第24話 キラキラ王子と仲間たち
長めです。
*句読点を修正しました(24/6/2)。
「リファリオ様、こちらが我が姉、アンネヘルゼです」
「お初にお目にかかります。アンネヘルゼと申します」
弟の紹介に続き、とりあえず、深く礼をしておく。
腐っても貴族。挨拶は身体に染みついている。
だが、心は荒れていた。
《おいおい、まてまて、なんで攻略対象が3人もいるのかなぁあ》
「はじめまして。リファリオです。同級生なのだから、あまりかしこまらないでほしいな」
世の夢見る女の子が、王子様と聞いてまずイメージするのってこんな人だろうな、という感じの正統派金髪碧眼美少年が、優しく微笑む。
「ルーウェン、君もそろそろ敬語はやめてほしいんだけど?」」
少し困ったように眉毛を下げつつ、それでもちょっと冗談めいた言い方で、場の雰囲気を荒立てない配慮も完璧。正直、二人の王子、どちらかに仕えろって言われたら、即断できるわ。
ちなみに、心の声は完全に制御されている。おそらく師匠お手製の魔道具をどこかにつけているんだろう。だが、それだと、私がヒロインをお手伝いするとき、わりと困るんだが。(あ、もちろん魔法を使えば、読めると思うけどね。ただ、その場合、呼び出し食らっちゃうかも☆)
「……善処いたします」
ちらっと、斜め前にいる弟の顔を見る。あー、こいつ、全然なじんでないわー、めっちゃ猫被ってるわ。あんなに第二王子のこと熱く語ってたくせに、本人の前ではそんなそっけない感じなのねー、へー。
こんな不愛想で、全然改善の見込みがない将来の側近(候補)を見ても、王子の笑顔は崩れない。むしろ、ふんわりと綺麗すぎる笑顔がより強まった。そのまなざしは、まるで部下のすべてを知り尽くし、その成長を温かく見守ろうとするような、器の大きさと慈悲深さを感じさせる。
「ああ、そうだ。アンネヘルゼ嬢、改めて私の友人たちを紹介させてください」
いい、いいです、結構です。紹介しないで、キャパオーバー。
「こっちが、ルイス。で、こっちがカミル。二人とも、見かけで警戒されがちなんですが、とても優秀で心優しい、僕の自慢の友人なんだ」
リファリオ様の左右後ろに立ったままの二人の少年は、いかにも警戒しています、という表情でこちらを見ている。うん、もし誰彼構わず初対面の人をこんな風に見つめているなら、誰からも「見かけ」で「警戒」されちゃうわー。
向かって右に立つ眼鏡をかけた神経質そうな少年が、土魔法の名家であり、王族の血を強く引くパーライト侯爵家の次男、ルイス。真面目な堅物委員長タイプ。Sクラス所属。
向かって左に立つ小学6年生相当とは思えないような体格の少年が、騎士を多く輩出してきた三大騎士名家ミレス子爵家の長男、カミル。見た目は熊、基本無言で不器用だが、優しさと愛に溢れた中身は繊細。ミレス子爵家としては、Sクラス所属は史上初だったはず。
さてさて、当然っちゃ当然だけど、私は完全に敵認定されているようだ。目をこらさなくても、二人から緊張感と警戒心というか敵対心?が伝わってくる。
まーね、お姉様が王太子の婚約者なんだし、王太子派と第二王子派が対立している現状、警戒されてもしかたがない。むしろ、お姉様が王太子の婚約者に決まった後に、王太子を溺愛していると噂の王妃様がルーウェンを第二王子に付けたことも考えると、ルーウェンともども、我が家は王太子派だと考えるのは側近として正しい判断だと思う。
「初めまして、ルイスです」「……カミルだ」
《ったく、王子は何を考えているんだ。アンネヘルゼ様は姉君とたいそう仲がよいと聞くし、確実にあっち側の人間でしょう。初日の夕食をともにすべき相手は、他にもっとおりましょうに……》
ルイスは、完全なる作り笑顔だが、さっき見せた冷たいまなざしを隠しきれていない。なお、このメガネ君、ヒロインに対しては、わりとちょろいようだ。超要約すると、努力を褒めれば落とせる。攻略難易度は5段階中、☆1つ。
《不愛想すぎるだろうか。いや、私の下手な笑顔で、これ以上女子を泣かせてはなるまい》
……どうやら、カイルは私を敵認定しているわけではないようだ。単に同い年の女の子との接し方を誤っているだけっぽい。でも、それならもうちょい肩とおでこの力を抜いてほしい。その表情だと、熊が威嚇しているようにしか見えない。
いずれにせよ、この二人が第二王子の側近であり、かつ、攻略対象であることを考えれば、早いうちに敵認定から脱却して、害はないクラスメイトくらい程度に印象を変えたいところ。
ふー、いっちょ、頑張りますか。
「ルイス様、カイル様、初めまして。弟ともども、どうぞよろしくお願いしますね」
なぜかこの二人が立っているせいで、小柄な私が目を見て話すと、良い感じに上目遣いっぽくなる。猫顔のお姉様と違って、あえていうならばたぬき顔の私がこれをやると、小悪魔的要素はなく、単に幼さが強調される、はず。
ほれほれ、無害な幼女ですよ~、悪だくみとかしていませんよ~。
うん!気持ちルイスとカイルの雰囲気が和らいだ気がする!(カイルは、表情を維持しようとしたのか、より怖い顔になったが)
ってな邪な感情のもと、頭1つ分とそれ以上の高さに焦点を合わせていたから、真ん前からのパンって音に、ちょっと飛び上がった。
目線を少し下に戻す。リファリオ様が、笑顔のまま、手を一度叩いたようだ。
「さーて、自己紹介も終わったことだし、ほらほら、4人とも席に着いて。このままだと、食事を始められないし、まるで僕が皆を立たせてるみたいになっちゃう」
ふふっと笑う王子。笑顔にもバラエティがあって、弟の数段上のテクニックを感じます。
ただ、攻略本を携えている身としては、その笑顔の裏を勘繰ってしまう。だってこの方、「♯人間不信な完璧王子」「♯きらきら笑顔、腹は真っ黒」とか書かれてますからね。
今の私の仕草とか見て、こいつ、私の身近なところから篭絡しようとしてんじゃないか、とか思われてないかな~。もちろん、そんなつもり、毛頭ございませんよ!!
ふーっ。いやいや、とにかく座ろう。ありがたいことに、5人で円形のテーブルを囲むことになった結果、王子を正面から見つめなければならない事態は回避された。万歳!
にしても、単なる学園の寮にある食堂に、こんな立派な個室があるとは知らなんだ。しかも、出てくるものはちゃんとフルコース。昨日は疲れ果てて、部屋に軽食を運んでもらったから、実質、初めてのディナーなのだが、ほんと豪華すぎる。どんだけ金があるんだ、この学園。というか、この学園に通うのに、いくらかかっているんだろ……。いや、これ以上は考えまい。
ありがたいことに、ルイス様とリファリオ様が話を回してくれるから、食に専念できた。念のため、食べるのでいっぱいいっぱいです、という雰囲気を出しつつ、適度にほほえんでおく。うん、美味しいものを食べると、やっぱ幸せだなあ。
「そういえば、アンネヘルゼさん」
お互いの敬称は、「さん」ということでひとまず落ち着いた。だが、王子のことを「さん」付けで呼ぶ予定はない。そんなことしたら、わたくしったら、王子様と親しいのですよ、おっほっほ、って言っているようなもんだし。
「なんでしょう、ルイスさん」
正直、こいつらに対しても「さん」付けじゃなくて「様」付けて呼びたい。1カ月くらい会話しなければ、次回から「様」でも不自然ではないだろう。ということで、しばらく接触を頑張って回避する所存。
「今日、王太子殿下と会われたそうですね」
「……ええ」
なんで知ってるんだ。少なくとも、行き帰りでは誰にも会わなかったし、あの部屋の中は完全にプライベート空間だから、会話の内容はもちろん、誰と誰が会っているかも分からないはずでは。
「どうでしたか」
「……と、言いますと?」
あー、やっぱ、さっきの私的あざと挨拶では足りなかったようだ。正統派美少女のヒロインなら、いっぱつでこやつの疑惑は解消できそうなのに。くーっ、私がどっち側の人間か見極めようとしてるんだろ、おぬし。
《しらばっくれるな》じゃないんだよー。あー、最適解はなんなんだ。ちらっと、ルーウェンに目をやる。
《あたりさわりのないコメントでお願いします》
……。おい、ルーウェン。イイ感じにフォローしてくれるんじゃなかったのか。
ルイスは優雅に食後のコーヒーを飲んでいるし、こりゃ、私が発言するしかなさそうだ。カイルは横で、なんだかひとりでハラハラしているし、リファリオ様の表情は読めない笑顔だし。でもさ、王太子様ってばお姉様のことが大好きなようで、雰囲気がR18一歩手前で、困っちゃいましたわ☆……なんて言えないでしょ。はーっ。
「そうですね……。わたくし、幼少期からあまり外に出かけられなかったので、家族以外の方とお話しすることには、まだ慣れていなくって……」
《何言おうとしているんですか、姉様、そこは、尊き御方とお話しできて光栄でした、くらいでいいんですよ!》
ようやく具体的なアドバイスを始めた弟の声は無視する。
おそらく、ルイスは、本質的に単純で真面目で優しい人間だと推測する。よって、これが、私の思う最適解さ!
なおも、しおらしく、ちょっと視線を下にそらして、自嘲気味な苦めな笑顔を浮かべつつ、言葉を続ける。
「とても、とても緊張してしまって……。大変失礼なことなのですが、わたくしが何をお話ししたか、何とお声がけいただいたか、さっぱり覚えておりませんの……」
どうだ!この完璧なキャラ設定!《やりすぎです》って?ふっ。分かってる。たぶん部屋に帰ったら、私、ベッドに潜って叫ぶことになりそう!
「……そうなのですね」
《そういえば、妹君は長らく病気に臥せっておられたとか。ルーウェン様が養子となったのも、彼女では次期当主の女主人として次の後継ぎを生むのは難しいと判断されたからだというし……。Sクラスに入れるほど優秀でありながら、そのような御立場、きっと「あの」公爵家では、扱いもあまりよくなかったのだろう。ああ、姉君の印象に惑わされて、勝手に彼女まで敵だとみなしてしまっていたが、実は、彼女もルーウェン様同様、姉君からつらく当たられているのではないか……》
うん、なんか、新情報多すぎるし、心の声、長すぎ。
第二王子の最側近だからとはいえ、ルーウェンが養子であることも、彼に対するお姉様の態度まで知ってることへの驚きで、ちょっと固まってしまった。
というか、私、そんな風に世間的には見られてるんですか。複雑である。
「ごめんなさい、場の空気を悪くしてしまいましたわ」
「いや、ルイスが、貴女を疑うような発言をしたのが悪い。申し訳ない」
今まで1時間近く、ほぼ口を開かなかったカイル様が、間髪入れずに詫びの言葉を口にし、頭まで下げた。ルイスは反対側でもごもごと何か言おうとしているようだが、さっきの挑戦的な態度は、もうみえない。
「ほんとにね、今のはルイスが悪いよ」
「いえ、姉も」
リファリオ様たちが悪かった、という雰囲気を打破しようと、何か言いかけたルーウェンの言葉を、王子はキラキラ笑顔のまま片手を挙げるだけで止めた。さっきの会話中もずっと、うっすら微笑みを浮かべていたし、ここまでくるとちょい、怖い。
「ルイスは、小さい頃から私のそばにいるせいで、ちょっと過保護なんだ。ごめんね」
「いえ、めっそうもございません」
「許してくれる?」
「……わたくしたちは、単に世間話をしていただけですわ」
「……うん、そうだね。ありがとう」
怖いけど、ほんと王子様なんだよなー。あー、ほんとこの世界の人たち、顔が良すぎる。前世好きだった異国のアイドルを思い出してしまったわ。
「そうだ、アンネヘルゼさんのこと、僕もアンネって呼んでいい?」
僕「も」……。ふっ。すべてご存知ってことですか、さいですか。ええ。
ルーウェンからのじと目にも負けませんよ。ふふふ。じゃあ、あんたならあの場で、いやですって言えるのかい。
もしかして、実は王太子様と仲良かったりするのかな、リファリオ様。
疑問形で投げられた以上、何か答えなければならない。それに、王太子にはそう呼ぶことを了承したのに、第二王子には拒否したりしたら、いろいろと面倒なのは確実だ。
そういうこともいろいろ分かってそうで、この王子、まじ、くえない。
表情がそろそろ崩壊しそうなので、すっと口元を扇子で隠す。
「ふふふ、でしたら、ルーウェンのことも是非、ルーと呼んでくださいまし」
仕方がないので、公爵家の人間はみんな愛称で呼んでもらいましょう、ええ。
「ルイス様とカイル様も是非」
おっと、いけねえ、さっそく様づけで呼んでしまったわ。だが、ここは勢いで。
「ルーウェンったら、皆様のこと、いかに素敵な方々かってずーっと話しておりましたの。この子もそれほど社交の経験はないので、内弁慶に育ってしまったのですけど」
《なんの話を始めるんですか、やめてください、恥ずかしい》
ルーウェンの耳が次第に赤く染まる。だが、しかし、止める気は皆無!
「身内びいきのように聞こえてしまうかもしれませんが、ほんとうに、すっごく優秀でいい子なんですの。だから、皆さま、ルーのこと、どうぞよろしくお願いいたしますわ」
ルーウェンは横で口をぱくぱくさせている。
ルイスとカイルも、我が家やお姉様に対しては警戒心をちょっと持っているみたいだけど、ルーウェンに対しては、どう接すればいいか分からない、って感じなだけなようだし。ま、ルイスは、自分たちのほうが古参なのに、後から公爵家の養子にでしゃばられるのは、納得がいかない、的なライバル心めいたものも感じるけど、二人とも、リファリオ様のことを大切に思っている以上、次期公爵であるルーウェンとは、ほんとはもっと打ち解けたいとは思っているはず。うん、きっと。
「そうだね、ルー、と呼んでもいいかい?」
すかさずリファリオ様がフォローしてくださる。ついでにこのまま、私のことは忘れてくれるといいなぁ。
「では、わたくしは、明日の準備もございますので、先に失礼させていただきますわ」
「うん、今日はありがとう」
王子様の許可、いただきました。さらばっ!
「じゃ、また明日、アンネ」
さわやか王子の笑顔、もうおなかいっぱいっす。今日はもうギブっす。
ボロが出そうで怖いので、今後はできる限りかかわらないよう、頑張ろう。
そうアンネは心に誓ったのであった。
お読みくださりありがとうございました。
次回でこの章は終わる予定です。




