第三十二話 九人の女性たちと別れたわたし (フレナリックサイド)
わたしはフレナリック。リクサーヌ王国の王太子。
父王には、わたし一人しか子供がなかった。
その為、幼い頃から後継者として大事に育てられた。
もし、他に兄弟がいたとしても、長男だったので後継者になったことは確実だっただろう。
しかし、子供が一人しかいないと、その愛情はその子供にすべて向くことになるということは言えるのだと思う。
わたしは、幼い頃から父と母に溺愛されて育った。
周囲のものからも、とても大切にされた。
しかし、それは自由を奪われることでもある。
一日の内の多くの時間は、国王になる為の教育に使われ、それだけでも毎日疲れていた。
何事をするにしても、
「王太子らしくしてください。あなたは将来の国王になるお方なのですから」
と言われる。
いつも、王太子そして将来の国王にふさわしい行動をしなければならない。
わたしは毎日が窮屈でたまらなかった。
この生活を続けるのは嫌だった。
思春期に入ると、その窮屈さに対し、反発する態度を見せるようになった。
両親も周囲の人も、
「幼い頃はあんなに素直でいい子だったのに」
と言うようになっていたが、それがますます苛立つ要因になっていく。
わたしは、今まで窮屈なところをたくさん我慢してきたんだ。だいたい素直でいい子ってなんなんだ? それは本来のわたしではない! もうそろそろ好きにさせてくれ! 国王というのは、もともと自分の好きなことができる地位なんだ!
そうわたしは思っていたのだが、誰にも言えるわけはなく、一人悶々としていた。
そんな中、わたしにとっての一大転機が訪れた。
王族や貴族の通う学校にわたしも通っていたのだが、その中で一人の女性と親しくなったのだ。
わたしが交際をしたいというと、両親はすぐOKをしてくれた。
これで少しでも気がおさまってくれればいいと両親も思っていたのだろう。
最初はこの女性とうまく付き合っていた。
キスも、それ以降の世界にも入っていった。
生活の窮屈さも少し薄らいだ気がしていた。
しかし、彼女はだんだん、婚約者になって結婚したい、という意志を強く持つようになってきた。
彼女とは、遊びの付き合いとしか思っていなかったわたしは、だんだん嫌気がさし、ついに別れることを決めた。
別れる時、彼女は、
「わたし、殿下のことをこんなにも愛していましたのに……」
と泣き続けていたが、その時はもうわたしには、彼女に対する愛情は全くといっていいほど残っていなかった。
ただ冷たい笑いを浴びせるだけだった。
それからも、次々と女性と仲良くなっていった。
学校にいるときは、学校の生徒と。
卒業をして、父の補佐をするようになってからは、パーティーで。あるいは紹介されて。
しかし、みな長続きはしなかった。
最初は、無条件でわたしのことを愛してくれる。
ところが、どの女性も、親しくなっていくと婚約者の地位、そして将来の王妃としての地位を要求してくる。
どの女性についても、遊びの対象でしかなかったわたしにとって、こういう申し出は腹立たしいものでしかない。
付き合った女性は、全部で九人になった。
それぞれの女性とわたしは、キスをし、それからの世界にも入っていった。
しかし、結局その全員と別れた。
嫌になれば、別れる。それだけのこと。また次の女性と親しくなり、遊ぶだけの話だ。
わたしは別れた女性全員に冷たい笑いを浴びせた。
それに対して、あきらめきれないのか、みな口々に。
「わたしは殿下の為なら、すべてを捧げられますので、別れるなんて言わないでください」
とか、
「一生殿下の為に尽くします。わたしのこの気持ち、殿下に届いてください」
と言ってくる。
そして、別れた女性はみな心に大きな打撃を受けたと言っていた。
この打撃から立ち直れていない女性も多いという。
しかし、結局みな王妃になりたいという欲望から言っている。
王妃になって、贅沢な生活をしたいと思っているのだ。
心に大きな打撃を受けたと言っているのも、王妃になることができなくなったからだ。
わたしのことを愛しているからではない。
だからこそ腹が立ってくる。
それならば最初から割り切って、遊びとしてわたしと付き合ってくれればそれでいい。
その方がずっとわたしも気が楽だし、楽しい。
しかし……。
そう思っている内に、九人全員がそういう思いではなかったのでは、という気持ちも湧いてくる。
これだけいるのだから、少しはわたしのことを、心の底から愛している人もいたのでは?
心の底から、わたしと別れたくなくて泣いた人もいたのでは?
そういう気持ちになる。
しかし、もしそうだったとしても、もう別れた後だ。
わたしは、改めて、九人全員、わたしのことは言葉の上でしか愛していないのだと思った。
いや、そう思い込みたかった。
いずれにしても、この九人の女性のことは忘れて、心を切り替えていきたかった。
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