第39話 貴族の子は貴族
*タイトルを変更しました(24/6/22)。
*表現等細かな修正をしました(24/6/22)。
「皆さん、改めて、ご入学おめでとう。今日が、今後ともに学び、刺激し合い、助け合うことになる仲間たちと、大いに語り合い、その仲を深める良い機会になることを願っています。……それでは、茶話会を始めましょう」
壇上のラウル兄さまがすっと手を斜めに振ると、今日のためにわざわざ王都から駆けつけてくれた王立楽団の演奏が始まる。小さな薔薇の花火は、私とルーウェンの魔法だ(形を操るのは私の方が得意だが、いかんせん火の魔法の魔力自体は圧倒的にルーウェンの方が強いので、補助魔道具でルーウェンから魔力を借りた)。色とりどりの風船は、リファリオ王子の風魔法で一斉に空へと飛び、天井(これまた魔法で浮いている)近くに備え付けられた、燭台のような台(これはリファリオ王子が土魔法で生成)の上に着地した。
会場中から、拍手と、わーっという雰囲気が盛り上がったのは、ラウル兄さまがご自身の声に混ぜた、精神魔法の効果だろう。本来、精神魔法って、そんな気軽に使っちゃだめなんだけど、生徒会顧問たる我がクラスの担任カール先生が、めでたい席なんだし、いいんじゃね、って言ったらしい(その理屈は、よくわからないが)。
とはいえ、ひとまず、茶話会が始まりました。現在の時刻は、13時3分。16時半終了予定。どうか、ほんとうに、何も起きませんように!(フラグじゃないよ!)
無線のような機能もある胸元の生徒会バッジを思わず握りしめてしまう。
壇上から降りたラウル兄さまとリファリオ王子が、いったん会場の隅っこに用意された執行部席に帰ってくる。
「今のところは問題ないようだね」
「はい、会長。リファリオ様もお疲れ様です」
「会長!」
ルーウェンとともに座席を回っていたハンナが、小走りで帰ってきた。
「どうしました?」
「Sクラスのテーブル、やはり座席の交換がされていました」
Sクラス5人に同じテーブルに着かせる&席取りで揉めさせないがために、125人の座席を指定するという大変めんどうなことを(アルジャンが)したものの、(アルジャンが)予想したとおり、会長&副会長の座るであろう空席の隣の奪い合いが起きたようだ。
手もとの資料では、壇に一番近いところに用意されたSクラスのテーブルは、壇を見やすいように、という建前のもと、壇側の端を空席とし、5人を端から五十音順に並べている。こうすると、ちょうど空席の両端が、例の侯爵令嬢3人”以外の”2人になるのだ。この座席配置を正当化(?)するため、Aクラス以下も同様の規則性に従い、座席を割り振っている。
「一応、注意はしたんですが……」
「お二人が、自分は背が低いからできる限り前に座りたい、的なことを言ったようです」
「二人というのは?」
「フリーダ様とモネリア様です」
出席番号2番、フリーダ・シュルリア。昨年、前会長ハウルの婚約者候補から外れたダリアナ嬢の妹ぎみだ。今年の貴族名鑑によると、シュルリア家は、木属性の魔法を得意とする王臣侯爵家第4席。
他方、出席番号4番、モネリア・シャリヴァールは、いわゆる新興侯爵家に位置づけられるシャリヴァ―ル家の長女。ただし、新興侯爵家のなかでは最古参の三家のひとつで、第5代国王の時代に「魔法の塔」の物理的な守護者として、国王のご息女とファリオット公爵家のご子息により立てられた、「新興」という名称にそぐわない、伝統ある侯爵家である。
昨日、配布されたリストの注意書きによると、主にこの二人が幼稚舎で対立していたようだ。
「ただ、ポーラさんも、席を譲られたアリアさん、ワルターくんもそれで良い、という態度でしたので」
「それ以上は言わずに、戻って来た、と?」
「……はい」
もう一人の侯爵令嬢が、王臣侯爵家第5席のキュピラルト侯爵家の長女、ポーラだ。残り二人、アリア・ラメロンは、我がリヴァルゼン公爵家の分家筋のひとつだが、彼女は一人娘で、婚約者が既にいる。ワルター・ワルヴィンは、新入生Sクラス唯一の男子(攻略対象者の一人でもある)。この二人も伝統的かつ有力な名家の出だが、伯爵家ということもあり、侯爵家の二人の意見に異は唱えられないだろう。
ラウル兄さまは何も言わず、手もとの座席表に何かを書き込んでいる。
ルーウェンやハンナに怒っている、というよりは、想定内・やむなし、という感じだ。
「じゃあ、次は、アルジャンとアンネ。見回りを開始してもらえるかな?」
「はい」「りょーかーい」
今年の執行部役員のタイムスケジュールは、こうだ。
まず、30分前に開場し、各クラスごとに座席を示し、入場させる。全員の着席を10分前には終了させ、そこから、書記・書記代理ペアが、座席通りに新入生が着席しているか、を中心に何か問題がないか、見回る。次に、開会式。副会長からの諸注意、生徒会長挨拶と開会宣言。
今年は、王族・公爵家・辺境伯爵家という超高位貴族が生徒会役員にいる一方、新入生の最高位は侯爵家子息。だから、すぐに席移動自由にしてしまうと、新入生同士の親交を深めるという本来の目的が没却され、結局、生徒会役員のもとへ新入生が押し寄せる事態が見込まれた(さすがにホスト役が、各テーブルを周り終えるまでは、各自着席はしているだろうけども)。
そこで、最初の45分間は、各テーブルで仲を深めてもらい、軽食をサーブする、という形式に変更した。その後の15分間で会長・副会長ペアが座席を周り、声掛けをし、残り2時間のみ、自由時間とした。
ただし、この最初の45分間も、何か問題が起きていないか、を見回るため、副会長代理・会計ペアが出動する、ということとされた。(なお、一番問題を起こしそうなルドルフ副会長は、生徒会室で留守番させられている。どうせ、2階のソファで寝ているだろう。)
「では、アンネヘルゼさん、行きましょうか」
「はい、アルジャン先輩」
今日はぱっと見て生徒会役員と分かるように、我々はバッジのみならず、「生徒会役員」と書かれた紺色の腕章をつけている。そのため、なんだか、いつもよりも背筋が伸びる。
我々の役割は、各テーブルで軽く声をかける、というもので、各テーブルに着席して声掛けする会長たちよりは緩く、遠目に見回りをしていたさっきのペアよりは、挨拶周りに近いものだ。……新入りってことはバレているだろうから、なめられないよう、頑張らねば。
「Sクラスのテーブルからで良いですね?」
「はい」
「……そんなに緊張しなくても大丈夫だと思いますよ」
「……はい!」
攻略対象にしてはフツメンのアルジャン先輩は、一緒にいて安心感がすごい。生まれてこの方、極上のビジュに囲まれて、イケメン・美人に慣れてきつつはあるものの、やっぱり、フツメンからしか得られない安らぎがある。ま、フツメンって言っても、この先輩は、眼鏡外したらイケメンパターンなんですけどね。
アルジャンに続いて、一つ目のテーブル、すなわち、あの問題児たちのテーブルへと向かう。
ちょうど順次、アフタヌーンティーで出されるような軽食の載ったスタンドが配膳されたところだ。小さなスコーンや、ケーキは宝石のようで、特にDクラスあたりの、身分もさほど高くなく、あまり裕福でない家の子たちの顔が輝いているのが感じられる。
お目当てのテーブルにゆっくりと近づいていく。どうやら、何かしらの会話は交わされているようだ。
「そういえば、アリアさん、あなた、アンネヘルゼ先輩のご親戚なのよね」
「ええ、まあ」
「まあ、では、あのルーウェン先輩ともご親戚ですの?」
「……ええ」
耳では話の内容までは聞こえない距離だが、モネリアに話しかけられたアリアが、少しいら立つような雰囲気を出しているのが見える。
……はぁー、アリアちゃん、ちょっと苦手なんだよなー。父方の従妹(お父様の妹の娘)ってことで、去年は帰省するたびに会う機会を設定されたから、面識はある。とはいえ、あの子、ローゼお姉様のこと大好きすぎるんだよね……。他方、火の魔法の適性があんまり高くない私に対して、顔には出さないようにしているけど、《ローゼお姉様の実の妹なのに、養子殿に負けるだなんて》みたいな感情を抱いていらっしゃる。それでも、良い子だから、ローゼお姉様直々に頼まれたのだから、アンネお姉様とも仲良くしてあげなきゃ!みたいな感じで、話しかけてくれるもんだから、いろいろと辛い。
「アリア様のご婚約者は、確か同じ(公爵家の)分家筋の方なのでしたわよね?」
「わたしくも、早く婚約者がほしいですわ!」
「フリーダ様なら、選び放題だろ?姉君が良いところに嫁いでくれるだろうし」
「……ポーラ様、あなた」
「アンネお姉様!」
うわぁ、近づきたくねー、と思ったところで、アリアに見つかってしまった。一瞬前までの貼り付けた笑顔(目は死んでいた)が嘘のように、ぱぁっと明るい笑顔が咲く。なぜ。
にしても、君ら、まだ12歳なったばかりだよね?なんで、そんな笑顔で(モネリア様以外は、目までは笑えていなかったが)、相手をぶっ刺すような会話をしてるのかね。
ポーラ様、その言葉、フリーダ様の姉君ダリアナ様の婚約が破談になったってのを分かった上で喋ってらっしゃるよね?
「ごめんなさいね、お話し中のところ」
私が話しかけられたので、私が答える。
にしても、アリア、あなた、前はそんなキラキラした目で、私のこと見てなかったよね?どした。
「いえ、アンネヘルゼ先輩、アルジャン先輩も、ようこそお越しくださいました」
すぐに切り替えるモネリア様。さっきまでの不穏な流れを生み出した張本人ながら、何事もなかったようなすまし顔。さすが、今年の首席殿。
「ご入学、おめでとうございます、皆さん」
にこやかに応じるアルジャン先輩。この先輩、めちゃくちゃ目が悪いのと引き換えに、めちゃくちゃ耳が良いという公式設定があるから、さっきの会話はばっちり聞こえていたはずなんだけど、そこには、何も触れないようだ。
「「ありがとうございます」」
ここは、5人ともきちんと礼を返す。そして、いまだキラキラ瞳の我が従妹。
他の人の目を気にしてか、ちょっとためらった後、またまっすぐこちらを見つめるアリアちゃん。
「……アンネお姉様、副会長代理になられたとのこと、おめでとうございます!」
《王子に次ぐ役職だなんて、さすがです!来年は、私も入ってみせます!》
「……ありがとう、アリアちゃん」
ちょっと笑顔が強張ってしまった。そういうことか。養子のルーウェンが就いた書記よりも、副会長代理の方が形式的には高い役職だもんね。そういえば、お姉様は2年のとき副会長だったなー。いや、でも、私、ルーウェンより成績悪いし、来年は生徒会にいないと思うんだよね。
ま、その件は、おいおい話すとして。
「短い時間ですが、どうぞ楽しんでくださいね」
「「はい!」」
順調にこの席を去れそうだ。
「……あの!……ひとつ、質問しても?」
「何かしら?」
さっきから、曖昧な笑みを浮かべただけで静かにしていたワルターが、何やら思いつめた様子で口を開く。
「ハンナ先輩は、リファリオ副会長と親しくされているんでしょうか?」
「え?」
フリーダ、モネリア、ポーラからその手の質問がくるかもしれない、とは思っていたが、まさか君からされるとは。
ちらりとアルジャンを見る。……だめだ、眼鏡のレンズが分厚すぎて、斜めからだとアイコンタクトできない。心の声も、魔法を発動しない状態だと無音だし。
うーん、むしろ、今この場で私がハンナと親しいアピールしておいた方が、今後、お三方に変な行動をされ抑止力になる?
「あ、あの、じ、実は、僕、その、土属性の家なので」
ハンナと面識があるってことが言いたいのかな?あ!もしや、ハンナのこと、好きだとか?
「ふふふ、ワルターさん、先輩が困られてますわ」
隣の席で、優雅にほほ笑むモネリアが、続きを引き取る。
「……ここだけの話にしていただきたいのですが、ワルターさんの婚約者候補として、ハンナさんの名前が挙がっているようですの。ですけど、彼、もし、ハンナさんの心に既に決まった方がいらっしゃるなら、申し訳ない、と思っているらしくて」
世話の焼ける可愛い弟でも見るかのように、慈愛に満ちた目でワルターを見つめるモネリア。あなた方、そんなに仲がよかったっけ?でも、モネリアから立ち上っているのは、嫉妬の色。……ハンナをライバル視するモネリアが、ワルターにお願いして、このセリフを言わせた、ってのが実際のところかしら?
「うーん、それは私たちには分からないな」
穏やかな調子で、アルジャン先輩が話を引き取ってくれた。
「それに、君が自分で何か納得したいなら、来年、生徒会に入って、直接自分の目で確かめたらいいと思うよ」
突き放すようにも聞こえる言葉だが、その口調は、どこか優しい。良い先輩だ。
「他には、何か質問ある?」
小さくお礼を言って黙りこんだワルターを横目に、さすがに切りあげようとする先輩。このままじゃ、Sクラスの席だけ長居したことになってしまい、身分無関係・皆平等を謳う生徒会の態度としては、あまりよろしくない。だがしかし、まだ終わらないようだ。
「はい!」
元気なお返事、フリーダさん。
「アンネヘルゼ先輩は、どなたの婚約者なんですか?」
「……えっと?」
今じゃねーだろ、それ。天を仰ぐと、赤い風船がひとつ、音もなく割れ、何かが噴き出した。
お読みくださりありがとうございます。




