表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第四章 どうも、新入生です
16/56

第16話 忍者登場

*名前の誤字を訂正しました(24/1/24)

 自室に案内されて、ようやく一息。

 ふかふかのソファに沈みつつ、意識が遠のき始めたとき、控え目なノックの音がした。

 正直、もうお腹いっぱいなので、来客は明日以降にしてほしいところであるが……。


「お嬢様、ローゼリア様がいらっしゃいました」


 ですよね~。だらしなく崩れた姿勢を正しつつ、頷く。


「あら、アンネ、ごめんなさい。長旅のところ、疲れもたまっているわよね」


 ドアからソファまで、そこそこ距離があるにもかかわらず、敏いお姉様は部屋に入った瞬間、私の疲労を見破った。確かに、私は今、身体的にも精神的にも疲れている。

 だが、お忙しいお姉様がわざわざ来てくださったのだ。帰られては困る。


「慣れない馬車旅でちょっとだけ疲れただけですわ!お姉様、来てくださって、ありがとうございます!」

「そう?」


 猫のような目が、少し心配そうに細められる。

 相変わらずの金髪ドリルが、歩く度に少し揺れる。ついでに悪役令嬢のお決まりのたわわに育ったお胸も揺れる(うらやましい)。


 初等部も高等部も制服のベースが碧色なのは同じ。だけれど、デザインは結構違う。

 初等部は、男女ともに上下が分かれていて、女子はスカート、男子は半ズボン。その上にケープを着る。他方、高等部では女性は白のワンピースの上から、長いローブを羽織る。男性もローブは同じだが、下のズボンが半ズボンから長ズボンになって、首元もリボンからネクタイに変わる。

 何が言いたいかというと、お姉様の高等部の制服姿がめっちゃ綺麗ってことなんだけれど。


「アンネ、とても制服が似合っているわ」

「お姉様こそ!とても美しいですわ!」


 食い気味で返事をすると、ふふふっと微笑まれるお姉様。

 だけれど、すぐに眉毛が下がる。


「さっきはお迎えに行けなくて、ごめんなさいね」

「いえ、それよりも、高等部、首席入学、おめでとうございます!」

「ありがとう」


 また、ふふふ、と微笑むお姉様。

 昔、近所の幼なじみと泥だらけになって遊んでいたとは思えないような、完璧な淑女の姿。

 なんだか、遠い人のように感じてしまう。


「王太子殿下も、是非あなたに会ってみたいとおっしゃっていたから、また今度一緒に伺いましょうね」

「……はい」


 ほんとは、王太子殿下とはあんまり会いたくないけれど……。お姉様がそうおっしゃるならば!

 王太子。この2年、お姉様とあまり会えていない最大の元凶である。

 王太子殿下などと他人行儀に呼んでいるが、お姉様は正式な王太子の婚約者だ。

 私が、その魔法の特性ゆえによその家にお嫁に行かせ難い、というか、国のお偉い方的にはそもそも結婚させることすら反対の声が多いらしい(師匠情報)なか、よその家とのつながり、という話になったそうだ。そんで、もともとは公爵家に残って分家から婿を迎える予定であったお姉様が嫁ぐこととなったらしい(というのが表の説明)。

 まあ、実際には、私の魔法属性に目を付けた王家から、、お姉様の子や孫も、そういった強い精神魔法を受け継ぐ可能性があるってことで話が持ち込まれたみたいだ(お母様の心を読んだ感じ、これが本当の理由だと思われる)。


 さて、で、この王太子。どうせ攻略対象だろ、って思うでしょ?正直、妹としては、そうであってほしかった。……だが、なぜか悪役令嬢の婚約者のくせに、この人の名前は正規の攻略対象5人はおろか、その他45人の中にも含まれていない。

 むしろ、攻略本を見る限り、この王太子は、悪役的な仕事をしている。その結果、メイン・ヒーロー的なポジションにいる第二王子リファリオ殿下の攻略に成功した場合(ハーレムルート含む)、お姉様とともに王太子は破滅する。ちなみに、リファリオ殿下の単独ハッピーエンドで終わってしまうと、お姉様だけではなく、我が家全体が王家転覆を目論んだ罪でお家のお取り潰し+全員処刑である(そんで第二王子が王太子になって、最終的にはヒロインちゃんが王太子妃、ゆくゆくは王妃におさまるってわけです)。攻略本では後日談として、1行でさらっと書かれているだけだが、これを読んで以降、いろんな方法で処刑される悪夢をたびたび見る。ううう、つらい。


 まあ、王太子殿下の何が一番いやかっていうと、その性格なんですけどね。まだ直接は会ったことはないけれど、攻略本のキャラ紹介とか、各攻略ページを見ている限り、王太子は我が麗しきお姉様を溺愛というよりかは、崇拝している節がある。なんてったって攻略本に書かれたキャッチフレーズ(攻略対象以外にもある)は「僕の薔薇姫、君の望みは?」だ。正直、ちょっと、いやだいぶ気持ち悪い。お姉様と思われる女性の足の前にひざまずいて、恍惚とした表情を浮かべたイラストは見た瞬間、思わず「げっ」って声が出だ。

 実際、下位貴族出身の使用人たちの心の声を探ると、お姉様や王太子の話題が出る度に、「あー、ローゼお嬢様おいたわしや」という声ばかりが聞こえる。

 そんな人なら、正直、将来王様になんかなってほしくはない。とはいっても、お姉様も巻き込んで破滅されると困る。そうなると、ヒロインちゃんには、第二王子を含むハーレムエンドで終わらせてほしい。ハーレムエンドでも、王太子は皇位継承権を失うが、確か王太子が反省して、お姉様を諭し、お姉様も改心して、二人はともに遠く離れた離宮で、静かに幸せな余生を送る、的なことになる。うん、まあ、それってお姉様ほんとに幸せなの?とは思うし、そもそもヒロインちゃんって、お姉様より優秀なんすか?みたいな疑問はあるけれど、幸せって書いてあるんだから、幸せになれるって信じてます。はい。



「アンネ?」

「はい!」


 いけないいけない。お姉様の前なのに。

 お姉様は、音もなくティーカップをソーサーに戻す。

 音がなさすぎて、そもそもティーセットが出ていたことすら気づかなかったぜ。


「ファリオット様に会ったのよね?」

「……はい」


 あ、怒られそう。

 ルーウェンが、お姉様に連絡をとるとは思えないし、シャネルはずっと私に付いていたはず。ラウルお兄様が、わざわざお姉様に言うことは考え難いけれど……。


「先ほど、スファンから聞いたのよ」


 相手の少しの沈黙から、その気持ちを読み取る。さすがです、お姉様。


「ああ、……スファンのこと、まだアンネには紹介していなかったわね」

「……はい」


 まあ、知ってるんですけどね。


「スファン、来なさい」「はっ」

「……っ」


 うぉ、びっくりした。ほんと、どっから入ってきたんだ。

 音もなく、お姉様の横にひざまずく一人の青年。服も髪の毛も瞳も全部真っ黒。

 攻略本で見てたときから思ってたけど……予想以上に忍者すぎる!


「私の従者、スファンよ」


 王家の守り人、黒の一族。後の第126代当主にして、正規の攻略対象の一人、スファンの登場である。 

お読みくださりありがとうございました。

毎週日曜22時更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ