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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第四章 どうも、新入生です
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第17話 神様、仏様、リアス様

「はぁぁぁぁぁぁ」


 せっかくの豪華な天蓋付きのベッドにもぐりこんでも、ため息がとまらない。


――お父様も、わたくしも、あなたのことが心配なのよ。

――お願いよ、アンネ。私のかわいい妹。


 ……お姉様の心が、読めない。

 読まないのではなく、読めない。

 どうやら以前までつけていなかったペリドットのブレスレットが、読む力に特化した私の精神魔法を弾いているようだ。

 ここ1,2年、精神魔法を自分なりに鍛えた結果、人ごとの魔法の光が見えるようになった。精神魔法の色は基本金色。だけれど、術者によってその光の色味や模様が微妙に異なる。例えば師匠の金は、外にいくにつれて白くなるグラデーション、ラウル兄さまは金と白と黒のマーブル模様、私のは白地に金の粉がまぶされているような模様。

 だが、あの魔道具にまとわりついた金色は、碧と金のグラデーション。初めて見るものだ。碧は王家の色だから、おそらく王家の人間なんだろう。


 少なくともお姉様がラウル兄さまに近づかないように言っているのは、私の身を心配している意味合いが大きいはずだ。

 私にとってのお姉様は、攻略本を読む前も、今も、優しく、賢く、美しい自慢の姉に見える。だけれど、攻略本での断罪シーンを見ると、お姉様の行動には理解できないことが多すぎる。今後、ヒロインがどういう行動をとるか分からない以上、きっと設定の一部の悪行というか所業は既になされているか、今現在なされているのだろう。ま、知ったところで、私には、何もできないんだけどね。



――君が罪悪感を持つ必要はない。

――きっと、君が一度優しく接すれば、あいつは、もう二度と君から離れられない。

――そうなれば、あいつは、自分も君も不幸にしてしまう。


 師匠の言葉を、大げさだと軽く笑い飛ばすことは、できない。

 だって、ラウルは、私だけを家族として愛し、慈しむシスコンだから。そう、設定されているから。

 私が望まなくても私の敵(とラウルが認定した人)を排除し、私が将来生きやすいよう、私が幸せになれるよう、自らの魔法を使うのだ。

 そんなラウル兄さまを救えるのは私ではない。ヒロインが、ラウル兄さまの歪な従妹への愛をも受け止め、そのうえで外に目を向けさせ、ヒロインに対する恋心を抱かせることで、ようやくラウル兄さまは私から「解放」されるのだ。

 ちなみにラウル兄さまのバッドエンドでは、アンネを道連れに心中する。いわく、こんな世界に君を残してはおけない、というのだ。それがアンネと合意の上なのかは不明である(少なくとも私はラウル兄さまに死んでほしくないし、自分も死にたくない)。その結果、アシスト役を失ったヒロインはリセットしない限り、それ以上ハーレムメンバーを増やすことはできなくなる。だが、現実ではそんなことはできない。死んだら終わりなのは、このファンタジーの世界でも同じ。ま、バッドエンドであっても、それがヒロインが選んだ結果であって、攻略本どおりなんだったらきっと私のループは避けられるんだろうけれど。


 

 まだ、攻略本に書かれた乙女ゲームは始まらない。

 それでも、この世界の時間は刻々と時を刻み、そのスタートに向けて展開していく。


〈にしても、神様っていじわるだわ〉

 

 勝手に転生させられて、勝手によく知らない乙女ゲームのアシスト役に命じられて、そんでもって与えられた予言書は、あくまで主人公の行動の道しるべになる攻略本。一歩間違えたら正解するまで無限ループ。


〈せめてアシスト役がどう行動すべきか、っていう観点から予言本書き直しなさいよ〉


 毎週読ませてもらっていた攻略本は、ヒロインの選択肢については事細かに書かれてあるし、ざっくりとしたキャラクターの設定についても言及されている。

 それでも、少なくとも現時点で私が知っている目の前の彼らが、私の何気ない行動でどう変わってしまうのかは分からない。お決まりの転生小説だと、学園生活スタート前に転生者がかき乱して登場人物の性格が変わってしまうことも多々あるし……。


 ルーウェン、師匠、ラウル兄さま、お姉様、スファン……。今日だけでも5人の主要な登場人物と接している。

 これから、3年後に向けて、登場人物たちとの交流はどんどん増えていくのだろう。だけれど、そのときに誰かを救ってはならないし、いわゆる強制力みたいなものが働いていなさそうであれば、私がその舞台を整えるために動かなければならないのだろう。


 不安、憂鬱、という言葉では言い表せられない、ざわざわとした心が、きもちわるい。



「はぁぁぁぁぁぁ」

《ため息をついたら、幸福が逃げるんじゃなかったかの》

「ひっ……!」

《……なんじゃ、お主、わしがわざわざ来てやったというのに、無礼であるぞ》


 真っ白な子猫が、ベッドの上に浮いていた。

 暗闇に光る碧の目、虹色の魔法のオーラ。


「……リアス様」

《なんじゃ?》

「猫は、空を飛びません」


 猫はふっと笑う。普通の猫は、そんな風に笑えません。

 そういや、隠しルートに入るには、正規の攻略対象5人を攻略した後で、別のキャラを攻略中に通りがかった白猫にタッチしなければならないらしいから、学園ではこっちがリアス様の通常モードなのかもな。


《それは、お主が使い魔を見たことがないだけじゃ》


 なんだか論点がずれている気がする……。いや、もう何も言うまい。


「……こんな時間にどうされたのですか?」

《何をいう、いつもの時間じゃ》

「……そうですけど、でも学園に入ったら、もう連れていけないっておっしゃってましたよね?」


 そう、先週、いつも通り水晶の塔で攻略本の復習をしていたとき、リアス様がそう言ったのだ。いわく、聖リアス学園は特別な結界の中だから、リアス様の出入りも記録されてしまう。だから、次の機会は帰省したときになるって。退出5分前とかいうぎりぎりのときに、あなたおっしゃいましたよね??


《うむ、今日は別の用事もあったからの。ついでにお主に入学祝いでもやろうと思ったのだが……》


 にやりと笑う猫、もといリアス様。怖い。


《ま、優秀なお主には、いらぬかもな》

「……大変失礼いたしました。」


 リアス様との付き合いももう5年以上になる。この方が気分屋なのは今に始まったことじゃないし、下手に機嫌を損ねると後々面倒であることも、既に経験済みだ。


《ほれ、手を出せ》


 素直に手を出す。


「にゃぉーん」

「!!」


 鳴き声とともに、虹色をまとった黄色い光が指元を包む。つまり、王家の得意魔法、万物を育成する土の魔法が発動したってことだ。

 


《お主の記憶の中から、予言の書に関する記述だけを書き込んでやったぞ。ほれ、魔力を流してみよ》

「!!」


 金の土台に、真っ青な宝石が1つ。小粒のブルーサファイアがついた指輪が、右手の薬指で輝いている。

 早く試してみろ、と言わんばかりの顔でリアス様がこちらを見つめている。


 おそるおそる、左手をかざし、魔力を込める。


「うわぁ……!」


 シンプルに感嘆の息が漏れた。

 前世で読んだ転生悪役令嬢を主役にした物語に、こういう風に自分にだけ見える半透明のタッチパネルが現れる、というものがあった。そんな感じで、外に持ち歩けないのかなぁ、といつか思った気がする。確かそのとき、その発想、面白いな、っていきなりリアス様に言われたことがあったような、なかったような……。


 目の前に現れた半透明のパネルは、「攻略本」と書かれた中表紙を移している。

 おそるおそる手を伸ばして、パネルの右端をタッチすると、攻略本と同じく目次が現れた。しかも、ちゃんと見開きで見れる。


「リアス様……ありがとうございます!!」


 心からの感謝の言葉だ。かつてないほどに感激している自覚がある。

 リアス様、最高!万歳!


《指輪自体、お主以外には見えない仕様にしておいたから、安心して励むがよい》


 神か。神はいた。

 

《……これもついでじゃ》


 膝上あたりで浮いていたリアス様が、そのまま宙を歩いて目の前に来た。

 わあ、綺麗なピンクの肉球……。ぷにっ。



「良い夢を」


 なんだ、ねこのすがたでも、はなせる、の、ね……。

 


 心地よい眠りに身をゆだねる直前、リアス様が何かをつぶやいたような気がした。



◆◆◆

「……もうすぐ会えるね、シア」

お読みくださりありがとうございました。

次回も、日曜日22時更新です。

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