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両手にヒロイン、どうもアシスト役です  作者: riyu-
第四章 どうも、新入生です
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第14話 うちの師匠はデリカシーがない

 「ねえねえ、君、アンちゃんと血がつながってないんでしょ~?」


 馬車がスタートするや否や、第一声がこれである。

 そもそも、なんで当然のような顔であんたも乗ってるんだよ。


 「ええ」


 ルーウェンの目つきがちょっと険しいのも、相手が同じ四大貴族の人間であることを考慮すると、ちょっとよろしくはない。

 そもそも師匠よ、変装しているなら、本名を名乗らないで欲しい。そしたら、弟も、こんな不審者、さっさと追い払えたのに。


 「え?だって、こいつらが僕の名前呼んじゃったんだから、違う名前言えなくなーい?」


 肩の上の妖精たちを指す。妖精たちは、さっき師匠が取り出した棒付きキャンディー(リアス様の魔力入り)をもらって、すっかり機嫌を直している。

 妖精は嘘がつけない。だから、師匠がいくらここで偽名を名乗っても、本名で呼ばれてしまう、ということだろう。



 相変わらず、この人は息を吸うように人の心を読む。

 師匠の姿を認識した瞬間、自分の心のガードを最大レベルまで引き上げつつ、ルーウェンの分もかけたんだけど、一足遅かったようだ。


 師匠曰く、ポテンシャル的には、読む力と守る力は私の方が上らしいんだけど、師匠の精神魔法の特性として、いったん相手の心に入ったら、師匠の視界に入っている間だけではあるけども、自分が寝るまでその心を自由に歩き回れるらしい。

 そういう魔法を使う奴もいるから、ほんとに大事な情報は、常に最大レベルで鍵をかけておけっていうのは、この人が初回の授業で教えてくれたこと。それ以降、私が転生者であることとか、予言の書の存在、内容については実践している。だけど、心を守るのにもそこそこ魔法力を消耗するから、常に全部を守ります!ってのは、現状、無理なんですよ、私には!

 つか、だからさっき先に魔法を発動するために、馬車の影に隠れていたんでしょ、ほんと大人げない。


 「あ、でも、僕も正体ばれちゃだめだから、アンちゃんと3人のとき以外は、僕の本名、呼ぶの禁止ね?」

 「<約束だよ?>」


 うっとおしい前髪に隠れた目が金色に光る。

 一応、精神魔法は、人に対して故意に使うことが原則禁じられている。

 ただし、この人は、例外だ。役職上、本人の意思で自由に使うことが許可されている。

 そうだといっても、こんな気軽に使っていいもんではないはずなんだが。


 一瞬、ルーウェンの瞳が濁り、こくんと首が縦に振られる。

 これで、この人の精神魔法、言霊(ことだま)は完成だ。

 これは、その名の通り、言ったとおりの言葉を現実にする魔法。精神魔法の最高峰とも言われ、代々ファリオット公爵家で受け継がれるものだ。いろいろと条件とかがあるらしいが、ファリオット公爵家の現当主の弟である師匠は、初代当主様以来の適格者らしい。魔法の継承も史上最年少の14歳で行っている。

 もっとも、ならば、もっと幼少期から倫理観とか倫理観とか、教育してほしかった。

 

「ルーウェン、大丈夫?」


 その横では、次にシャネルに同じように魔法をかけている師匠。

 いや、そんなことしなきゃいけないなら、そもそも今、私に会いに来なければよかったでしょ……。


「この侍女さんには、記憶操作と睡眠魔法をかけておいたから、あとでうまくやってね~」


 ほんと、なんでこんな人が、師匠なんだろ……。

 


「……では、なんとお呼びすれば?」


 意識が覚醒したルーウェンの目は、もはや据わっている。

 そうだよね、人前でその名を呼べないのに、親し気に話しかけてきそうな雰囲気あるもんね、この人。実際、たまに、自分で魔法かけたくせに、それ忘れて話しかけたりしてるからね、この人。


「えー、別に今後君に用はないと思うから、名乗る必要なくなーい?」

《師匠、いいかげんにしてください。》

「うーん、まあ、アンちゃんがそういうなら、名乗るだけ、名乗ってあげるねーっ」


 ウインクいらねー。


「お初にお目にかかります。王宮からの使者、メサジェと申します、以後お見知りおきを」


 わざとらしい一礼もちょっと鼻につく。

 第一、普通、王宮からの使者が、Sクラスの貴族に名乗る場面なんてないでしょ。


「はい、これでいいでしょ?」


 にっこり。叔父なだけあって、笑った顔がどことなくラウル兄さまを思い出させる。


「それに、別にからかいにだけきたわけじゃないよ~」


 急に真面目な雰囲気をまとって、じっと、私の目を見る。

 横で、警戒モードを高める弟。



「ラウルとももう3年くらい生で会ってないでしょ?」

「……はい」


 胸の奥に、ズキンとした痛みがよみがえる。


「ま、会えてない、って言う方が正確だよね~」


 つぶやくように言い直されても、私には何も答えられない。

 唇をぎゅっとかみしめる。


「アンちゃん、僕は、ラウルの叔父だけど、君の師匠でもある。だからね、……」



 師匠の目の奥に、一瞬、悲しみの色がよぎった気がした。 



「ひとつ、忠告、というか、お願いをしに来たんだ」


 何もわかっていないであろうルーウェンの心配そうな視線を横から感じる。

 そんなひどい顔はしてないと思うんだけど。

 だけど、安心させるような笑顔を浮かべる余裕はない。ただ、じっと師匠を見つめる。

 


《あいつを、……救えないなら、棄ててほしいんだ》


 アンネヘルゼ・リヴァルウェンにだけ聞こえるその声は、少し、震えていた。

お読みくださりありがとうございます。

メリークリスマス!

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