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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第五章 どうも、雲行きが怪しくなってまいりました
33/56

第33話 仮入部イベントが始まります

少し展開がゆっくりです。ご了承を。

*クラブ名、表現、名前を一部訂正・修正しました(24/5/11)。

「はぁっ、はあぁっ、はぁ……」


「お前ら、ぎりぎりだな」

「ひっ」

「おい、俺はお化けか」


 手元のタブレットで軽くぽこりと頭を叩かれる。

 公爵家直系にそんなことできるのも、この人くらいだろう。


「あと1分ほどあるので、遅刻ではないはずです」


 横で息切れることもなく、涼しい顔で正論をぶつける弟よ。そもそもこんなぎりぎりになったの、あんたのせいなんだからな。みろよ、体力のない姉は、貴族あるまじき息切れを起こしてんだぞ。


「そうだな。あと1秒でチャイムが鳴るが」

「入ります!」


 こんなところで遅刻をつけられるわけにはいかない。まだなんか言おうとする弟は放置して、今のできる限りのおしとやかさで教室に入る。うちのクラスは、席が自由なこともあり、先生が入ってくるまでみんな仲の良い近くの子と喋っているから、そんなに悪目立ちはしない。

 そもそも、うちの担任は不真面目なので、チャイムが鳴ってから10分後くらいに入ってくることもざらにある。そう、要は先生より早く入れば遅刻じゃない!


「ごきげんよう、皆さま」


 にこやかにいつもの定位置まで向かう。ふーっセーフセーフ。


「おはようございます、アンネ」

「お嬢、ぎりぎり、攻めすぎだろ」

「お嬢、今日は珍しくルーウェン様と来られたのですね」


 あー、癒しのシャルネでちょっとカームダウン。双子は無視で。

 ちらっと扉をみるが、まだカイル先生は入ってこない。ルーウェンは、扉に近い席なので既に着席済み。先生、もしかして、遅刻者がいる場合、待ってくれてるのか。……いや、たまたまか。


「おはようございます。アンネヘルゼ様!」

「おはようございます。ハンナ様」


 初日はロナルドの隣に座ったのに、昨日からハンナは、私の隣(正確には、通路を挟んで、だが)に座り始めた。その結果、ロナルドだけ、隣がいないボッチ状態になっているんだが、まあ、女性が固まる方が自然ちゃ自然なのかもしれないし、それはいったん置いておこう。


《なんでルーウェン様、あんな魂抜けてる状態なんですか?》


 好奇心でキラキラと輝く目をこっちに向けないでくれ。


《というか、首元、うっすら赤くないですか??もしや!少女漫画的展開がっ!》

《なんもない、ちょい黙って》

《わー、絶対なんかあるやつやん!》


「アンネ?」


 おっとアブナイ。心の声で会話していると、外からは無言で見つめ合ってる状態になる。癒しのシャルネに変な子ってみられるわけにはいかぬ。

 にしてもハンナ、鋭いな。もうほとんど顔色戻ってるのに。


「ん、なんでもないわ」

「お前ら、そろってるかー」

 

 カイル先生、ぐっどタイミング!


「日直、プリントは配ったか?」

「はい」


 落ち着いた声で、今日の日直の一人、イェンスが答える。

 彼は、リアス様を信仰する魔法の塔の現在の名目上の守護者、マリオット侯爵家の三男だ。50ある地方の魔法の塔のひとつの司教(各塔のトップ)に今年任ぜられたとか(司教の最年少記録を更新したらしい)。リアス様を妄信しているところ以外は、心優しく慈愛に満ちた人格者である。


 という紹介はおいといて。

 既に机の上に置かれているプリントをぱらぱらとめくる。


《仮入部イベント、このタイミングで先に体験できるなんて、わくわくやね!》


 横からハンナが心の声で感想を送ってくるが、無視する。

 そっか。初等部2年から入れちゃうんだ。


「まあ、読めば分かるが、今日の午後に部活紹介があるから、それまでにてきとーに目を通しておくように。締め切りは、来週末。わかったな?」


 皆一斉にこくりとうなずく。


「じゃ。そういうことだ。朝礼は以上!」


 一瞬である。なんのために、朝のHRが20分もあるのか。

 先生がさっさと退出するやいなや、さっきのざわめきが復活する。

 そうか、いつもより活発にみんながしゃべってたのは、これがあったからか。


「お嬢、何に入んの?」

 

 フラムはここ半年くらいで、すっかりタメ口になった。個人的には、フラメにもタメ口で話してほしいんだが、頑なにそこは譲ってくれない。あと、やっぱり呼び名は二人とも変えてくれない。


「うーん、絶対1つは入らないとだめなんだよね?」

「2年は、1つにしか入れないですけどね。お嬢、生徒会とかには入らないんでしょ?」

「あー、うん、たぶん」

「たぶんってなんだよ?」


 そうだよね、私もなんだよって思います。ちらっとハンナを見る。


「ルーウェン様が断ったら、アンネヘルゼ様、入ってくださるんですか?」


 おおっと、そんな食い気味には来ないで。


「そういえば、ハンナさんは生徒会執行部に入ってらっしゃるんでしたよね?」


 私の横からシャルネがひょこっと顔を出す。かわいい。


「「え、そうなの?」」


 ここで双子、はもる。


「ええ、一応……吹けば飛ぶくらいの末席ですけど」

「いや、飛ばんやろ」


 思わず素で突っ込んでしまったロナルドに4人の視線が集まる。


「……ロナルド様って喋るんだ」

「フラム、それは失礼」

「……いえ、私こそ、…口をはさんでしまい、すみませんでした」

「せっかく方言喋れるのに、隠しちゃうのか?もったいなくね?なあ?」


 急に話を振られたシャルネが、ちょっと飛び上がってから激しく縦に首を振る。


「ふふっ、ほら、ロン~、そんな一匹狼的なキャラ?さっさと棄てちゃいよー」

「ハンナ、ええかげんなこと言わんとって」

「ロナルド様、僕たちもロンって呼んでもいいかい?ここでは皆平等なんだから、敬語もいらないし、気にせず喋ってくれたら嬉しいな。ね?」


 フラメよ、子爵家次男に対して侯爵家の、それも四大公爵家の筆頭分家直系のあんたが言ったら、それってもはや命令なんだよ。……ってか、その表情は確信犯だな。


「で、ロン、お前はもう決まってんの?」

「はい、……あー、もうっ。うん、決まってる」


 ハンナとフラムのキラキラとした目と、フラメの圧の強いニコニコとした視線にさらされ、わりとはやくロナルドは折れた。


「どこにされるんですか?」


 シャルネが控え目に声をかける。


「……天文部」

「わぁ、よいですね!お星さま、お好きなんですか?」

「うん、まぁ」

「好きっていうか、もうオタクって言っちゃっていいレベルなんです、この子」

「「オタク?」」


 うん、わからないよね。あー、そっか、という顔をしていますが、ハンナさん、あなた、自分が転生者であること隠す気、ほんとに1ミリもないのね。


「専門家並みにはまってる、って意味です」

「ふーん。……そういや、ハンナも別にタメ口でいいからな。な?」

 

 フラムが、我ら(フラメ、私、シャルネ)に同意を求める。まあ、異議はない。

 フラムって、短気だし、子どもっぽいし、プライドも高いけれど、ルーウェン以外の人には基本的にフェアなんだよね。その気のいい、純粋アニキモードを、ルーウェンにも向けてくれると良いんだけど……。


「で?お嬢、生徒会入んの?」

「……いや、たぶんルーウェンが入るし、……ルーウェンが入らなくても入らない」


 「たぶん」とか言うんじゃなかった。ここは言い切っておかないと、気づいたら外堀埋められてる、ってことになりかねない。


「生徒会役員はもっと早く決まり切るものだと思っていたんですが、まだ確定していないんですか?」


 シャルネがハンナに聞く。もっともな疑問である。ちなみに生徒会執行部も部活のひとつとしてカウントされている。つまり、生徒会に入れば、50個近くある部活動から1個を選ぶという大変面倒な作業をやらなくて済むことにはなる。それは、正直、魅力的だが……。


「あー、んーっと、ちょっと役員選定に時間がかかったらしい」


 ハンナにしては歯切れが悪い回答である。


「リファリオ様が副会長になるんだよね?」

「次席のハンナも入ったら、2年の枠はいっぱいなんじゃねえの?」


 フラムとフラメがもっともな疑問をぶつける。ルーウェン絡みだからか、空気の読めるフラメも追及の手を止めない。


「えーっと、私はですね、書記補佐なんです」


 なんとなく敬語に戻るハンナ。制服には、次席を示す銀のバッチと、生徒会執行部の碧のバッチがきらきらと輝いている。


「ほら、私、男爵家の五女やからさ」


 五女というのは初耳だ。とはいえ、改めて考えても、王子のいる学年で、次席をとれるのって、本当にすごい。


 聖リアス学園初等部で生徒会執行部に所属するには、職員会議で指名された生徒会長から選ばれる必要がある。実際の流れとしては1年学期末の成績上位者が2年に上がる前に勧誘を受けて、そのまま役員になる。だから、これもバッジと同じく、成績上位者の特権的な側面がある。生徒会役員であったことは成績通知書とかにも書かれるし、卒業後も、一種のステータスで、生徒会のOBOG専用の団体まである。


 例年は、高位貴族が成績上位者を独占していたから、特に問題はなかった。だけど、今回、その枠を、下位貴族の、それも女がとっちゃったことで、保守的(というか排他的)高位貴族のご父兄がいちゃもんをつけてきたことは、容易に想像できる。

 ……まあ、いろいろあったんだろう。


「まっ、だから、書記の枠がまだ空いてんねん」

「あー。でも、ルーウェン様は断らないでしょ」

「んー、まあ、そうやと思う」


 フラメのもっともな指摘で、この話は終わりそうだ。


「じゃあ、お嬢は何に入んの?」


 話がスタートに戻った。

 手もとの紙をぱらぱらとめくる。今週から一週間、つまり、平日の5日間で仮入部をして、来週末の期限までに選ばなければならない、と。


「うーん、いろいろ見てから考えよっかな。シャルネは?」

「私は、図書委員会かお兄様のいる工作部に入ろうかと」

「俺は騎士倶楽部か、朱雀倶楽部」


 ん?


「スザククラブって何?」

「お嬢、まさか知らないんですか?」

「え?」

「嘘だろ、お嬢」

「え?」


 頭の中で必死に攻略本の内容を思い出す。確か、高等部1年生時点だと部活に最大3つに入れて、学年があがることに、さらに最大数が増える。入部がルートの開始条件だったり、ステップアップ条件だったりすることもあるから、条件になっている部活名は一度は軽く読んだはずなんだが……。


「……今の朱雀倶楽部のオーナーは、ローゼリア様やろ」


 ロナルドにまで突っ込まれる。むむむ。

 無言で手もとの資料をめくる。「No.7 朱雀倶楽部」。活動内容は、火魔法の研究、火魔法使いの交流を深めること。入部条件は「オーナーの同意又は会員3名からの紹介」。部長欄にはお姉様の名前。


《要は選ばれし者のみが入れる、紹介制金持ちサロンですよ。木・火・土・金・水の全属性で同じやつ、ありますから》

 

 ハンナが助け舟を出してくれる。

 むむむ、そんなの誰にも教えてもらった記憶はない……たぶん……。


「あー、うん、あったねー、そういうの」


 皆ちょっと引き気味というか、フラメあたりからお説教が始まりそうなオーラを感じる。

 うう、でも授業開始までまだ10分以上ある。

 よし、ここはいったん逃げよう。


「……ちょっと、失礼しますわ」


 すっと手にハンカチをとる。そう、トイレへ行くのだ。

 やれやれ、という双子の視線には屈しない!

 こういうとき、出入り口から遠いのは損だ。後ろにも入り口をつくってほしい。



 すすすーっと、教室内の段を下り、ドアを開ける。

 教室からお手洗いまではほんのちょっと。誰も教室を出ていないから、廊下には私ひとり。


「ローゼリア様からお手紙です」

「っ!」


 今日は一日のうちに、いったい何度びっくりさせられるのか。心臓に悪い。


 目の前には、ひざまずく黒い忍者。

 お姉様の従者スファン。ほぼ1年ぶりの登場である。

お読みくださりありがとうございます。


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