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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第五章 どうも、雲行きが怪しくなってまいりました
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第37話 こうして今日も流される

本日、説明多めです。

*細かい表現を修正しました(24/6/9)。

「さて、じゃ、改めて」


 場面は変わって、こちら、初等部生徒会室。

 初等部の講堂棟、2階と3階に生徒会室があるってことは知っていたけれど、さすが貴族の通う学園の、選ばれし者が集う生徒会の部屋、という感じだ。ひとことでいえば、超豪華。

 

「ここと、ここにサインして、その後、ここに魔力を流し込んで」


 2階は応接セットと、立派なデスクが5つ。それぞれ、副会長(×2)、会計、書記と書かれたプレートが置かれている。生徒会長は、3階に部屋を持っているらしい。(正直、同じフロアにまとめればよくない?と思うが)


「おーい、まだ現実逃避してるの?」


 一応王子がいるからか、今日のハンナは標準語である。

 ちらりとテーブルに置かれた2枚の書類――「生徒会執行部入部届」「生徒会執行部バッチ貸与確認書」――に目をやる。


「……私に拒否権はないの?」

「強制する気はないよ」


 にこにこ王子。きらい。


「ただ、アンネが引き受けてくれなかったら、次はルイスに声をかけることになるんだけど……」


 ここでちらっとハンナをみる王子。


「そうすると、今年度の生徒会は7人もいるのに女子生徒はハンナさんだけになってしまうね」


 ここでうつむくハンナ。


「会長が公爵家次男、副会長が辺境伯の縁者と王族、会計が王臣侯爵家嫡男、書記が公爵家嫡男」


 わざわざ指折り数えていただかなくてよいんですが、改めて示されるとすごい面子である。

 だって、この国の人口はだいたい105万人、そのうち貴族(準貴族を除く)が1万人くらい(=0.9%)だったはず。そんで、王家と大公家に次ぐ公爵家はたったの4つ、その次に辺境伯(1家)、侯爵家13家のうち、伝統的名家といわれる王臣侯爵家(四大公爵家と別に、開国時に王家の忠臣が立てた家)が12家、五大侯爵家(大公家と四大公爵家の各筆頭分家)が5。

 いくら王太子と王子の年齢に近い代とはいえ、異常な高位貴族率である。……まあ、乙女ゲームのヒロインちゃんのための設定と思えば、むしろ普通なのかしら。


「仮に副会長代理としてルイスを入れたとすると、彼も五大侯爵家の次男であるし、私の側近でもあるからね……」


 わざとらしいため息。


「そのうえ、この6人、困った共通点があるんだ」


 何だかわかる?と目で問うてくる。話のオチは見えてきたが、ここで答える気はない。

 困ったように微笑んでおく。


「なんと、6人とも、婚約者がいないんだよね」


 肩をすくめてらっしゃいますけど、それって主にあなたの婚約者が決まってないからだと思いますよ。


 というのも、貴族はみーんな王家とお近づきになりたいわけですよ。娘を王族直系と結婚させて、子どもを複数産ませて、一人を養子にもらうor嫁入りなり婿入りなりしてもらうことで一族に王家の血を取り込み、より魔法師的に優秀な子を一族から誕生させる、ってのは高位貴族ではお決まりパターンだし、わりと実力主義なわが国では、高位の役職に就きたいなら、そうしなきゃ生き残れない。


 ただし、王太子の正妃は、伝統的に四大公爵家から出ることになっているし、王女は四大公爵家または王臣侯爵家にこれまた順次嫁ぐことが決まっている。この点、他の家は王子に見初めてもらい側室にねじ込むしかない。他方、王家の次男以下の男子については、そういった縛りがない。まあ、王位継承順位第二位は大公(王都近くの中央地域にある大公領を治める)になるから、前々大公の娘や土属性の家から迎えるってのが慣例化しつつあるのだけれど(前大公の娘だと血が近すぎるとのことで、避けられがち)。


 さて、ここで問題なのは、国王に息子が二人いるのに、前大公にも現大公にも子どもがいない場合だ。その場合、大公家の筆頭分家であるパーライト侯爵家(ルイスの実家)の娘が婚約者となるのが通常なんだけど、今、パーライト侯爵家には娘がいない。前大公の娘は既に子を産める年齢を過ぎているし、まだ年若い現大公に至っては(国王の13下で、王太子の10年上)、2年前にパーライト侯爵家から迎えた奥様(ルイスの6歳上の姉)が2年前に流産して亡くなられて以降、嫁を迎え入れることなく、喪に服し続けている。

 じゃあ、現時点で、土属性で魔力量も多く若い女性は?ってなると……そう、ハンナ・バルネアしかいないのだ。

 だが、彼女は男爵家。それも、最近は事業がうまくいっているようだが、あまり歴史も長くなく、父親も中央の官職をもっているわけではない、いわゆる名家の血もはいっていない末端貴族の五女。


 こういう場合、どうするか。歴史上よく見られるのは、正妻として同等の身分の者を他属性の家から迎え、同じ属性の、あまり身分は高くないけど魔力量や質に優れた者を側室とし、側室の子を正妻の子として育てる、という形だ。

 つまり、現状、第二王子リファリオ殿下の「側室」候補筆頭がハンナなわけだが、他方で、「正妻」候補は空席のまま。結果、この席を狙う各家がたとえ内々定していても婚約を発表しないことで、高位貴族の次男以下が、公には婚約者がいない状態になってしまっている、ってわけだ。

 ……まあ、公爵家次期当主のうちの弟に、なんで婚約者がまだいないのかは謎なんだが、それもこれも、ヒロインと結ばれるためのご都合ストーリーなんでしょう。知らんけど!

 

 とはいえ、高位貴族の令嬢は、初等部入学時点で婚約者候補に内々定し、学園での様子とか成績とかも見られつつ、選抜されていく。そんで、14歳になって社交界デビューした後、1年は婚約者候補として過ごし、問題がなければ15歳で正式な婚約者として婚約式をする、というのが慣例だ(王太子とお姉様の婚約式は、昨年国を挙げて行われた)。だから、おそらく第二王子の縁談話も私が知らないだけで、水面下で進行しているはずだ(もっとも、王太子の婚約者の妹である私は、当然対象外のはずだ)。

 さて、私の縁談は?というのは、まあ置いておく。


 ふう……、ええ、で、ここまで言えばお分かりになられただろう。

 もひとつ付け足すと、ハンナは別に第二王子の側室として内定しているわけでもない。当然、より若い世代で高位かつ優秀なご令嬢が現れる可能性もあるからだ。

 そうすると、このままルイスが執行部入りした場合、婚約者候補がいまだいない高位貴族の殿方に囲まれるハンナ、という図が誕生してしまうわけである。わー、まさしく逆ハーレム!


 まずいことに、生徒会はわりと仕事が多いから、かかわりも深く、過去には生徒会がきっかけで誕生した身分差カップルやら略奪愛カップルの例が2、3ある(それらはシンデレラストーリーとして書籍化、演劇化されている)。そんでハンナさん、生徒会執行部員史上最も身分が低い(らしい)。

 さー、このままだと執行部員の殿方の婚約者を狙うお姉さま方からハンナはどういう目にあうでしょーか?


「いえ、いいんです……もう、私のことは」


 ハンナのかすれた声が沈黙を破った。

 そうだよね、確かにこのままだと、ハンナ、猛烈ないじめを受ける可能性大だよね。それはわかってるんだよ……。

 罪悪感から、自然と視線が下に向く。


 私の味方になってくれるはずの弟は、さっき医務室で炎の剣を出したことで、指導室に連行されていった(腹黒王子がヨハネス先生に、カイル先生に報告するよう促したのだ)。

 私の目の前には、どうにか私を生徒会に入れようとする王子とハンナしかいない。


 正直、私が入ったところで、ハンナに対する嫌がらせがやわらぐのかは分からない。それに


「私がハンナと仲良くしている姿を示せば、(私が生徒会役員にならずとも)多くは手出ししてこないのでは?」

「それでも生徒会室(密室)では、(女の子が)ハンナさんだけになっちゃうよね?」


 一番側にいてほしいときに、お前、いねーじゃん、っとおっしゃりたいわけですね?殿下。


「確かに、ハンナのことは心配です」

「そう!じゃあ」

「でも、お父様が……」


 私の十八番(おはこ)「お父様とのお約束」である。にしても、スファン、絶対今頃お姉様のところに私の現状を報告しに行っているはずなのに。来ないな、お手紙。



「その件は、問題なくなったよ」

「ラウル兄さま」「会長!」 


 声とともに、扉が開く。いつから扉の前で待機していたんだ。というか、その分厚い扉越しによく聞こえたな、声。


「さっき、ローゼリア様から手紙をいただいた」


 その手には見覚えのある便箋。


「高等部生徒会としても、生徒会役員の選任を原因に、初等部の風紀が乱れることを懸念されているようだ」


 なんともまあ、堅苦しい文章なこった。


「叔父上も、アンネが生徒会執行部に入りたいと願うならば、応援したい、と」


 もう一枚、手紙を見せてくる。……待て、いつから用意していたんだ、それ。絶対、今ちょっと相談しました、とかじゃないよね?


「私としても、生徒会メンバーがどこかで辛い目に遭うことはどうにか避けたい。それに、公爵家の一員として生まれた以上、その地位にふさわしい振る舞いを皆に見せることが使命だと、私は思うんだ」


 ちがう?という顔でこちらを見ないでほしい。ええ、ええ、おっしゃるとおりですよ!

 にこにこと微笑む王子、目をうるうるさせながらこっちを期待の目でみてくるハンナ。


 はぁっ。もう一度、目の前の書類を見つめる。

 これを引き受けることが正解なのか、不正解なのか。攻略本さん、教えてくれよ。……はあっ。


「1年だけ、なんですよね?」

「うん、約束する」


 王子、その言葉、絶対忘れませんからね。あとは……。王子を再度ちらりと見る。


「ルドルフ様は、たぶん生徒会室には来ないと思うし、いずれにせよ留学期間は春学期だけだから」


 ならそんな人を副会長に据えるなよ、と言いたいものの、さっき移動中にリファリオ様が説明してくれたところによると、その決定をしたのは、高等部生徒会らしいから、ここで文句を言っても仕方ない。


「……副会長代理、じゃなきゃだめなんですか?書記補佐じゃなくて?」

「公爵家のご令嬢であるアンネヘルゼ様が書記補佐で、ほぼ平民である私が副会長代理なんてなった日にゃぁ暴動が起こりますよ」


 暴動って、そんな。あっけらかんとした笑顔で言うことじゃないでしょ。


「それに、生徒会の慣例に従えば、本来役員の資格のないアンネを、正式な役職につけるわけにはいかないんだ」


 書記がルーウェンなのは、いいんすか?ルーウェンより、ハンナのほうが成績上だったんでしょ?なのにルーウェンが書記で、ハンナが書記補佐って、ちょっとなんというか……。


「アンネ?」


 ラウル兄さまの、この目はずるい。


 ああ、もうっ!どうにでもなれ!

 立派な万年筆を手にとる。


◆◆◆

 こうして、今年度の初等部生徒会メンバーが確定した。

お読みくださりありがとうございます!

ブックマーク等していただけますと、大変嬉しいです。

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