第六十一話 前世のわたし・お誘い
しかし、わたしにとって、殿下は遠い存在。
殿下の婚約者になりたいと思っている人はたくさんいる。
そして、その中には、わたしより素敵と思う人がいた。
たださえ無理だと思っていたわたし。
そしてなによりわたしは、生まれつき体が弱かった。
このままだと、生きられて五歳まで、と主治医は言っていたと聞いた。
ただ、主治医の努力と、両親の愛のおかげで、その五歳のところは越えることができた。
その後も病気がちではあったが、なんとか今まで生きることができた。
学校に入学してからは、時々体調が悪化して休むことはあるが、通い続けられている。
しかし、もし殿下がわたしのことを好きになったとしても、この体では殿下の婚約者はつとまらないだろう。
それが残念でしょうがない。
でもそれでいいのだと思った。
わたしのような女性は、本来殿下とお近づきになるだけでも光栄なことなのだ。同級生になっただけでも、幸せなことなのだ。
そう思って、自分の心を納得させようとしていた。
ところが、殿下は、わたしに話しかけてくるようになった。
どうしてわたしのような病弱な子に、と思う。
クラスの中には、ゴージャスで婚約者候補の一番手と噂される女性や、二番手と噂される女性もいる。二人とも公爵家だが、家格はわたしの家よりも高い。
殿下に積極的にアプローチをしていて、どちらが殿下の婚約者になるか、その話で持ち切りだ。
当然のことではあるが、二人からすると、わたしなど存在していないに等しいのだと思う。
そんなわたしなのに、殿下は毎日わたしを昼食に誘うようになった。
最初に誘われた時、わたしは、
「殿下、わたしのようなものを誘ってよろしいのでしょうか? もっと殿下にふさわしい方がおられるのでは」
と言った。
殿下はハンサムで文武両道な素敵な人。
わたしのクラスの婚約者候補の人たちの方が、よっぽど殿下にふさわしいのではないかと思った。
しかし、殿下は、
「わたしは、きみと昼食が食べたいんだ。きみだから誘っているんだ」
と微笑みながら言う。
「わたしは病弱で、魅力もありません。殿下にはもっと一緒に食事をするにふさわしい女性がいると思います」
「わたしは、きみのこと、才色兼備でやさしい心を持っている素敵な人だと思っている。そうした人と一緒に食事をし、話をしたいと思っているんだ」
殿下はやさしくわたしに言った。ちょっと恥ずかしそうだ。
「それは買いかぶりだと思います」
「そんなことはないよ。それだけきみは素敵なんだ」
殿下はわたしに好意を持っているのだろうか。
そうだとうれしいんだけど。
とにかくせっかく誘ってくれたんだ。
一緒に食べても、つまらない女性と思われて、その一回限りになってしまうかもしれないけど、それはそれでしょうがない。
「お誘いありがとうございます。殿下さえよろしければ」
恥ずかしい気持ちになったが、なんとか言えた。
「ありがとう。これからよろしく」
わたしに頭を下げ、喜ぶ殿下。心からうれしそうだ。
「よろしくお願いします」
わたしも頭を下げる。
うれしい気持ちが湧き出してきていた。
「面白い」
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