが、この人、記憶も読める系なので、たぶんもう、全部知られている。

 この魔法は、春休み中、現実逃避の一環として試行錯誤しているうちにできてしまったものだ。だから、ラウル兄さま含め、誰にもまだ話していない。余計なことをやって、自分で墓穴を掘ったようだ。


「どんな魔道具も出し抜く読心魔法だけでも、すーんっごく重宝されるのに、なんで自分でより危険な方向に進むかな。あ、何?バレないとでも思ってたの?君の頭、そんなお花畑だっけ?」


 師匠の(悪)口が止まらない。


「たかが、ハッパが撒かれたくらいで、情報局トップの僕がわざわざ来ると思う?」


 内務省情報局は、中央直属の情報機関だ。その名の通り、情報の収集、捏造、操作などを中心的に担う少数精鋭の魔法師集団だと聞いている。師匠は、そこに14歳で入局し、瞬く間に成果を出して、16歳には副局長になっている。局長になってしまうと、王前会議に出席しなければならず、いろいろと不都合なことがあるとかで副局長にとどまっているものの、あそこは完全に「僕のお城」らしい。


「葉っぱ、だったんですか?」

「火が付いたら爆発するし、水に溶けたら有毒になる、触れたら皮膚が溶けて、飲んだら体中が緑になって7日で死ぬらしいよ」

「えっ」


 ぞぞぞ。鳥肌が立った。何それ、そんな植物あるんですか?


「知らない?皇国で製造されて、アヌアーレ王国の大虐殺でバラまかれたハッパ」


 ……なるほど、葉、ではなくて、「ハッパ」という名称の人造植物?毒物?兵器があるらしい。

 アヌアーレ王国は、ルドルフ(皇太子の偽名)の母方の実家。現時点では、皇国に滅ぼされた最後の国だ。


「……知りません」

「そ?じゃ、今日ここでの話はぜーんぶ、秘密ってことで!<約束>だよ!」


 師匠の金色の目が光る。あー、いやだ、言霊魔法、見えると超気持ち悪いんだ。だけど、抗えない。まだ。

 きっと、今、一瞬私の眼はとろん、として、こっくりとうなづいたんだろう。本当に、だから、嫌なんだ。この自分の体なのに、他人に操られる系のもの。


「……勝手に秘密をばらして、言霊魔法(それ)使うの、やめてくれません?」

「やだなぁ、気になってたんでしょ?自分が事を大きくしちゃったんじゃないかって?」


 こちらの気持ちは筒抜けですもんね、ええ、ええ、そうですよ!

 つか、そんなの流通してるんですか?それに、そんな危険なものが撒かれたなら、わりとあなたが登場してもおかしくない案件では??


「あの量だったら、粉に触れた数人が火傷するくらいで終わったはずだけど」

「……つまり、私が余計なことをした、と?」

「うーん、微妙?」


 そこで疑問形、やめて。


「今んとこ、その火傷跡、消せないらしいし、第二王子の婚約者候補のいる卓に降りかかるところだったらしいじゃん?だから、結果的には、グッドジョブって感じじゃない?」


 乙女のように髪の毛をくるくるさせながら、なおも疑問形で話す師匠。一応、今日の私の動きは、間違ってなかったってことで?


「意味不明な炎の鳥の演出をしなければ、今日は、褒めてあげたんだけどねー」


 いや、でも、あの鳥だしたの、ラウル兄さまですし。


「あ、ちゃんとラウルには、ペナルティ、加えといたから」

「……ぺなるてぃ?」

「罰って意味ね。3日間、僕特製、対精神魔法禁止ブレスレットを装着しといたから、明日はきっとお休みじゃない?」


 おう。僕特製……つまり、一般に流通している制御ブレスレッドの上位互換的なもの、ってことか?

 それって、息を吸うように読心魔法と防心魔法を使っている私たちに装着すれば、ずーっと不快感と耳鳴りに襲われることになりますよね?


「あと、1週間、君たちが半径3m以内に近づいたら、全身を痺れさす系のも付けちゃった☆」


 ドSかよ。あなたのことだから、それ、かわいいいたずらレベルのじゃないでしょ?そんなの、しつけのレベルを超えてる。


「なにー、こんなに親切に忠告に来てやった師匠を、そんな目で見つめるなんて、悪い子だなー」


 さらに顔が近づく。次は私のおさげを、指でくるくるしながら、目は離さない。


「生徒会に入っちゃった以上、ある程度の接触は仕方ないけど、それ以外は、ちゃーんと(つつし)んでね?」

《次、僕が君の前に現れる日が、君の退学日だから》

「……」

「返事は?」

「……はい」


 よーくできました、とでもいうように、うんうんうなづき、頭をなでてくる。


「じゃ、僕、報告に帰るから。学園内のウワサの処理は、頑張って!」


 ……ウワサ、ですと?

 なになに?そんなことも想像できないの?って顔、やめてください。……むかつくんで。


「誰かが、危険物を1-Sクラスのテーブルに巻こうとしたってことは、もう噂になってるよ」

「……」

「当初の有力説は、どっかの四大公爵令嬢が、第二王子の婚約者になるために取り巻きにやらせたらしい、ってやつだったんだけど」

「え?」


 それって私ですよね?私、むしろ皆さんを守ろうと無計画に魔力使って倒れたんですけど?

 それに私みたいな陰キャには、お姉様とちがって、取り巻き、全くいないですけど?


「今の多数説は、最近Sクラスに上がったばっかの男爵令嬢らしいよ?」

「……」

「さー、未来の情報局員として、頑張って解決して、僕に知らせてね☆」

「……は?」

「早く解決してくれたら、ラウルの罰、ちょっとは軽減してあげるから」


 カーテンの外で、遠くから誰かが近づいてくる足音がする。


「じゃっ、健闘を祈る!」


 意識を一瞬そらした隙に、師匠は消えていた。

お読みくださりありがとうございます。

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