第五十九話 殿下とのお茶会
ここは、殿下の執務室の近くにある庭。
殿下とわたしは、さわやかな空気の中、優雅に紅茶を飲んでいる。
紅茶もおいしいし、お菓子もおいしい。
そして、おしゃべりも楽しい。
しかし……。
わたしは、どうしても心から楽しむことができない。
なぜ殿下はわたしのことを抱きしめてくださらないのだろう。
キスしてくださらないのだろう。
わたしの方は、一生懸命心の準備を整えてきたのに……。
好意は持っていても、恋人にするまでの魅力がないということなのだろうか。
そうなると、恋人への道は遠くなってしまうのだけど。
やはりもうわたしから、殿下にアプローチをかけるしかなさそうだ。
クラディナさんも、自分からアプローチをかけて、キスまで進むことができたと言っていたし。
殿下に、
「わたし、殿下の為ならばすべてを捧げることができます。抱きしめてください。そして、キスしてください。お願いします」
と言ってみよう。
そう心の中で強く思ったのだけど。
しかし、殿下の微笑みを見ていると、そういう気力は萎えてきてしまう。
ああ、どうすればいいんだろう。
このままでは一日が終わってしまう。
悩んでいる内に、夕方になってきた。
結局、殿下とそれ以上進むことはできていない。
そして……。
「セラフィーナさん、今日はありがとう。お茶会をすることができて、本当によかった。セラフィーナさんと紅茶を飲み、お菓子を食べて、おしゃべりをするということは、本当に楽しいものだ」
殿下は微笑みながら言った。
こう言うということは、もうお開きの時間が迫っているということだよね……。
もう少し一緒にいたいし、ただ一緒にいれるだけじゃなくて、キスまで進みたい。
でも、今日はあきらめざるをえないなあ……。
「わたしの方こそ、お招きいただき、ありがとうございます。わたしの方も楽しませていただきました。素敵な時間でした」
「そう言ってもらって、わたしもうれしい。これからも定期的にしていきたいが、来てもらえるかな」
「もちろんです。殿下にお呼びいただけるのであれば、いつでも参りたいと思っています」
「ありがとう。そう言ってもらえるとありがたいし、うれしい」
今日はもう無理だが、また次のお茶会がある。そこで、今度こそキスまで進みたい。
「では、もう一回、庭を散歩しようか」
「もう一回ですか?」
これは予想していなかった申し出。
「昼と今の時間ではまた風景が違うんだ。この時間の風景も味わってもらおうと思ってね」
もう少しだけ殿下と一緒にいられる。それだけでもよしとしよう。
「ありがとうございます」
「じゃあ、行こうか」
殿下とわたしは立ち上がり、歩き始める。
「段差に気をつけてね」
殿下が言った。
わたしは、しかし、その段差につまずいてしまう。
転びそうになった瞬間。
わたしの手を殿下がつかんでいた。
「大丈夫?」
殿下は心配そう。
「転ばないですみました。殿下、ありがとうございます。大丈夫です」
わたしがそう言った途端。
殿下のやさしさがわたしの中に流れ込んでくる。
それと同時に、前世の記憶が奔流のように流れ込んできた。
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