第十七話 婚約者の座 (イレーナサイド)
「殿下、この数日であの女とずいぶん仲良くなっているようですが」
わたしは、ますます怒りが増してきていた。
「仲良くなって何がいけない。わたしはきみを婚約者だとちゃんと言っているじゃないか。何が不満なのかね」
「不満も不満です。一度ならず二度までも浮気されたのですから」
「わたしの婚約者になった以上、そういうわがままは許されない。浮気ぐらいなんとも思わないのが、婚約者たる道だ」
殿下は今までの態度を一変させ、厳しい表情になった。
「わたしにたてつくと、きみも姉と同じことになるぞ」
いつもは笑っている殿下。しかし、今の殿下はとても怖い。
もし殿下が、わたしのことを嫌いになったら、婚約破棄され、追放されることになってしまうだろう。
それは避けたい。
「殿下、申し訳ありません。わたしが言い過ぎていました」
殿下に頭を下げざるをえない。
「わかればいいんだ。わかれば」
殿下はまた笑い出す。
「じゃあ、わかってくれたということで」
殿下はわたしに唇を近づけてくる。
わたしは一瞬嫌な気持ちになった。
しかし、殿下の甘い雰囲気に染まってしまう。
唇と唇を重ね合うわたしたち。
唇を離した後、わたしたちは殿下の寝室へと向かっていった。
王宮からの帰路。
馬車の中で、わたしの心は沈んでいた。
キスをする殿下とマドリン。
その光景が、わたしを苦しめる。
たった一回の浮気だと思って、前回のことを忘れようと思っていたのだが、今日の様子では仲が深まっていて、わたしの殿下の心に占める割合が急速に低下している気がする。
わずか数日、会えなかっただけなのに……。
このままでは、マドリンに婚約者の座を奪われる可能性がある。
いくら家格の差があるといっても殿下のことだ。
あの女性に夢中になっていけば、周囲がいくら反対しようと、彼女を婚約者にしようとするに違いない。
もし婚約破棄をされたら……。
そう思うだけで、心はどんどん沈んでいく。
殿下の心をなんとかつなぎとめないと。マドリンに殿下を渡すわけにはいかない。
しかし、いったいどうすればいいのだろう。
今までも殿下のお気に入りになる為、一生懸命努力してきた。
でも悔しいことだけど、マドリンはいとも簡単にそれを乗り越えてしまっている気がする。
わたしが殿下との結婚を目指さなければよかったのだろうか。
目指さずに、相思相愛になった人との結婚を目指すべきだったのだろうか。
もしそうしていれば、こんな苦しみは味わうことなく、穏やかな人生を歩むことができたかもしれない。
しかし、それは難しいことだった。
もともとわたしの家は、家格が高い、
王太子殿下のお妃を選ぶとなると、年頃の娘がいれば、第一候補に挙げられるのは間違いなかった。
その為、幼い頃からわたしと異母姉は、お妃にふさわしい淑女になる為の教育を受けてきた。
異母姉は、それをあまり苦痛とは思わないようだったが、わたしには苦痛だった。
そして、お母様は、わたしにいつも、
「姉になんか負けるんじゃありません。あなたは将来絶対に、いいお妃になるんです、お妃になって、この王国を動かしていくんです」
と厳しく言っていた。
お母さまの言葉は、なおさらわたしを苦しめるものだった。
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