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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第五章 どうも、雲行きが怪しくなってまいりました
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第31話 刺激つよつよお兄さま

「……ラウル兄さま」

「うん?」

「その、もう、大丈夫、です」


 15分くらい経っただろうか。体感的には1時間くらい経っててもおかしくはないくらいだけれど。

 ラウル兄さまが規則正しく、頭を撫でてくれたおかげか、徐々に落ち着いてきた。

 ……ええ、落ち着きました、冷静になりました。なので!今の!状況が!めっちゃはずい!!


 なんだよ、なんで私、ラウル兄さまの胸で号泣するんだよ。あー、やばい。顔見れない。今すぐ逃げたい。そんでもって、誰か私に特大サイズの扇子をくれ。


「ふふっ」


 撫でる手が止まる。頭の上から、ラウル兄さまが朗らかに笑う声がする。が、上は向けない。今、上を向いたら、それこそ顔が近すぎて、少女漫画が始まってしまう。いや、既にもう少女漫画の一場面みたいになってますけどね!


「本当に、アンネはいい子だね」

「……」


 いや、本当のいい子なら、きっとこの場面で泣きません。ここで泣いちゃう私は、自分勝手で、弱くて、世間知らずで、お馬鹿な、小娘だから……。


「ア、ン、ネ!」

「ひゃい!」


 いきなり胸というか腕の中から解放され、いきなり両方の頬っぺたを両手で、ぱんっと挟まれる。

 ドアップの美しいお顔に、心臓が止まりかけて、反射的に変な声が出る。


「ありがとう」

「へ?」


 心臓がどきどきしている。とりあえず、いったん離れてほしい。


「僕のこと、心配してくれて」

「……でも」

「僕のために、泣いてくれて」

「……いや、私は」

「ありがとう」


 すごく、すごくいろんな感情が乗せられたその言葉を、もうそれ以上、否定できなくて。

 でも、ラウル兄さまには、ラウル兄さまだけには、そんな偽善的な嘘をつきたくなくて


「私は!」

「アンネが、僕の前から消えたとき」


 目の前のラウル兄さまの目が、一瞬怪しく光った。


「こんな世界、もういらないって思った」


 ……おいおい。


「でも、僕にはまだ、世界を終わらせる力はないし」


 ……「まだ」と言ってしまうところが、この人の怖いところである。

 彼は、間違いなく精神魔法系のチートであるし(認識阻害魔法、読心術に加え、魅了した人間の心を操る、という恋愛ゲーム的には最強の魔法まで使えちゃうのだ)、おそらく成人したときに、師匠の言霊魔法(言ったとおりの内容を現実にしてしまう魔法)の後継者に指名もされているはずだし。


 えっと、つまりですね、たぶんこの人、わりと本気で世界終わらせることができちゃう系ポテンシャルを十分にもっているわけです。はは。


「それにね」


 またラウル兄さまの目が優しいものへと変わる。


「アンネと過ごしたあの日々の思い出があれば、僕は大丈夫」


 でも、その奥には、深い深い闇が見え隠れしている。……その闇につい引き込まれそうになる。


「そう、思ったんだ」


 まっすぐこちらを見るその目は、きっと何も嘘はついていない。

 でも、きっと本心を全部明かしているわけでもない。自己嫌悪まみれの私を、どうにか楽にしてあげよう、という、どこまでも優しいラウル兄さまの気づかいにしか思えない。


「僕には、未来は読めないし、自分の望むとおりの未来を実現させることもできない」


 将来、言霊使いとなって、今の師匠と同じ地位に就いたら、同時にその魔法の強さゆえに、王家と公爵家による多くの縛りが課せられることになる。そんな彼の言葉は、若者にありがちな、かっこつけた悲観論ではなく、避けることのできない現実だ。


「それでも、過去は変えられない。誰にも、汚されない」


 また、涙が出そうになる。が、自分の指に爪を立てて、なんとかこらえる。


「だから、……ありがとう」


 けど、私の我慢の仕方を熟知しているラウル兄さまには、すべてお見通しのようだ。

 握りしめた手に、そっと手が重ねられる。


「アンネがいるから、僕はこの世界を、ちょっとでもよくしたいなって思えるんだ」

「アンネと一緒にいられるなら、君の姿が見れるなら、話せなくても大丈夫」

「それでも、アンネが僕のことを思って泣いてくれるなら、僕はね、それだけで嬉しいんだ」


 両手の指先を、それぞれの手で軽く握られる。瞳は相変わらず、まっすぐこちらに向けられたまま。愛おしい。そう思ってくれていることが、これほど悲しく、切なく、苦しいことが、いまだかつてあっただろうか。


「ありがとう、アンネ。僕のたった一人の家族」


 そのまま両手をすっと引かれ、自然と立ち上がる。

 別れたあの日は、頭半分くらいしか差がなかったのに。今や頭一つ分以上離れている。

 入学前日に会ったときと同じ、私が愛用していたアンズのかおりが、再び私を包む。


 頭のてっぺんあたりに、そっと'何か'が触れる気配。うん、いや、何が起こったかは分かっておりますが。


 さっきと異なり、すぐにラウル兄さまは身を引く。



「じゃあね、アンネ。また、いつか」


 久々の愛情表現に、ぼっと赤くなった私の顔を満足げに覗き見ると、ラウル兄さまは、さらっと手を振り、去っていった。


◆◆◆

 この間、彼の心の声が完全にセーブされていたことに、プチパニック状態のアンネは、まだ気づいていない。 

お読みくださりありがとうございました。

次回も日曜日更新予定です。

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