第五十六話 殿下からのお誘い
殿下も、わたしと前世で出会ったかもしれないと言っている。
「ただ、それ以上のことは思い出せていない。もっと思い出したいと思っているのだが……」
残念そうな殿下。
「どうだろう。こういう話を聞いて。ありえない話だと思うだろうか?」
「いや、そんなことはありません。わたしも殿下と始めて会った時に、なつかしさを覚えたんです」
「わたしになつかしさを?」
「そうです。どこかで会ったような気がして。それに、リナグリッドという名前にもなつかしさを覚えます」
「そうだったんだ……」
「ただ、わたしの方もそれ以上は思い出せなくて……。申し訳ありません」
「いや、いいんだ。前世での話かどうかはわからないところはあるが、少なくとも、お互いなつかしさを覚えていることは言えると思う」
「そうだと思います」
「あなたの方はわからないが、わたしは、あなたと前世で出会っているといいなあ、と思っていた」
「わたしもそう思います」
「そして、これからは夢の話だけど、わたしは夢の中では、婚約することができなかった。婚約して結婚できていたらいいなあ、と思ったんだ」
殿下はそう言った後、恥ずかしそうにしている。
殿下は夢の中の話と言っている。
しかし、もしかすると前世で、前世のわたしと婚約、そして結婚しているといい、と思っているのではないだろうか。
そして、この世でもそうしたいと思っているのかもしれない。
そう思うと、わたしも恥ずかしくなった。
いや、それはわたしのただの願望かもしれない。
殿下がわたしに恋をしているというのは、わたしがそう思っているだけなのかもしれない。
そして、『わたしは、あなたと前世で出会っているといいなあ』と言っているが、わたしに恋しているとは言っていない。
期待をした分、それが思っていることと違ったら、心に打撃を受けてしまうだろう。
ここは期待をあまりしないように、と思う。
わたしがそう言う気持ちになっていると、
「セリフィーヌさん、わたしはあなたに言わなければならないことがある」
「なんでしょう?」
改まった殿下の表情。
「わたしは……」
そう言うと、殿下は一回言葉を切る。
かなり緊張しているようだ。
わたしの方もドキドキしてくる。
告白だろうか? いや、それはないだろう。でも殿下は緊張している。
しばし沈黙の時間があった後、殿下は、
「次々週の休日の午後、庭を一緒に散策した後、この庭であなたとお茶会をしたい。午前中は仕事をしてもらい、午後に残ってもらう形になる。一日ここにいることになって申し訳ないが、お願いしたい」
と言った。
お茶会、それはもしかするとデートではないだろうか……。
わたしの心は沸騰していく。
「どうだろう?」
「喜んで参加させていただきます」
わたしがそう言うと、殿下は満面の笑みになった。
「ありがとう。これで気力が湧いてくる」
「そんな、大げさです」
「そんなことはない。わたしはあなたと一緒にいる時間が好きなんだ。セリフィーヌさんの方はどうかな?」
「わたしも殿下とご一緒にしている時間が好きです」
本当は、殿下のことが好きです、と言いたかった。
もしかすると、殿下もわたしにそう言いたかったのかもしれない。
そう思っていると、ドアをノックする音がする。
侍医の診察の時間だ。
夜になってきている。
もう少し話をしていたかった。
殿下との距離をもっと縮めたかったが、それはまた次の時。
わたしもそろそろ帰らないといけないだろう。
「今日は本当にありがとう。これからもよろしくお願いしたい」
「わたしの方こそよろしくお願いします」
わたしたちは、微笑み合った。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
と思っていただきましたら、
下にあります☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に思っていただいた気持ちで、もちろん大丈夫です。
ブックマークもいただけるとうれしいです。
よろしくお願いいたします。




