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五話

 僕が窓際に座る学園系作品の主人公なら、真水さんはミステリアスな生徒会長で、岸田さんはおちゃらけ名脇役ってところか。

 まあ、そう遠くないうちに席替えがあるだろうから、僕は別に学園系の主人公にはなり得ないけどね。



 現実逃避はやめよう。

 岸田さん、フルネームで岸田春香さん。

 授業の合間に改めて自己紹介をされて、下の名前を知るに至った。

 なんとなく、名前と性格が一致していない感じもするけど、僕との相性で言えば、遥か彼方でバッチリなので良しとする。

 名字も水辺の一種だし。


 彼女に誘われて、真水さんも含めたメンバーで学食に行くことになった。

 ついでに、真水さんの近くにいた男子を一人と女子を二人。

 どう考えても、噂話のスピーカー役だ。

 誰かの意図があるかないかに関わらず、こいつらは絶対にそう。

 別に僕は当たる占いも当たらない勘も持ち合わせてはいないけれども、それだけはわかる。



 真水さんはチキンカツ定食、岸田さんはカレー、僕はきつねうどん。

 各々が頼んだものをトレイに載せて席に着くと、早速岸田さんの口が滑らかに動き出す。



「ねねね、真水さんは本当に蟹江君と付き合ってないの? 朝、すごく仲良さそうだったよ?」


「うん、本当だよ。今はまだそんな関係じゃないよ」


「いや、ちょっ……」

 ああ、真水さん、そんなベタベタな言い方をしたら……


「今は!? まだ!? じゃあそのうち!?」


「おおおおお!」



 岸田さんと一緒に外野三人が大きく声を上げ、何事かと近くの生徒がこちらに注目する。

 酷い状況だ。



「先のことは誰も分からないし。でしょ?」



 三歩先の爆弾は分かったじゃないか、手品師め。



「じゃあ占いは!? 朝、蟹江君にしてたやつ!」



 どうやら、岸田さんはその話のくだりもしっかりと見聞きしていたらしい。

 目敏(めざと)いな。



「してもいいけど、分かっちゃったらつまらないから内緒」



 例によって、真水さんはふふっと笑いながらそう答えた。



「えええ! でも内緒にするってことは……うーん」


「ふふふ」



 真水さんは岸田さんで遊ぶのが大層楽しいらしい。

 朝よりもよく笑っている気がする。



「じゃあ、結果が出たら、その時は教えてあげるね」


「しょーがないなぁー、それでいいよ!」



 被害者が僕しかいない協定が今、目の前で結ばれてしまった。

 結果って何だ。

 どっちかが告白した時の合否か。

 どちらの結果でも、誰かに知られたら赤っ恥じゃないか。

 勘弁して欲しい。



 真水さんは、岸田さんで遊んでいる振りをしながら僕で遊んでいる。

 間違いない。

 かなり性格が悪い。

 いや、良い性格をしている。

 酷い話だ。



「あ、そだ! 皆インスタやってる? 交換しよー!」



 岸田さんの掛け声で連絡先交換が始まった。

 外野の男子は猿渡(さわたり)、女子は似鳥(にとり)(いぬい)と言うらしい。

 完璧天才少女真水さんが、しっかりと名前を呼びながら会話をしてくれたので、お互いに名前を知ってる振りをしなくて済んだ。



「あれ、真水さんと蟹江君はしないのー?」



 この子は本当、無駄に目敏い。



「ふふ、実はもう朝の時にしたの」


「そうなんだ! 気づかなかったー」



 真水さんがサラッと躱してくれた。

 まあ元は彼女が一方的にDM送ってきたんだけど。



「蟹江君、なんか鼻汗凄くない? ポケティあげよか!?」


「もらう」


 岸田さんのせいでかいた冷や汗を、彼女にもらったポケットティッシュで拭う。

 でも、これで埋まっていた地雷は処理されたので、ようやく安心して過ごせるようになった。

 後はモブハーレム野郎とか言われないように、男友達を作らないと。

 猿渡くんは教室の席が僕の斜め前なので、とりあえず彼が、第一号になるだろうか。



 岸田さんを中心に、賑やかに会話をしながらお昼御飯を食べ終え、皆で教室に戻る。

 途中で予鈴が鳴ってしまい、どうも結構な時間食堂にいたようだ。



 授業は初日だけど、がっつり七限までやってから解散。

 きび団子の三人は電車通学ではないらしく、真水さん、岸田さんの二人と一緒に駅まで歩いた。

 両手に花を持たされることを喜ぶべきか、他の生徒からの視線に戦慄(わなな)くべきか。



 帰宅すると、真水さんからのDMが届いていた。



『今日は蟹江君のおかげで友達沢山出来たよー。ありがとう!』


『それは僕も同じだから。こちらこそありがとう』


『ふふふ。蟹江君は意外と謙虚な所あるよね』



 真水さんの方は意外と失礼な所がある。



『全然意外じゃないよ。僕はいつも大体謙虚だよ』


『そうかなあ。謙虚じゃない蟹江君も私は嫌いじゃないから、隠さなくてもいいと思うけどね』


『ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。』


『あー、わざと謙虚ぶってるでしょ、今!』



 だって、正面から言われると普通に照れるし。

 やめてほしい。



『まあね』


『食えないなぁ。あ、明日なんだけど、電車一本分早く家を出たほうがいいかも』


『真水さんよりは食えるよ。蟹だし。それって占い?』


『つまんないから却下! うん、そう』



 名前を使った渾身のギャグ却下は酷い。



『じゃあ食べてもらわなくてもいいや。電車一本分ね、わかった。ちなみに恋愛占いはもう品切れなの?』


『だって蟹江君、今は別に好きな人とか気になる人とかいないでしょ?』


『おお、当たってる。すごい』



 いや、本当に。

 タネがまるで分からない。



『異性と会話してるのに、気になる人もいないとか、結構失礼だからね? 普通はぼかすくらいするんだよ。』


『真水さんみたいなモテそうな子に、僕がそんなことしても仕方ないかなって』


『私はまあ、分かってるから別にいいけど。占いだと、蟹江君は遠からず好きな人が出来て、その人とは両思いで結ばれるらしいよ』


『へええ。てことはウチの学校の子の誰かなのかな』


『そうそう』


『誰かまではわからないの?』


『それはつまらないから秘密』


『ケチ』


『大人しく占いの結果が出るのを待ってください』


『しょうがないなー』



 その後も食事やお風呂を挟んでダラダラとDMで話していると、遅い時間になってしまった。



『明日早起きしないとだから、もう僕は寝るよ。おやすみー』


『わかった! 気をつけてねー』






 翌日、二十分ほど早く出て駅に向かう。

 通勤通学の時間帯でも一時間に三、四本しか出ていないので、こっちで電車一本分だとそれくらいの時間になる。



 駅のホームに立ち電車を待っていると、にわか雨が降ってきた。

 尋常ではない量で、ホームの屋根に当たる雨音の余りの大きさに、雑踏だとかアナウンスだとか鳥の鳴き声だとかのあらゆる音が聞こえなくなる。



 数分ほどで雨は止み、風がなかったので幸い濡れなかった。

 ふとホームの端っこ、屋根のない辺りを見てみると、水溜りが出来ている。

 時間換算でどれだけの降水量だったのやら。

 100mm近くあったのかも知れない。



 真水さんの占いはこれを予知していたのか。

 そう、これは予知だ。

 どう考えても。

 空の上から雨雲の動きを見ていても予測不可能なゲリラ豪雨。

 予測出来ないのならば、予知しかない。

 コンピューターが五割を十割にすることなんて出来ない。

 永遠に五割だ。

 占いと同じ、当たるも八卦当たらぬも八卦。

 出来るのは全知全能の存在だけ。



 いよいよ真水さんの正体が分からなくなってきた。

 ミステリアスクールビューティー未来予知系当たる占い師JK。

 属性盛り過ぎなんだよ。

 どうなってるんだ、あの少女は。

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