第22話 見た目が女子会なら、それは女子会と呼んでいいでしょう
最近長めです、ご容赦を。
「しっ、失礼いたします!」
時間ぴったりに扉がノックされる。イケオジ執事様に案内されてきたシャルネは、部屋の中の顔ぶれを見て、一時停止した。
うん、正直無理もないと思う。
だが、学生であっても、特に初対面かつ相手が自分より高位の貴族なんだったら、礼儀はしっかりとしたほうがいい。まあ、さっきも声が裏返っていたし、あ、この子、緊張して固まっちゃったんだな、ってのは皆分かっているとは思う。それに、やっぱりシャルネの、庇護欲をかき立てる小動物系女子!ってな見た目で、うるうるした大きな目を見開いた顔をみると、世の中の多くのかわいいもの好きは許してしまうだろう。現に、私はあー、かわいいなぁ、って感想しか浮かばない。
じゃなくて。
「シャルネ様、来てくださってありがとう!」
12歳、無邪気なご令嬢をイメージしつつ駆け寄って、シャルネの両手を握る。うん、めっちゃ冷えてるわ。そうだよね、ほとんどはじめましての私にお呼ばれするだけでも緊張するのにね。
「シャルネ様とお茶会をするって言ったら、お姉様も是非一度お話ししてみたいっておっしゃられて」
まだシャルネの心の中は、最初にお姉様たちを見た瞬間に浮かんだ「ひょえっ!」で止まっている。そろそろシャルネ様にも名乗ってもらわないと。お姉様は、「あら緊張されているのね、かわいいわ」くらいにしか思ってなさそうだけど、その横のイケメンが今にもキレそうです。
「ごめんなさいね、お約束してなかったのに」「君さ」
ちっ、どうにかフリーズを解こうとしているのに。女性にしては低めの美声が刺すように響いた瞬間、シャルネがびくっとしてちょっと浮いた。
くぉっ。目をかっぴらいて、後ろを振り返る。
「ユーリ、ちょっと黙って」
「おい、アンネ、私は……」
「ふふふふふ」
上から順に私、ユーリ、お姉様である。
「もっ……ももも申し訳ございません!シャルネ・ランスロットと申します!本日はお日柄もよく、高貴な皆様とこのようにご同席させていただきますこと、たいへん光栄でございますです!」
うぉっと、シャルネ様、すとっぷ。
「ふふふ、かわいらしい方ね」
ようやく動き始めた、というか暴走しかけているシャルネを、お姉様が微笑み一つで止めた。すごい。そんでもってちょっと嫌味になりそうなセリフを、心の底からそう思っているような雰囲気でお上品に言えるの、すごい。
「わたくしは、ローゼリア。学年は異なるけれど、仲良くしてくれると嬉しいわ」
なるほど、私的なお茶会でもあくまで学園では家名を名乗らないのか。
「こちらは、わたくしとアンネの幼馴染、ユーリよ。少し口が悪いところがあるのだけれど、悪い子ではないの」
さっきの王太子に向けていたのとは異なり、温かなまなざしをで隣に座るユーリに向ける。
ユーリは、お姉様の乳母アイリスの子だ。アイリスは、モルフォーズ伯爵家出身のれっきとした貴族だったが、ユーリを懐妊した直後に実家の不祥事が発覚して平民になっている。だけど、お母様が、親友を路頭に迷わせるくらいなら家出するって宣言して、結果、我が家で雇うことになったらしい。つまり、ユーリは平民なんだけど、有力伯爵家の血を継いでいるだけあって、その魔法も魔力も強かった。だから、いろいろもめたものの、最終的にはお姉様のお願いにお父様も折れ、将来王妃となるお姉様のお側付きとして、学園にも通わせている。
「……ユーリだ。よろしく」
「よ、よろしくお願いしみゃす!」
さっきまでちょっとイラっとしていたのに、シャルネのあまりにもテンパる姿がかわいく見え始めたのかもしれない。はーっ、まあ、いっかという顔で、イケメンな笑顔を浮かべた。女性にしては高い身長、グレーの短髪に高い鼻、澄んだ銀目で見つめられると、男女問わず落ちるともっぱら噂なこのイケメン。学園内では、その身分と礼儀のなさにかかわらず、男女問わず人気があるとかないとか(お姉様が入学後すぐの手紙で教えてくれた)。ファンクラブと別に親衛隊まであるらしい。まともに笑顔を見てしまったシャルネの頬も少し赤い。
「みゃすって……そんな緊張しないで、別に君のこと、とって食いやしないから」
「ひゃっはい!」
「ユーリ、そういう表現はよくないわ」
シャルネはもう耳まで真っ赤である。ただ、流れる空気はさっきまでと違い、なんだかほのぼのとしてきた。ユーリは人の好き嫌いが激しいが、どうやらシャルネは我々のご友人として認められたようだ。
「ほら、早く座りなよ」
「緊張しなくてよいのよ」
二人の言葉にカチコチな動作ではあるが、ようやくシャルネも席に着く。
やっとこさ、お茶会が始まった。こういう場面では、会話を回すのがうまいユーリがいてくれるのは本当にありがたい。
Sクラスの授業の話、学園内のおすすめの場所、最近のはやり物、皆さまの恋愛事情、ユーリを取り巻くファンクラブと親衛隊の対立……。
こうして話していると、まさに女子会って感じではある。
「そういえば、風の噂で耳にしたのですけれど、あなたのファンクラブの会長様と親衛隊の隊長様、最近ご婚約が決まったそうね?」
「は?」「おお!」「!」
ふと思い出したように、お姉様が、非常に面白そうな話を投下した。
3人の心の声が、《何それ、詳しく!》的な意味合いのものでハモったとき、お姉様の右の手首あたりが、一瞬光った。
「ふふふ、この話は、また次の機会にいたしましょう。もうこんな時間ですし」
お姉様は自然な仕草で、室内の時計に目を向ける。ほんとだ、もう2時間近く経っている。
にしても、あの光、他の2人が気づいていないってことは、あの魔道具が誰かの魔法で光ったのか……?
「なんだ、また婚約者殿に呼び出されたのか?」
不機嫌そうな声でユーリがお姉様を軽く睨む。婚約者殿の身分を考えると、わりと不敬である。
お姉様は、扇子で口元を隠しつつ、私に何か促すような視線を寄こした。そうだ、一応、この会、私が主催者なのか。
「……そうですね、そろそろお開きにいたしましょう。シャルネ様、今日は来てくださってありがとう」
「こちらこそ!とても楽しかったです!お招きくださり、ほんとうに、ありがとうございましたっ!」
勢いよく立ち上がったシャルネが、そのまま勢いよく頭を下げた。確かこの国では、そのお辞儀は使用人が主人に対して使うものなんだけど。まあ、公式の場じゃないし、本気で感謝しているのがより伝わるってことで、ま、よいっしょ。そもそも礼儀っていうなら、ユーリはずーっとひどいし。
「また、お話ししましょうね」
「はい!」
なんとも良い雰囲気でひとまずこの会は終えられそうだ。うん、結構楽しかった。
「では、お先に失礼いたします!」
また、ぴょこんと頭を下げて、まずシャルネ様が退出される。
次いで、お姉様が、じゃ、私も行くわね、と立ち上がる。
で、現在、部屋に残ったのはわれら2人。
なぜかユーリはまだ立とうとしない。だが、私はそろそろ寮に帰らなければ時間がやばい。
「えーっと、ユーリ?」
「お前さ」
一応、お姉様と一緒に貴族の教育は受けているから、きれいな話し方もできるはずなのに、ユーリは基本、自分は平民だから、お作法がなっていませんスタンスを崩さない。本人なりに思うところがあるんだろうけど。
「気づいてんだろ?」
そもそも女子生徒として過ごす以上、そういう口調がいくら一部に受けるからと言っても、ほんと良くないと思うんです、私個人の意見ですが。
「おい、現実逃避すんな」
コツン、とおでこを突っつかれる。おい、イケメンだからって、なんでも許されると思うなよ。
「なんのことか分かりません。あと、私、次の予定があるから、早く帰って」
「あ゛?」
「だーかーらー」
ええ、ええ、何が言いたいかはだいたいわかってますよ!だーけーど、それ、たぶんもう少し後に起こらないと、攻略本からずれてしまうんですぅ!ストーリー離脱、ダメ!ループ、怖い、イヤ!
ただ、ここでうまく私が逃げたとして、本人に直接確認に行かれても困る。だが、今問い詰められて、ごまかす自信は一ミリもない。かといって、物理的に逃げるには、体格差的にも運動神経的にも魔法適性的にも勝ち目がない。
「あの子さ」
消極的対抗手段として、無言で残っていた紅茶を口に含む。
「俺と、同じだろ?」
はーい、詰んだー。
お読みくださりありがとうございました。
あと2、3話で次章に移る予定です。




