第33話 仮入部イベントが始まります
少し展開がゆっくりです。ご了承を。
*クラブ名、表現、名前を一部訂正・修正しました(24/5/11)。
「はぁっ、はあぁっ、はぁ……」
「お前ら、ぎりぎりだな」
「ひっ」
「おい、俺はお化けか」
手元のタブレットで軽くぽこりと頭を叩かれる。
公爵家直系にそんなことできるのも、この人くらいだろう。
「あと1分ほどあるので、遅刻ではないはずです」
横で息切れることもなく、涼しい顔で正論をぶつける弟よ。そもそもこんなぎりぎりになったの、あんたのせいなんだからな。みろよ、体力のない姉は、貴族あるまじき息切れを起こしてんだぞ。
「そうだな。あと1秒でチャイムが鳴るが」
「入ります!」
こんなところで遅刻をつけられるわけにはいかない。まだなんか言おうとする弟は放置して、今のできる限りのおしとやかさで教室に入る。うちのクラスは、席が自由なこともあり、先生が入ってくるまでみんな仲の良い近くの子と喋っているから、そんなに悪目立ちはしない。
そもそも、うちの担任は不真面目なので、チャイムが鳴ってから10分後くらいに入ってくることもざらにある。そう、要は先生より早く入れば遅刻じゃない!
「ごきげんよう、皆さま」
にこやかにいつもの定位置まで向かう。ふーっセーフセーフ。
「おはようございます、アンネ」
「お嬢、ぎりぎり、攻めすぎだろ」
「お嬢、今日は珍しくルーウェン様と来られたのですね」
あー、癒しのシャルネでちょっとカームダウン。双子は無視で。
ちらっと扉をみるが、まだカイル先生は入ってこない。ルーウェンは、扉に近い席なので既に着席済み。先生、もしかして、遅刻者がいる場合、待ってくれてるのか。……いや、たまたまか。
「おはようございます。アンネヘルゼ様!」
「おはようございます。ハンナ様」
初日はロナルドの隣に座ったのに、昨日からハンナは、私の隣(正確には、通路を挟んで、だが)に座り始めた。その結果、ロナルドだけ、隣がいないボッチ状態になっているんだが、まあ、女性が固まる方が自然ちゃ自然なのかもしれないし、それはいったん置いておこう。
《なんでルーウェン様、あんな魂抜けてる状態なんですか?》
好奇心でキラキラと輝く目をこっちに向けないでくれ。
《というか、首元、うっすら赤くないですか??もしや!少女漫画的展開がっ!》
《なんもない、ちょい黙って》
《わー、絶対なんかあるやつやん!》
「アンネ?」
おっとアブナイ。心の声で会話していると、外からは無言で見つめ合ってる状態になる。癒しのシャルネに変な子ってみられるわけにはいかぬ。
にしてもハンナ、鋭いな。もうほとんど顔色戻ってるのに。
「ん、なんでもないわ」
「お前ら、そろってるかー」
カイル先生、ぐっどタイミング!
「日直、プリントは配ったか?」
「はい」
落ち着いた声で、今日の日直の一人、イェンスが答える。
彼は、リアス様を信仰する魔法の塔の現在の名目上の守護者、マリオット侯爵家の三男だ。50ある地方の魔法の塔のひとつの司教(各塔のトップ)に今年任ぜられたとか(司教の最年少記録を更新したらしい)。リアス様を妄信しているところ以外は、心優しく慈愛に満ちた人格者である。
という紹介はおいといて。
既に机の上に置かれているプリントをぱらぱらとめくる。
《仮入部イベント、このタイミングで先に体験できるなんて、わくわくやね!》
横からハンナが心の声で感想を送ってくるが、無視する。
そっか。初等部2年から入れちゃうんだ。
「まあ、読めば分かるが、今日の午後に部活紹介があるから、それまでにてきとーに目を通しておくように。締め切りは、来週末。わかったな?」
皆一斉にこくりとうなずく。
「じゃ。そういうことだ。朝礼は以上!」
一瞬である。なんのために、朝のHRが20分もあるのか。
先生がさっさと退出するやいなや、さっきのざわめきが復活する。
そうか、いつもより活発にみんながしゃべってたのは、これがあったからか。
「お嬢、何に入んの?」
フラムはここ半年くらいで、すっかりタメ口になった。個人的には、フラメにもタメ口で話してほしいんだが、頑なにそこは譲ってくれない。あと、やっぱり呼び名は二人とも変えてくれない。
「うーん、絶対1つは入らないとだめなんだよね?」
「2年は、1つにしか入れないですけどね。お嬢、生徒会とかには入らないんでしょ?」
「あー、うん、たぶん」
「たぶんってなんだよ?」
そうだよね、私もなんだよって思います。ちらっとハンナを見る。
「ルーウェン様が断ったら、アンネヘルゼ様、入ってくださるんですか?」
おおっと、そんな食い気味には来ないで。
「そういえば、ハンナさんは生徒会執行部に入ってらっしゃるんでしたよね?」
私の横からシャルネがひょこっと顔を出す。かわいい。
「「え、そうなの?」」
ここで双子、はもる。
「ええ、一応……吹けば飛ぶくらいの末席ですけど」
「いや、飛ばんやろ」
思わず素で突っ込んでしまったロナルドに4人の視線が集まる。
「……ロナルド様って喋るんだ」
「フラム、それは失礼」
「……いえ、私こそ、…口をはさんでしまい、すみませんでした」
「せっかく方言喋れるのに、隠しちゃうのか?もったいなくね?なあ?」
急に話を振られたシャルネが、ちょっと飛び上がってから激しく縦に首を振る。
「ふふっ、ほら、ロン~、そんな一匹狼的なキャラ?さっさと棄てちゃいよー」
「ハンナ、ええかげんなこと言わんとって」
「ロナルド様、僕たちもロンって呼んでもいいかい?ここでは皆平等なんだから、敬語もいらないし、気にせず喋ってくれたら嬉しいな。ね?」
フラメよ、子爵家次男に対して侯爵家の、それも四大公爵家の筆頭分家直系のあんたが言ったら、それってもはや命令なんだよ。……ってか、その表情は確信犯だな。
「で、ロン、お前はもう決まってんの?」
「はい、……あー、もうっ。うん、決まってる」
ハンナとフラムのキラキラとした目と、フラメの圧の強いニコニコとした視線にさらされ、わりとはやくロナルドは折れた。
「どこにされるんですか?」
シャルネが控え目に声をかける。
「……天文部」
「わぁ、よいですね!お星さま、お好きなんですか?」
「うん、まぁ」
「好きっていうか、もうオタクって言っちゃっていいレベルなんです、この子」
「「オタク?」」
うん、わからないよね。あー、そっか、という顔をしていますが、ハンナさん、あなた、自分が転生者であること隠す気、ほんとに1ミリもないのね。
「専門家並みにはまってる、って意味です」
「ふーん。……そういや、ハンナも別にタメ口でいいからな。な?」
フラムが、我ら(フラメ、私、シャルネ)に同意を求める。まあ、異議はない。
フラムって、短気だし、子どもっぽいし、プライドも高いけれど、ルーウェン以外の人には基本的にフェアなんだよね。その気のいい、純粋アニキモードを、ルーウェンにも向けてくれると良いんだけど……。
「で?お嬢、生徒会入んの?」
「……いや、たぶんルーウェンが入るし、……ルーウェンが入らなくても入らない」
「たぶん」とか言うんじゃなかった。ここは言い切っておかないと、気づいたら外堀埋められてる、ってことになりかねない。
「生徒会役員はもっと早く決まり切るものだと思っていたんですが、まだ確定していないんですか?」
シャルネがハンナに聞く。もっともな疑問である。ちなみに生徒会執行部も部活のひとつとしてカウントされている。つまり、生徒会に入れば、50個近くある部活動から1個を選ぶという大変面倒な作業をやらなくて済むことにはなる。それは、正直、魅力的だが……。
「あー、んーっと、ちょっと役員選定に時間がかかったらしい」
ハンナにしては歯切れが悪い回答である。
「リファリオ様が副会長になるんだよね?」
「次席のハンナも入ったら、2年の枠はいっぱいなんじゃねえの?」
フラムとフラメがもっともな疑問をぶつける。ルーウェン絡みだからか、空気の読めるフラメも追及の手を止めない。
「えーっと、私はですね、書記補佐なんです」
なんとなく敬語に戻るハンナ。制服には、次席を示す銀のバッチと、生徒会執行部の碧のバッチがきらきらと輝いている。
「ほら、私、男爵家の五女やからさ」
五女というのは初耳だ。とはいえ、改めて考えても、王子のいる学年で、次席をとれるのって、本当にすごい。
聖リアス学園初等部で生徒会執行部に所属するには、職員会議で指名された生徒会長から選ばれる必要がある。実際の流れとしては1年学期末の成績上位者が2年に上がる前に勧誘を受けて、そのまま役員になる。だから、これもバッジと同じく、成績上位者の特権的な側面がある。生徒会役員であったことは成績通知書とかにも書かれるし、卒業後も、一種のステータスで、生徒会のOBOG専用の団体まである。
例年は、高位貴族が成績上位者を独占していたから、特に問題はなかった。だけど、今回、その枠を、下位貴族の、それも女がとっちゃったことで、保守的(というか排他的)高位貴族のご父兄がいちゃもんをつけてきたことは、容易に想像できる。
……まあ、いろいろあったんだろう。
「まっ、だから、書記の枠がまだ空いてんねん」
「あー。でも、ルーウェン様は断らないでしょ」
「んー、まあ、そうやと思う」
フラメのもっともな指摘で、この話は終わりそうだ。
「じゃあ、お嬢は何に入んの?」
話がスタートに戻った。
手もとの紙をぱらぱらとめくる。今週から一週間、つまり、平日の5日間で仮入部をして、来週末の期限までに選ばなければならない、と。
「うーん、いろいろ見てから考えよっかな。シャルネは?」
「私は、図書委員会かお兄様のいる工作部に入ろうかと」
「俺は騎士倶楽部か、朱雀倶楽部」
ん?
「スザククラブって何?」
「お嬢、まさか知らないんですか?」
「え?」
「嘘だろ、お嬢」
「え?」
頭の中で必死に攻略本の内容を思い出す。確か、高等部1年生時点だと部活に最大3つに入れて、学年があがることに、さらに最大数が増える。入部がルートの開始条件だったり、ステップアップ条件だったりすることもあるから、条件になっている部活名は一度は軽く読んだはずなんだが……。
「……今の朱雀倶楽部のオーナーは、ローゼリア様やろ」
ロナルドにまで突っ込まれる。むむむ。
無言で手もとの資料をめくる。「No.7 朱雀倶楽部」。活動内容は、火魔法の研究、火魔法使いの交流を深めること。入部条件は「オーナーの同意又は会員3名からの紹介」。部長欄にはお姉様の名前。
《要は選ばれし者のみが入れる、紹介制金持ちサロンですよ。木・火・土・金・水の全属性で同じやつ、ありますから》
ハンナが助け舟を出してくれる。
むむむ、そんなの誰にも教えてもらった記憶はない……たぶん……。
「あー、うん、あったねー、そういうの」
皆ちょっと引き気味というか、フラメあたりからお説教が始まりそうなオーラを感じる。
うう、でも授業開始までまだ10分以上ある。
よし、ここはいったん逃げよう。
「……ちょっと、失礼しますわ」
すっと手にハンカチをとる。そう、トイレへ行くのだ。
やれやれ、という双子の視線には屈しない!
こういうとき、出入り口から遠いのは損だ。後ろにも入り口をつくってほしい。
すすすーっと、教室内の段を下り、ドアを開ける。
教室からお手洗いまではほんのちょっと。誰も教室を出ていないから、廊下には私ひとり。
「ローゼリア様からお手紙です」
「っ!」
今日は一日のうちに、いったい何度びっくりさせられるのか。心臓に悪い。
目の前には、ひざまずく黒い忍者。
お姉様の従者スファン。ほぼ1年ぶりの登場である。
お読みくださりありがとうございます。




