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2-5 バレて聖戦

・前回までのあらすじ


 新入社員が入った。

 活動の資金源確保のため、R-15ASMRを作成した。


 採用システムができたことで少しずつ隊員が増えていった。

 社畜、中退フリーター、ニート、自衛隊員、ホームレス、土建屋、家出、違法入国者、自殺志願者……。


 様々な理由とあふれんばかりの負の感情を持ちよって入隊希望にたどり着いた。

 一週間のサバイバルを経て生き残った一名だけが倫理のどん底に落ちるための引き金を引く。


 隊員が増えるのにともなって、生命エネルギーを採取したビンの数も増えていった。

 アジトの大きさで全員を収めるには容量が足りない。

 朝礼はリモートで、指で作ったそれぞれの三角形ができると、戸水地区にイタズラがはびこる。

 ボクの悪の組織活動は怖いくらいに順調だ。


 生命エネルギーって、何なのですか?

 メイヘムのボスってどんな人なのですか?

 人が増えると思考も増える。何度もそう訊かれた。


 考えたこともなかった。ノーティー……はちょっと気まずいから墓にきいてみた。

『セッケンは生命エネルギーのスーパーパワーでコサエタもんやよ。怪人の武器もそう。幹部級には配布されてるけど、司令みたいなそこら辺のごろつきには、生命エネルギーを1%だけ縫いこんだ戦闘服だけかなー。なーんでわらしにはくれんのじゃよ~~、ボタン一つで起こしてくれて、ご飯作ってくれて、掃除洗濯衣食住全部やってくれるパソほしいなぁ~~』


「それはもうPCじゃなくてアンドロイドでは……もしかしてあの戦闘服よろしく全身黒タイツで、街を闊歩するのに抵抗を感じないのはそのおかげなんですね。よかった……」

『慣れただけじゃ。そんな作用きいたことないぞぇ』

「生命エネルギーは思考にも作用するわけか……なら、ノーティーの怪力をボクの腕力でどうにかできたのも説明がつく」

『慣れ。論理破綻してるで』

「そんなのはどうでもいいですから、ボスは、ボスは何なんですか。ボスがいるのか、いないのか知りたいです」

『メイヘム隊員として立派になった証拠じゃ、誇ったほうがいいと思うぞ』


 悪人にはなるけど変態にはなりたくない。

『誰も知らないし、知られちゃいけない。メイヘムボスが誰なのか。何も言えないし、話しちゃいけない。誰なのかを探ろうともしちゃいけない。400ガロンのニトログリセリンで木っ端みじんになって目を覚ましたらアロハシャツ着た閻魔大王の御前だったらイヤじゃろ』


「そういわれると気になるなあ。遠くからでもいいから見れない? 全体朝礼とか飲み会とかあればいいのに。なんならボクがやろうかな」

『バカチン!!!』


 ビビって立ち上がりそうになる。縛られてるから太ももにベルトが食いこんで痛いだけだった。

「声が大きいよ……! いまの状況わかってるでしょ……!」

『あなたがいわないでください! 心細いのはわかってますが今すべきなのは、その車両から脱出して、防衛軍に搬送されないで無事に生還できる方法です!!』



 3時間前。



 どこにでもいる大学生風のネルシャツ男に変身を果たしたボクは街へ繰りだした。

 隊員2人と合流して小柄でせかせかしているリーマンに、避けた方向に避けまくって道を塞ぐ作戦を決行。

 路地に駆けこむ。

 怒った男に弱さをぶつけ、路地に入りこんだ瞬間にセッケンで採取する誰でも知ってるマニュアルどおりの機械的な手順だ。

 新人に覚えてもらうためにボクが仕掛けた。


 餃子屋のゴミ置き場で2人がノビている。

 驚く暇もなくリーマンの甲高い悲鳴。振り返れば、大学生風の男3人組がセッケンを使用していた。

 採取済みの捨て殻を無造作に落として無表情で迫ってくる。

 咄嗟に手のひらのメイヘムマークを見せつけた。


「ボ、ボクは、メイヘムの、ヤツです!」

「戸水地区司令のフツーさんですか?!」


 大人気声優に偶然街中で出会ったオタクの喜びようだった。

 なんでこんな反応される。そしてなんて厄介なんだろう。

 路地裏とはいえ、街中でメイヘムの話を大声でするなんてこいつら正気か。

 興奮気味に一方的に内情を教えられた。


 こいつらは木栃地区メイヘム構成員で、ボクらのやり方を真似してから成績が伸び、感謝してもしたりないらしい。

 この仕事をやってきて同僚以外から喜ばれるのは悪い気はしなかった。

 県境だからもしかしたらと思っていたがサプライズにもほどがある。


「我々の活動を真似する一般人が出てきている。いくら警戒してもしたりない」

「そうだ。総統に顔向けできない」

 総統を知ってるんですか?

「知らないことがそんなに問題か?」

「そうだ。総統は知っていて知らない。どこにでもいて、どこにもいない。良き隣人であり、我々を自由な聖地へ導くお方だ」

 3人組の6つの眼には一点の曇りもない。


 ま、まあ、敵意がないようでよかった。

 じゃあ、どうして2人はノビてるんだ。固く空洞のある乾いた音が外壁に反響する。それを視覚するよりも早く激しい煙で何も見えなくなった。

「やられた、軍だ、逃げろーーーー」

 軍?! つけられたのか?!


 マズい自分一人で襲われるのは初めてだ、どうすればいい、背後に走る、2人はノビたまま、時間がない、ゴメン、通りにでた、車にのりこめば、そんな希望は泳がされておらず、確実に捕まえる準備が相手に完了していない場合にするものだった。


「発砲許可は出ている。投降しなさい」

 ウソだ。

 武装でこもっていてもこの声はよくわかる。振り返ったら終わる。


「手に紋章……貴様、戸水地区司令ね。本当に変わっていたのね……」

 硬質な足音が近づいてきて前に回り込んだ。


 ホールドアップで東に向く、来る、南、来る、東西南北東西南北。

 灰色の道と曇り空が交互に入れ替わる。衝撃、滑走。

 視界が痛みでブレる。樽にどこかがあたって止まったみたいだ。


 バレる。破滅が近づく。髪が引っ張られ、ショーウインドウに叩きつけられた。

 パワードスーツの横棒だけの目がボクをまじまじと捉えている。

「あ……」

 驚愕と困惑が混ざった吐息がもれた。

 なんて言えばいい。反社どころかそれの司令になったのまで一瞬でバレた。

「隊長……!」

 首に両腕が巻きつけられた。強い力で鋼の肉体を押しつけられ意識が。



 3時間と3分後。



 手錠ってこんなにショックなんだ。しかも壁からせり出した電車のヤツに似ている長椅子に縛りつけられて動けない。

 小型通信機を仕込んでいなかったら不安に押しつぶされていた。


 バックドアが開く。パワードスーツがボクの手の甲の紋章に納得したようにうなずいていた。

「さすがです」

 反応するな。突飛な質問をしてしゃべらせる作戦だ。

「私のこと覚えていませんか、新人の頃すこし、ご指導いただのですが」

 うわっ、ヘルメット取ったよ。無精髭をはやした快活な青年って感じだ。


 敵に顔をさらすなんてハイリスクの行為、広告塔のヤマデラは別として悪手にもほどがある。

 ヤマデラのやつは破壊工作を生業としてるやつにも脱帽して挨拶しなさいと教えてるのか。

「あなたに憧れてここまで来れたんです。一度お礼をいいたかった。貴方のおかげで今のオレがいる」

「541号、木栃のやつらをお願い」


 やっちまったとでも言いたげな表情で、青年は視覚のフレームから外れた。

 かわりに115号がボクをまっすぐに見据えてくる。ヘルメットのままだから圧がある。

「墓、どうしたらいい……!」

『場所の特定できるまでま――はいっ! 聴いております、X=ブチッ』

 平日大学生は学校だもんね~~~~!

 115号はボクの正面に座った。

 これで収監されたら教科書ジュースでベタベタにしてやるぞ数学教師。


「これには深い深いワケが」

「声も一緒。メイヘムどういうつもりなの……?」

 あれ。もしかして、なんか身バレしてない?

 そうか、メガネをかけているからね!


「名前は」

「フツー」

 すぐ隣の出っ張り席が、前蹴りされて引っこんだ。

 コ、コイツ、ホントは気づいているんじゃないか?

 かといって名前は良くない。ボクだって確定してしまう。


「……ひら……エイエス・エム・アール・三十郎です」

 食いしばった。痛いのがくるとわかれば耐えられる。

「エイ、エス」

 腕のコンソールをタップする115号。

 セ、セーフ……この名前でセーフなの?


「なぜメイヘムに入ったの?」

「なんか……記憶喪失で……どこにも行くところがなくて……それを拾ってもらったっていうか……」

「許せない!!」


 今度こそくるッ……!

「弱みにつけこんで悪事に荷担させるなんて……なんて下劣なヤツらなの。一刻も早くこの世から排除しなきゃいけない!」

 ガンッ!! 裏拳を食らったトラックの内壁はなんともない。

 超馬力にも耐えれる強度があるみたいだ、セーフだったみたいだ。

 コイツ職務でも脳みそ正義バカだ。

 椅子蹴って脅かしたのは、そういうマニュアルとかやりたい気分だったんだろう。


「何か思い出したことはない? 何でもいって」

「それがまったく……自分がひら、三十郎だってことと、社畜だってことくらいしか」

「そんな……。私が上にかけあってエイエスの記憶を取り戻せるように手配するわ。人格強制プログラムを応用すればすぐに解決できると思うけど……」


 うんうんうなずいて入力していく。

 なんか恐いこといってるからみんな早くきてーーーーやだーーーー!!


 硬質だが機敏に立ち上がる。

 このままそこの扉から出したら、ボクは人格強制される。

 なんかいわないと、なんか。


『平田くん、名前を呼ぶんだ』

「ヤマデラ」

 扉に向いた足先がボクへ。


「115号のヤマデラだろう、アンタ」

「その名前……」

 ガンッガンッ!!両耳のそばに豪腕が触っている。だいぶちびった。

「やっぱり隊長!!」

「違う! これはメイヘムの優秀な情報網のおかげで知っているだけで、っていうか毎日毎日テレビに出てるだろ、みんなのアイドル戸水地区防衛軍司令115号ヤマデラ!」


 腕涙を拭くしぐさをしてるがヘルメットだ。だから脱いだ。

 そうだ、ボクがよく知ってる、短髪快活で目鼻立ちがよくととのってる――。

「涙が。すみません。似てるだけじゃなかった。ちゃんと、隊長だった……!」


 画面ごしと実物では違って顔が見えると聞いたことがある。レンズの特性上、被写体が引き延ばされて太って見えるから。

 短髪というより肩くらいまでくるボブ。

 目鼻立ちもそろってる。涼し気な目に、薄い唇。精悍でクールな印象を与えてくる。日本人というより西洋系に近い。ハーフかも。

 顔には細かな傷があって、広告塔というよりかは、現場に出ずっぱりの隊員ってかんじだ。

 こんなに違うもんなんだ。

 まるで、別人みたいに。


「今のは忘れてください。つい……」

 慌ててかぶり直すヤマデラ。

「テレビにでているのは、文字通りアイドルです。防衛軍の活動を世の中に伝えるために”上”がはじめた広報活動。自衛隊もやってるでしょう、美少女絵を使用しての勧誘。それと同じです」


 わからない。

 目の前にいるのはヤマデラだ。

「世界中が知っていますよ、あの115号は、広告塔であって、私じゃないのくらい」

 腐れ縁で、おせっかいやきの、ウザい、でも。頼もしい。

「隊長も、知っていますよね?」


 そのはずなのに、どうしてこんなにも、

 顔も話し方も雰囲気も、

 どれもボクは知らないんだ。


「ヤマデラなんだろ……? ボクだよ、平田だ。メガネをかけているから分からないんだろ。外してくれ、すぐ分かる」

「隊長……」

 ボクの剣幕にあの防衛軍115号が引いてる。言い様だ。


「お前のホントにウザいんだよ、何回も何回も一日に100も200も、電話もラインもくるし、そん

なにボクのことが大好きなんかよ、それならそういえよ」

「そんなの、誰かと勘違いしていませんか。連絡が取れるわけ――」

「覚えてないのか、小学校で同じ団地で、中学も高校も一緒で、お前はエリートでボクは社畜で、友達で、戦友で……」


 頭がどうにかなってしまいそうだ。

 本当にボクは記憶喪失なんじゃないのか。

 こんなのおかしいだろ。

 ボクがおかしいのか。


「そうだっていってくれ、笑えない冗談だそれは、ヤマデラ!!」

「貴方です」


 目の焦点があった。

「私はカツキ。香月・ボナム」

「今なんて言った」

 間髪入れずに平坦にいった。


「ヤマデラです、ヤマデラケンユウ。防衛軍戸水支部初代隊長は、山寺賢雄。貴方の名前です」

「しょ、しょうなのぉ?」


 ボクは平田智之だ。

 それ以外の何物でもない。

 そうやって生きてきたんだ。


「名前を覚えているということは、まだ回復の見込みがあるってことだと思います。施設でプログラムを受けましょう。絶対に、この香月が強制させてみせますからね」

 扉を閉じて、コンコン壁を叩く。運転席にさっきの5百なんとか号が乗りこんでエンジンをかけた。


「やめろ、やめろ! 行くな! 動かすな! 回転するな!」

 行き先へ着いたら多分ボクが消える。

 その訳の分からないヤマデラとかいう人間に強制させられる。


「ボクはココだ! ボクはここに居る!! ボクは平田だあああ!!」

 一瞬の強振と炸裂音に見舞われても、どういうわけか目を開けていた。

 ボクだけチャイルドシートに縛りつけられていたからだ。


 意識外からの衝撃に脳しんとうでも起こしたのか、這いつくばって痙攣しているヤマデラじゃないヤツ。パワードスーツでも貧弱な肉のメロンパンを激しくシェイクされるのには対応できないみたいだ。

 横向きになって砕けているフロントガラスの隙間から顔がのぞいている。


 無事だー!

 扉が開く。

 天井に縛りつけられている状態になったボクは、下ろされ、手を引かれ、光の中へかけだした。



 まっすぐ続く大通り。

 全身タイツの恥ずかしい、でも誇らしい人間たちが、ボクを見ていた。

 戸水国道事務所ががんばって管理している長く伸びているアスファルト。メイヘム隊員が点在していて、そこら中が黒くまだらにカビているみたいだ。


 イタズラの手を止めて、みんなボクの登場に歓喜している。

 それぞれの事情を抱えた声が重なり合い、合唱になった。

 元はロックでキャッチーな曲だが、やけに陽気に聴こえる。

 誰が始めたのか、いつの間にかボクらの間で歌うようになっていた。

 歌詞を覚えているヤツもいれば、そうでないヤツも何となくで歌う一体感。


 おでこからたらりと血が流れてきた。


 落書きされた色とりどりになった灰色の建物。

 愛玩動物に追いかけ回される全身タイツの人間。

 放置された車はガムテープでベタベタに目張りされている。

 街路樹が剪定され、コンビニゴミのピラミッドが道路の中心に鎮座している。

 屋上からばらまかれた札束の花吹雪が舞っている。

 裸にむかれてちんぐりがえしで固定された防衛軍のヤツが歩道橋に並べられている。


 装甲車に同じ型の車両が乗り上げて煙をあげていた。

 横転した車上で肩を組んでめちゃくちゃに歌う隊員、そのそばで手当されている血まみれの隊員。

 生命エネルギーを抜かれるときの悲鳴。

 誰もが笑顔で声を合わせている。


「ハハ。ハハハ」

 なんだこのコメディ映画のラストシーンみたいな混沌。

 ボクが作ったんだ。


「メイヘムーーーー」

 時間が止まった。

 ボクの声帯で叫んだ。


「メイヘムーーーーーーーーーーー」

 コールアンドレスポンスだ。

 雄叫びがボクの身体にぶつかって、ボクの細胞が震えている。

 うれしくなって何度も続けた。

 何度も何度も。

 そうだと確かめた。


・次回第3章 Lord Don't Slow Me Down 開始

 明日7時くらいにこうしそ


 我をポンコツだの風呂入ってくるなどバカにしたこわっぱども、よく見ておくがよい、これが世界を征服する力だ!!ていッ! ちょ、バッ、なっ、あっ】


 ランキング順位が47から33に上がって支給金も増え、「怪人」も配属されたから。


「ハッハッハ、幽霊でも妖怪でもないよ。僕は元防衛軍のヤマデラだ」


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