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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第五章 どうも、雲行きが怪しくなってまいりました
40/56

第40話 事件発生

今回は短めです。

*表現をいくつか訂正しました(24/6/30)。

「アルジャン先輩」

「うん」


 反射的に声をかけると、アルジャンも同じ方向を見つめていた。


《風船が割れた、か。破片の回収を頼んだ方がいいかな》


 抜群の聴力で、事態を瞬時に把握する。やはり頼りになる先輩である。……通常の事態ならば。


「先輩、私が(対処します)」

「そう、じゃあ、お願い」


 会話の途中だが、いったんフリーダに微笑みを向けてから、後ろを向き、バッジに話しかける”振り”をする。

 上空で割れた赤い風船。かなり高い位置にあるから、アルジャン先輩には、風船が割れた、という事態しか見えて(聞こえて)いないだろう。だけど、私には、「見えて」しまった。同時にまき散らされた、悪意の色をまとう何かが。


《ラウル兄さま!》


 バッジで話しかけると、誰かに聴かれる可能性がある。少なくとも、アルジャン先輩は聴き耳を立てているはずだ。だが、いくら非常事態とはいえ、今、私の能力がばれるわけにはいかない。

 本部方向にいるラウル兄さまに意識を向ける。


《どうした?非常事態?》

《はい。会場の、Sクラスのテーブルの斜め上にある赤い風船が割れ、そこから何か、危険なものが、まき散らされました》


 あー、こういうとき、端的に情報を伝えるの、難しすぎる。

 ラウル兄さまは、ちらりと上を見上げ、台座がひとつ空になっているのを視認したようだ。


《王子?弟?》

《王子にお願いします》


 それでも私の意図は伝わったようだ。我々の得意魔法である精神魔法では、物理の脅威には対処できない。

 ラウル兄さまが、リファリオ様に声を掛ける様子が見える。

 上空高くの割れた風船のかけらに目をやる。割れた瞬間にふわーっと広がった感じからして、何か粉のようなものが風船内に入っていたようだ。幸い、他の風船は割られていないし、その粉のようなものも、ふわふわと落ちてくるため、生徒にふりかかるまでは、あと数秒はある、はず。


《私が、3、2、1の合図のあと、対象物に火をつけるので、その火がついているものをすべて一カ所に風で集めて、氷なりで固めてください》


 王子が使える魔法を、なぜ知っているんだ、みたいな余計なことをラウル兄さまは言わない。

 なお、この炎をつける、というのは、開会の花火のためにつけているルーウェンから魔力を借りる魔道具を付けているおかげで可能なわざだ。……正直、火を付けたら、粉が爆発する可能性もわりとあるんだけど、王子に対象を認識してもらうのには、この方法しか今は思いつかないのだ。

 ……いや、実は、最近、練習している精神魔法を使ったら、(王子が同意してくれれば、ではあるんだけど)王子を操ることもできる、かもしれないんだけど、そんなの説明している時間はないし、仕方ない。


《いいよ》


 ラウル兄さまの返事に、軽くうなづく。

 息を吸う。……うまく行きますように!


《いきます、3、2、1》


 悪意の色(絵具をぐちゃぐちゃに混ぜた汚い灰色)にまみれた粉のようなものを視野におさめ、親指と人差し指を、しゅっとこすり合わせる。


 ボッ


《あ、やば、燃える系だわ》


 ……うぁー、やばいぃ……爆発する!

 異質な真っ白の光が、風船のかけら中心に、急に広がる。会場のほとんどの人が顔を上げた。

 集中のし過ぎか、すべてがスローに見える。アルヴァンから、会場を覆うような水の膜を作り出す魔法の発動を感じる。だが、たぶん、それじゃ間に合わない……。


《大丈夫》


 逆再生されるように、燃える粉と風船のかけらが、もともとその風船が設置されていた台へと吸い込まれていく。王子の風魔法だ。泥団子のように固められたそれらは、氷魔法で固められ、発光するのをやめた。ついでに、会場の宙に設置された各風船に、土属性の強化魔法がかけられたのまで見えた。……王子、優秀過ぎ。

 光が消えるのとほぼ同時に、ラウル兄さまの幻覚魔法も発動する。その台座に載った泥団子こと氷の塊が、遠目にも見える大きさの卵へと形を変えた。ぴきぴきぴき、との効果音付きで、割れ目が入り、中から火の鳥が飛び出す。

 

《続き、いける?》


 ラウル兄さまの声が聞こえる。目撃された以上、ひとつの演目のように仕立てよう、ということだろう。


《やります》


 ラウル兄さまが思念で送ってきたイメージは、わりと魔力の消費が激しそうだ。とはいえ、やるしかない。

 言い訳させてもらうと、補助具はあくまで、精神魔法の適性が高い私の魔力を、火魔法の適性が高いルーウェンの魔力と1対1で混ぜることにより、火力を倍にしたものにすぎない。ここでいう適性が高いっていうのは、自分の魔力を100込めたら出力100で使える、という意味。私の場合、火魔法は、100込めて、なんとか20ってとこだ。なお、精神魔法と火魔法以外の魔法は、適性がない以上、出力は0となる。

 で、補助具の役割は、、自分の魔力50に、ルーウェンの魔力50を足しても、本来60にしかならないところ、何かをどうかして出力80にする優れモノだ。仕組みは知らない。長期的な害はないらしいけども、わりと疲れる。そのうえ、開会式とさっきとで既に結構使ったあとだ。正直、もう、頭が痛い。でも、私が火を付けて悪化させかけた以上、やるっきゃない。


 でもさ、ラウル兄さまが今、会場中の観客に見せている火の鳥は、さすがにでかすぎますわ。だから、ちょっと小さくして……。

 ぶるぶるっと首を振った火の鳥の幻の後ろに、実態のある火の鳥を作りあげる。ラウル兄さまの魔法が切られた。

 火の鳥を、会場をぐるりと回るように飛ばす。飛ぶと徐々に小さくなる、という設定は勝手につけたした。一周回り、高度を下げた火の鳥は、さっき会長が挨拶をした演台のマイクの上に、静かに降りたつ。もう一度、両翼を広げ、すっとお辞儀。会場中が拍手で包まれた。


 《うわぁ、すごい》《びっくりしたあ》《さすが、生徒会!》《心臓に悪い演出ですこと》


 皆、だまされてくれたようだ。

 もう、いいだろう。頭がガンガンする。すっと、人差し指を振り、火の鳥を消す。

 もう一度、拍手。


《お見事》《アン姉様!》

 

 ラウル兄さまからの労りの言葉と、ルーウェンの心配する声が聞こえた。

 とっとっと。


《ちょっと、やばい、かも、で、す》


 報連相、ちゃんとしてから、倒れよう。はは。

 視界が真っ暗になった。

お読みくださりありがとうございました。

ちなみに、アンネは、魔法の色と感情の色が見えるわけですが、魔法の色は、オーラみたいにその物を囲むように見えて、感情は、基本は人から、直線で出ているように見えます。

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