第五十一話 倒れてしまった殿下
四月下旬。
この地にも春がやってきていた。
覆っていた雪もなくなり、緑が少しずつ萌えてきている。
そして、きれいな花が咲いていて、小鳥がさえずっている。吹いてくる風も心地いい。
ラフォンラーヌ公爵家にいた時の春も素敵だったが、この地の春はそれに勝るとも劣らない。
雪にまみれ、生命の危機にあった時のことを思うと、別世界にいるような気がする。
今日は休日の朝。
これから殿下のところへ向かい、仕事をする。
「セリフィーヌさんが来るようになってから、難しいと思っていた問題も解決の方向に進めるようになった。ありがとう」
この間は、殿下がそう言ってくれた。
うれしくて、ますます王国そして殿下のお役に立とうという気力が湧いてくる。
ただ……。
殿下に対する恋する心がどんどん増してきている。
手をつないでほしい。抱きしめてほしい。愛をささやいてほしい。
そういう気持ちがますます湧き上がるようになり、抑え込むのになおさら苦労するようになってきた。
わたしったら、恥ずかしい。
しかし……。
最近、殿下の顔色が少しずつ悪くなっているような気がする。
特にこの一週間ほどは、食欲の方もだんだんなくなってきている気がしていた。
「殿下、お気分はよろしいのでしょうか? 少し悪そうな気がしますので。あまり無理はなさらない方がいいのでは」
わたしは、毎日殿下に会う度に、心配になってそう言っていた。
殿下は、その度に、
「いい気持ちとまでは言いえないが、大丈夫。このごろ、政務がますます忙しくなってきて、ちょっと寝不足になっているだけだ。食欲も今ちょっとないだけ。その内、回復する。心配しないで大丈夫だ」
と言って、体自体には異常はないように言っていた。
でも体は大丈夫ではないように思える。心配しないで、と言われても心配になる。
国王陛下からの政務の移譲がさらに進んだのが、ますます忙しくなった要因のようだ。
しかし、このままでは体を壊してしまう気がしていた。
仕事を少し減らすべきだと思う。
殿下にはいつも元気でいてほしい。
わたしが馬車で王宮への殿下のところへ行くと、なにやら殿下の執務室の近くが騒がしくなっている。
どうしたのだろう?
と思いつつも、いつものように殿下の執務室に入った。
すると、執事がやってきて、
「セリフィーヌお嬢様、殿下が倒れてしまいました」
と言った。
いつもは冷静な執事も、さすがに少し動揺気味のようだ。
わたしはとても驚き、絶句してしまった。
無理をしすぎたのが原因だろうか……。
でも驚いてばかりではいられない。
「殿下は、殿下は大丈夫なのですか?」
気を取り直して、わたしは執事に言う。
執事は、
「今、侍医に診ていただいております。今は、その結果を待っている状態です」
と言った。
執事が言うには、朝食が終わった後、この執務室に入ったところで倒れたのだと言う。
ただ朝食の時点で、ほとんど料理に手をつけておらず、かなり悪い状態だったようだ。
急なことだったので、わたしへの連絡はできなかったのだと言っていた。
「病気でないといいんだけど」
「わたしもそう思っております」
わたしたちが執務室の席で待っていると、国王陛下と王妃殿下が、沈痛な表情でやってきた。
「面白い」
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