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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第五章 どうも、雲行きが怪しくなってまいりました
36/56

第36話 TL漫画の読みすぎでしょうか

*表現を一部訂正しました(24/6/2)。

 さて、初等部の学生には刺激の強い姿に、全員一時停止したところで、いったん話を整理しよう。


 この乙女ゲームには5人の「正規」攻略対象者と1人の隠しキャラ、アプリ版追加攻略対象者50人がいる。

 「攻略本」によると、実は、このアプリ版では、最初に「正規」から一人選ぶ必要がある。隠しキャラを攻略するには、この「正規」5人を落とす必要があるし、アプリ版追加キャラの中には、特定の「正規」を落としたor攻略中であることが、ルートの解除条件である場合もある。

 そういう意味でも、この5人の「正規」キャラは、いわばこのゲームの中心であり、キーマンなわけだ。

 ……つまり、ヒロインちゃんは、少なくともここにいる誰かは攻略するはずで、それを私がアシストし、お姉様が悪役令嬢パワーを発揮するってことになるわけですよ。


 宰相の息子にして、優等生冷静無表情ツンデレ、悲しき過去から復讐胸に、執着心・依存度強め、たまに純粋な笑顔が可愛い、攻略難易度☆4つ、公爵家次期当主、ルーウェン・リヴァルウェン

 金髪碧眼、見た目は完璧キラキラ王子、中身は人間不信MAX腹黒策士、メインルートにして攻略難易度☆5つ、リファリオ第二王子

 悪役令嬢の従者にして、王家の守り人「黒の一族」次期当主、諜報暗殺お手の元、口数少なく想いは熱く、初恋相手のヒロインを密かに見守るお兄さん、攻略難易度☆3つ、スファン


 そして、本日初会合のお二人。

 まず、教師兼医務室の先生であり、天才にして天災と称された薬のスペシャリスト、マッドサイエンティストとなるのか、心優しき白衣の天使となるのかはヒロイン次第、攻略難易度☆3つ、ヨハネス・マリオット

 お忍び入学予定、バカな俺様チャラ男を演じつつ、冴えた頭で本質見通す、大陸の3分の2ほどを支配する皇国(大帝国)の前皇帝の第二王子にして、現・皇太子、ルドルフ・ラニュレルことシェラルド・フォン・リング


 ……ふっ。全員揃っちゃったよ、……今。

 どうすんのさ、なんでこの場に未来のアシスト役たる私がいるんだよ。普通、ここはヒロインのいる場所だろうがぁあああああああ。

 ……はぁ、はぁ。思わず天を仰ぐ。あー、天蓋ベット、きれいだなー(棒)


「……アン姉様、見てはなりません!」

 

 あ、ルーウェンが再起動した。

 

「……ルドルフ様、こんなところにいらっしゃったんですか」


 少しの間のあと、ゆっくりとリファリオが口を開く。まるで、聞き分けの悪い幼児に、言うことを聞かせようとする幼稚園の先生みたいな口調で。

 もちろん、相変わらず、キラキラ笑顔で、である。


「あ゛?あー、これはこれは王子様、ずいぶん楽しそうじゃねーか」

「!……リファリオ様、まさか、この方が?」


 どうやらリファリオ王子と皇子は面識があるようだ。一応、偽名のほうで呼んでいるってことは、やっぱりお忍びで留学しているのか、皇子さんよ。

 つか、攻略本、書いてない裏話多すぎねーか。知らんぞ、このタイミングで皇子様がここにいるなんて。


「ちょうどいいから、紹介するね」


 にこやかに振り返る王子。あ、大丈夫っす、まじで結構です。


「……っと、その前に。……ちょっと待ってね」


 リファリオ様は、胸元の生徒会バッジ(かっこいい星型)に何かささやいたあと、すぐにこちらに向き直った。

 他方、皇子は、ルーウェンの非難のまなざしにも全く動じず、依然はだけた服装のまま、あくびをしている。いろいろ見えそうな格好だが、対角のベッドにいる私からは、前にルーウェンが立ったことによりその”いろいろ”は見えない。……いや、別に?その、見たいわけじゃないんだよ?

 

「こちらは、初等部三学年に編入されてきたルドルフ様。隣国からの短期留学生として、春学期の間だけ在籍される予定なんだ」


 ちらっとルーウェン越しにルドルフ(偽名)のほうをみると、こちらを(というか、女を)品定めするような目でじっとり(ねっとり)と見てくる。

 実はめっちゃ頭の回転も速く、知識も豊富で、クレバーな人であることを私は知っている。とはいえ、服装といい、その初対面の女児に向ける目線といい、こいつただの女好きorロリコンじゃね?って思ってしまうのは、彼の演技がうまいからか?

 ちらっと、斜め前にいるルーウェンに目をやる。あ、だめな感じだ。そうだよね、あんな目で公爵家の令嬢見る人って信用ならないよね、うん、わかるわかる。


「……リファリオ様、私は、反対です」


 王子の知り合いってことでちょっとの間静かにしていたのに、やっぱり許容できなかったようだ。はい、ルーウェンさん、明らかに怒ってまーす。

 怒りが話し方と声ににじみ出ている。感情を隠せないだなんて、貴族としては失格です、ってこの場にマナー講師がいたら絶対言われてるわ。

 とはいえ、私には話がまだ見えていない。


「うーん、でも、ルドルフ様が生徒会に入られることは決定事項だからなー」

「姉様が入ることは決定事項じゃないですよね?」

「うーん、まあ、そうだけど?でも、ハンナさんが入ることへの『皆様』のご意見を考えると、女性の、それも高位貴族で、成績も良くて、かつ、ハンナさんとも仲の良い子が最適だと思わない?」

「でも!」


 ん?ルドルフが生徒会に入ることと、私が生徒会に入るかどうかって何が関係してるんだ?

 私、入りませんけど?それにあの人、ほんとに生徒会に入れちゃっていいの?今も耳ほじくってますけど。


「……お前さ、シスコンなの?」


 皇子さんよ、これ以上うちの弟を煽らないでくれ。


「しすこん?」

「……シスター・コンプレックス、女姉妹に対して過度に強い愛着・執着を持つ状態」


 よどみなくヨハネス先生が答える。ちょっと、先生の存在、忘れかけてた。

 ていうか、この世界にもあるんだ、その言葉。


「……姉のことは、家族として大切に思っていますが、それのどこに問題があるのでしょうか?」


 怒りがピークを越え、一周回って静かになったようだ。

 後ろ姿だけでも、今、ルーウェンがどんな表情をしているのか、なんとなくわかる。たぶん、超無表情。


「家族として?はっ、だっせぇな」


 一瞬、横を風が通り過ぎ、気づけばさっき後ろから見ていた弟たちの真正面にいた。

 おそるおそる、腰に回された手を見る。黒い肌、金の飾り。髪や瞳の色は偽っているのに、肌の色は偽らなかったのはなぜなのだろう。黒い肌は、むしろ皇国の王族にはあまりみられない。この色は、私たちが生まれるほんの少し前に皇国に征服された、アヌアーレ王国によくみられた色だ。


「姉様、から、手を、放せ!」


 ルーウェンが、状況を把握したとたん、手から火の剣を出した。それも、結構強度なものを。

 ヨハネス先生ははらはらとした顔で、ルーウェンとこちらを交互にちらちら見ている(この医務室は上のヨハネス先生の研究室とも繋がっているから、そこにある薬草やらなんやらを心配している、という面が強そうだが)。

 他方で、王子は相変わらずの笑顔である。お手並み拝見、とでも言わんばかりな態度ですけど、今この場で弟を止められるのはあなただけなんですよー。


 完全に私が争い?の種になっているようだが、ここまでくると彼らの様子についてはかなり冷静に見れてしまう。

 ただ……


「単なる家族なんだろ?別にお姫様は嫌がってなさそうだぜ?」


 さらに腰を引き寄せられ、もはやバックハグの状態である。ラウル兄さまみたいな甘い感じはない。

 それでも、ここはベッドの上で、相手は服を気崩した状態な上、後ろから体に密着されているわけだ。高級な香水の香りも相まって、恐怖よりも恥ずかしさというか、どきどきが止まらない。


「なぁ、お姫様?」


 わざわざ私の肩にあごを乗せ、耳もとに息を吹きかけるように話しかけてくるあたり悪質だ。

 胸が、ざわざわする。


 だが、ここで下手に抵抗すると、俺様になびかない面白い女認定をされてしまう。それは、困る。そんなヒロインみたいなことを、私はするわけにはいかないんだから。

 さあ、この人の周りにうようよいるような、ころっと転がる「女」の一人にならなければ……。


 ……いや、むり、無理です!心臓がっ。うぐぁ。これ以上火照るとそれはそれで、面白い女認定をされそうなので、どうにか、心を、鎮めねば!

 ルーウェンは、私が完全に抱きかかえられている状態だから、炎の剣を振るのをためらっているようだ。とはいえ、怒りで、さっきよりも炎が強くなっている。まずい、非常にまずい。


「お前、良い匂いがするんだな」


 わざわざ首元に鼻を近づけられる。普通の女であれば、どうするのが正解なんだ。うっとりした顔で見上げるとか?……いや、無理だ、そういう種類の演技力はまったくない。


「お前、アンネと言ったな?」


 さらにささやくような声。うわぁああ、良い声すぎる。うううう、恥ずかしすぎてしにそう。


「アンネ、お前、精神魔法が使えるんだな」

「!」


 思わず、顔を向けると、ばっちり目が合った。そして、顔が!近い!


《おもしれー》


 聞きたくない声が、聞こえた、次の瞬間。


「やめて!」


 ヨハネス先生の声、視界の隅に一瞬赤い炎が走る。がしゃん、ごつっ。

 ああ、その子の炎、目標以外は燃やさないんで大丈夫ですよ、とか声をかける余裕もなく、相変わらず皇子の膝の上で、……なんとまあ宙に浮いていた。


「こいつが入るなら、入ってやるよ、生徒会」


 下でめらめらと怒りの炎を上げる弟を相変わらず無視して、皇子は王子に一方的に宣言した。


「ほら、返してやるよ、シスコン」


 さらっと髪をすくい、これ見よがしに軽くキスすると、俺様皇子は、私をルーウェンの方へ、放り投げた。え?放り投げた??思わず皇子の顔を見る。じゃ、またな、じゃないんですが!


 一気に重力を感じる。一気に顔の火照りが冷える。

 3、4メートルくらいの高さから落ちたこと、あります?いや、ないです!!


 ルーウェンも焦って炎の剣を手放し(手放すと消える)、両手を広げ、待ち構える。

 一応、ベッドの上で、ルーウェンの胸の中に飛び込む形で落ち着いた。


 今度はルーウェンと至近距離で見つめ合う。あ、デジャヴ。



「そろそろ、いいですか?」


 聞き覚えのある声に二人してびっくりして、顔を向ける。皇子はどうやら逃亡したようだ。


「そういうことなんで、アンネも生徒会に入るってことでおっけーよね?」


 the病院の診察室にあるお医者さん用の机、みたいなデスクの前に、平然とした様子のハンナが、いた。

お読みくださりありがとうございました。

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