第五十四話 手を握り合うわたしたち
わたしは、帰り仕度をしようとしていた。
殿下はまだ眠ったまま。
目を覚ましてもらって、殿下の声を聞きたかったんだけどなあ……。
心配ではあるが、もうそろそろ帰らなくではならない。
お名残り惜しいですけど、仕方がないですよね。
そう思っていると、殿下は、
「わたしは、あなたと出会ってから、ずっと好意を持っていた」
と寝言を言い出した。
どうしたのだろう、と思う。
すると、
「リ、リナグリッドさん、わたしはあなたのことが好きなんだ。婚約してほしい」
と殿下は言った。
リナグリッドさん? 婚約?
わたしはその殿下の言葉になつかしさを感じた。
わたしは、殿下と初めてあった時から、どこかで会っていたという気がしていた。
自分の気のせいかもしれないと思っていたが、この言葉を聞くと、ますますその気持ちは強くなる。
リナグリッドという名前。そしてそのやさしさのこもった声。
どこかで聞いたことがある。でもどこで聞いたのだろう。
わたしの名前はセリフィーヌだし、殿下とはまだこういう会話ができるほど親しくなってはいない。
今まで出会った女性の可能性もあるのでは、とも思った。
しかし、殿下は今まで女性と付き合ったことはないと言っていたので、この世の女性のことではないだろう。
もしかすると、前世でのことだろうか?
前世でわたしはリナグリッドという名前で、前世の殿下と知り合って告白されたのかもしれない。
この世でも殿下と出会い、親しくなりつつある。
そうであれば、この世でも殿下に告白される可能性はあると思う。
いや、そうであってほしい。
前世からの縁でこの世でも出会っているのだとしたら、うれしい。
ただ、今はなつかしいということしか思い出せない。
前世で殿下と出会っているのなら、もっとたくさんのことを思い出していきたい。
そう思っていると、殿下は、
「う、う」
と言いながら、目を覚ました。
殿下が目を覚ましてくれた!
うれしさが湧き上がり始めた。
殿下の寝言も気になるが、それ以上に殿下が目覚めたことがうれしい。
「ここは?」
「殿下の寝室です」
「セリフィーヌさん……」
「殿下は執務室で倒れた後、ここに運ばれたのです。そして侍医の診察を受けられましたが、殿下はずっと眠っておられました」
「そうだったんだ……。セリフィーヌさんはずっとここにいてくれたんだね」
「わたし、殿下のことがずっと心配で、ここにいさせてもらいました」
わたしは少し涙声になる。
「ありがとう」
そう言った後、殿下は恥ずかしそうに、
「手を握ってもいいかな」
と言ってきた。
わたしは少し恥ずかしい気持ちになったが、我慢して、
「もちろんいいです」
と言った。
殿下は、わたしの手を握る。殿下がわたしの手を握るのは初めてだ。
夢にまで見た、殿下の手の感触。心が沸騰していく。
「あなたの手を握ることができてうれしい。ありがとう。もう手を離そうと思う」
殿下は恥ずかしくなったのか、わたしから手を離そうとする。
「い、いえ、殿下のやさしさが流れ込んでくる気がするので、もう少しこのままでいていただけるとうれしいです」
わたしは、先程よりもさらに恥ずかしい気持ちになりながらも、なんとか我慢してそう言った。
「わ、わかった」
殿下はわたしの手を握り直す。
「お体の方はよくなってきましたでしょうか?」
「だいぶ良くなってきていると思う」
「良い方向になってきたのは、わたしとしてもうれしいです」
「侍医は、なんといっていたんだろう?」
「過労だと言っていました」
「過労か……」
「殿下は、激務でお疲れだと、わたしも思っておりました。殿下がお止めすることができればよかったと思っています」
「気にすることはない。休養すれば回復すると言ってくれたのだろう?」
「はい。二日もしくは三日あれば。ただ……」
「ただ?」
「倒れることが、これから先何度もあるようだと、生命に関わってくると言っておりました」
「生命に……」
「ですから、これからは、お体を大事になさってください。適度な休養を取りながら、政務をこなしていくことが、国民も喜ぶことにつながっていくことだと思います」
わたしはやさしさを込めて殿下に言った。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
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