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2-3 採用と麻薬

・前回までのあらすじ


 しょうもないイタズラをして人を怒らせたがノルマ達成出来ず。

 怪人ノーティーが平田が好き?

 ヤマデラを跪かせるのが密かな目標になった。


 これはある男が体験した話です。


 彼は事故物件に住むのが趣味なんですって。

 心霊体験ができるのと、なんといっても家賃が格安だから、もう自分が住むにはこれ以上ないほどの場所だと思っていまも渡り歩いているみたいなんですが、そんな彼でもここはヤバいと思った場所が一つあったらしいんです。


 事故物件って、場所によってはスゴいキレイなんですよ。リフォームしても誰も住まないから。

 その部屋もそうなんです。結構いいマンションの一室なんですけど、広いワンルームで壁紙もキレイに張り替えてあって、シミとかもまったくない。

 でも、明らかにおかしいところが一つあるんです。

 そこ、ベランダがないらしいんですよ。

 外から見ればベランダが確かについているのに、中からだと壁になってるんです。

 これはヤバいと内見で思ったんですが、その人好奇心で契約しちゃったらしいんです。


 周りはホントに何もない。田んぼと山くらいですよ。でもまあ住んでみたら、一応ベランダの隣の壁に小窓があるんで太陽光は入ってくるし、周り田んぼだから、逆にカーテンとかつけなくていいし、快適な事故物件だったらしいんです。


 その日も帰ってきて夕飯作ってぼーっとして、暗くなってきたから窓閉めようと思って手をつけたら、視界の左のほうで何か動いたような気がした。

 窓から乗り出してそっちを見たんですけど、見える範囲からスッと離れてしまった。なんというか、全身白い人がいたような気がしたなあ、と。


 気になったんですけどそっち、ベランダのほうなんですよ。外に出ないと見れないから出て確認したんですけど、何もいない、と。

 それから毎日。スッといなくなる。もう気になっちゃって気になっちゃって、外で待っても来ない。でも窓から見るとでるらしいんです。


 その日も窓を閉めようとした瞬間にすっと白い影。だから彼一階なんで窓から飛び出して、その影を追いかけたんですって。

 そしたら自分ちの行けないベランダに、その白い人間が入り込んで、壁に何かを一心不乱に書き殴ってる! 持っているそのムチの柄で!!

 うわっと声をあげた瞬間にわかった、白いと思ってたその人間、アタマが真っ白な髑髏なんですよ。身体はなんといかライダースーツのようなちゃんとした女性なのに。



「でてきましたね」

『なにか問題でも』



 その髑髏はグワーッともう映画みたいなジャンプをして送電線に飛び乗ってどこかに走り去ってしまった。


 ベランダの壁、そこに掘られていたのは――数字の羅列。

 彼はこわくなって車に飛び乗って二度と戻らなかったそうです。


 そこの事故物件って飛び降り自殺があったみたいで、一階の人がベランダからたまたま顔を出していたら上から落ちてきた人に――。



「ベランダが塞がれてる意味は。外で待ってると目撃できなかったのは。数字もこれ、動画じゃなかったら伝わるんですか」

 ボクはYouTubeの恐い話動画を停止した。

 これを恐い話で取り上げるヤツはセンスがないから絶対に大成しないのをお約束できる。


『ディテールの甘さはいいんだよ、重要なのは数字。ネットで調べるだけの好奇心、グーグルマップで座標を調べてその場所まで行く度胸、それに怖がりはメンタルも強い(持論)、このウワサだけで厳選して、座標の廃墟には求人票と選考日時。墓ちゃん天才(天才)』

 観葉植物用のちんまいテーブルにあるノートPCからフンスと得意げな擬音がした。

 そんなに上手くいくわけないでしょう、といいたかったが現実は都市伝説より奇なり。

 渓谷に集まった受験者たちをこの岩石のお立ち台から見下ろしてたらぐうの音も出なかった。


 20人くらいいる。見た目20~30代くらいが多い。

 人生からドロップアウト間近そうなやつれたリーマンやウワサをきいたホームレス、メイヘムのダサいロゴをおでこに貼っているファンもいる。

 スマホを向けてるヤツが多く、動画を撮っているのを隠そうともしていない。確かに度胸はある。


 はやくはじめろよー、不良グループが意味もなく声を荒げた。ボクは墓から送られてきたテキストをPCを持ってそのまま読んだ。


「今からみなさんには最終試験を受けてもらいます。ルールは簡単です。一週間ここで生き残ってください。最後まで生き残った暁には、我々の一員として迎え入れます」


 ここへは3時間かけて送迎した。流行りのバトルロイヤルゲームを参考にしたらしい。

 放置しとけばかってに決まるし、時間も労力もかからないから確かに楽だ。

 ホントに戸水支部に入りたければ逃げずにがんばるはず。

 参加者の身の安全に関しては……。


「はあ?! こんな場所で生きれるわけねーだろ! 最初からコイツはオレらを食いもんにしようとしているだけだろがいやい!」

 不良たちが束になってガイガイいってきた。


「帰りたければ今から乗せてくのでー」

『所詮、貴様らは豚小屋からブヒブヒ吠えて天井と戸の隙間からかろうじて見える青空をつぶらな瞳でみてるだけの豚だ』


 さえぎって音量が急に大きくなった墓の声。低音に全フリしている。

「ああ?! オレらがビビってるっていってんのか?! ビビってるっていいてえってわけがい!!」

『逃げたければ逃げるがいい。自由だ。だが、少しでもこの試験の情報を漏らせば、命はないと思ってもらってもかまわない』


「バーーカ!! 一般人様には防衛軍ってのが居るんだよぉ~~、守ってくれるんだよ税金払ってる我々たちにはなあ~~~~、バーーーーーカ、やれるもんならやってみろっつうの! 戸水は防衛軍が優秀なんだろ? Yahoo!ニュースで見た! お前ら全国で一番ヨエーンだろ? ざーーーこ! エビバディカモッ! ザーコ! ザーコ! ザーコ!」


 他の参加者はまったく反応していないが若者の活気で世論のような気にさせられる。

 こういうのが起きるとは予想していた。めんどうくさい。これをやった先に何があるというんだ。チェゲバラにでもなったつもりか。こいつら入ったとしても初日からこないだろ。


 先導している青毛の表情が固まる。

 忽然と現れた髑髏の身体がライダースーツのちゃんとした怪人が鼻先にたった。

 都市伝説の中だけだった存在に誰しもの腰がひけた。


 青毛のジーパンから、赤い液体がポタポタたれて枯れた土にしみこんでいく。

 柄の大きいナイフがささった腹部がじんわりと水分を吸って黒がダークレットにかわる。


 粉塵がバサッと舞い上がったのと同時に蜘蛛の子を散らしたように、身を隠しやすい、なにがあるのかわからない森林地帯に受験者が逃げこんでいった。


『貴様ら豚に残された道は、我々の仲間になるか、都市伝説になるかだ! 一週間後戻ってこい豚ども、クックック、ハッハッハ、ンナーッハッハッハッゴホッ、ゴホゴホ』

 赤い水玉模様柄になったノーティーが青毛を片手でかつぎあげた。




 日当をもらい雇い主の墓(ノートPC)に青毛がつむじをみせる。

 さすが役者、すっかり着替えるとどこにでもいる好青年なイケメンだ。

 キレイな笑顔を振りまいて街のネオンに消えていった。スキップで。


 ツイッターでつぶやいていた彼を墓がスカウトした。不良グループから常々逃げたいと思っていたのでちょうどいいバイトだったようだ。

「怖れながら司令。これでヤツらは血眼になって一週間サバイバルしようと思うのでしょうか。このノーティーならば自宅へ戻り、司令のぬいぐるみと3Dモデルを作成し、最終日だけ戻ります」

「そのときはそのときです。あれだけのモノを見せられて、他にやることないのかよって言っちゃうような事やってる胆力があればいい人材ですよ」


 一週間も監視してるほどの労働力も暇もウチにはない。鮮烈な恐怖を植え付けておけば逃げないヤツは逃げないし、なんとか逃げたとしても髑髏の影に怯えて口外はしないだろう。


「お見それいたしました。労働力が増えれば今まで以上に戸水全土に範囲を広げて同時出没も夢ではない。メイヘム最強の部隊も夢ではない!」

『いやー気持ちよかった~~。悪の三段活用高笑いやってみたかったんだ~~』

 助手席に座るノーティーの膝でいつのもの甲高いボイチェンに戻った墓がキャッキャしていた。


「選考を口外しないために、なにか抑止力になる芝居をうってくれと頼んだのはボクですけど……なんで都市伝説なんですか」

『都市伝説のヤツが出てきたらこわいじゃん。こわくない? 私はこわい』

「怖いです」

『ほらほらほら、これが一般人の感想。ふふん、おみそれしてくれたまえ』


 本人が怖がってどうする。でも、これで一応は人員の確保はクリアなのか?

「あ、人員確保してるってことは、資金源確保のほうは進んでるんですね。一人分確保するのになにしたんですか? ……臓器売買とか」

『にゃ~~~~んもしてない、ノーマネー。オーバーザトラブル~~』


 歌い出す墓にボクは顔を覆った。

「司令、安心してください。このノーティー、極秘に資金確保に奔走しておりました」

『なぬっ?! それを早くいいたまえ! なんじゃ、言いたまえノーティーくん!』

 含みを持たせてシャープな髑髏は、胸をはって……。




 ピッ。ピッピッ。

「…………スッ」

「ああ?! 何だって?!! 聞こえねえぞデカい姉ちゃん!! ヘルメット外せよ!!」

 金額を読み上げているんだろうがボソボソすぎて祖父さんの鼻息にかき消えていた。

 高すぎて吊り下げポップに頭をぶつけて落とし、棚を倒して商品をぶちまけ、マイペースなレジ打ちで深夜にもかかわらずディズニーランド張りの行列を作り上げた。



 絶対に向いていない。



 空まで届きそうなジャンプを持っているのに。

 重機すら持ち上げる怪力なのに。

 それが全く生かせないコンビニバイトをしているのはなんでだ。


 これがポスドク問題というやつか?

 超人的な能力があっても一般人に取りこまれると、これほどまでに無力になってしまうのか?


「このノーティー、立派に働いておりますので、司令はどうか戸水を栄光に導くために尽力願います」

 彼女に働かせてるヒモ男じゃないか。

 しかも一人分払うのに3ヶ月くらいかかる。

 シフトで現場にでれない悪の女幹部が生まれるのもありえない話ではない。


 工場みたいに安定して資金源をえられる方法がないと、戸水支部総出で毎日ポスティングしてオニギリを握らなければならない未来が見えた。

 できればあまり初期費用がかからないで、場所も選ばないものがいいなあ。そう考えるとやっぱり、


『ネットでなんか作って売ればいいと思うゾ。戸水支部公式グッツとかチェキとかな。ダイナマイトエッチなウチの女幹部に一儲けしてもらいますかッ!(迫真)』

「反社会的勢力のグッツなんて誰が買いたがるんですか」

『なーに言うとる。ノーティー結構ネットで人気あるんやで、ほれ』


 送られてきたURLをクリックしようとして指を硬直させた。見覚えのあるアドレス。毎度お世話になっている夜にしか見ない肌色の多いサイトだからクリックしなくても検討がついた。

 まあ……まあまあまあまあ……確かに、まあね~~……。


「そうか、動画……。データを売りましょう」

『えっ……送っておいてなんやけど、引くわあ……。司令の頼みは断れない部下を強引に脱がして……』

「いえ、違います。もっと別のですから、墓さんが考えてるようなエッチで変態でフェチなヤツではないですよ」

『そ、そんな、えっ、バッ、違うでしょ!』


 ふふふ。恥じらうJDはいいなあ。まあまあがんばってるんだし、これくらいの恩恵を受けてもいいだろう。これはセクハラじゃないからね。スキンシップ、スキンシップ。


 データならなんでもいい。それこそ動画とか、絵とか素材とか。今はYouTubeやらで収益できる方法だってある。

 そこら辺はかなりふわっとしているが、貧乏支部にはこれに一縷の望みをかけるしかない。


 ガサゴソしだした音声をバックに恥じらう表情を想像しているとスマホが震えた。

 うっ、またあいつか。


 どこにいるの?


 平日なんだから会社にいるに決まってるだろう。適当にあしらって、ブロックするのをなんとか押さえた。

 毎日毎日こりもしないで素性を探ってくるヤマデラ115号。心臓に悪いからコイツとはできるだけ話したくない。


『へえ~~司令も隅に置けませんなあ。その顔で彼女もちですかあ~~』

 画面に目を戻すと、ボクのスマホ画面がそのまま映っていた。

「……これがハッキングですか。やめてください、謝りますから」

『ほほう~~、かなり長い中で……え、違う、うわ、これは……大丈夫?』

「コイツはこういうヤツなんです。それに彼女じゃなくて腐れ縁です」

『こういうヤツ……? え……? だって司令が話してるばっかで』

「この話はここまで! この仕事バレたらミンチになるから、核心をつく情報は与えませんよ。まあ、バレるまでに引き延ばすくらいしかできないですけど」


 LINEの画面が操作していないのに切り替わり、ブロックのボタンがポチッとされた。

「オイ! な、何してんだ!! アルマゲドン!!」

 どんなにポチポチしてもブロックが外れない。

 マズい、動悸がしてきた。目もかすんで視線がさだまらない。

「外せ……ブロック外せ! ヤバい、ヤバいって、既読できなかったら、僕が爆発しちゃう!!」


 画面をつかんで揺さぶっても、

『ダメです! 司令は絶対に我々の場所をバラします! なにかされていますよ、そのヤマデラって人に』

「そんなわけ、ない」


 あいつは、真面目で、ウザいところもたくさんあるけど、それは、あいつがかまいたがりだから、そうなってるだけで、マジメだから――。

『座って深呼吸してください! 深呼吸!!』


 瞬きした瞬間、ボクは畳に仰向けに倒れていた。

 天井の木目が丸みの帯びた影で全部みえない。

「無事ですか、司令」

 冷たく優しい低音。

 むぎゅっと暖かさと柔らかさに押され、香りが思考を満たした。汗が薄く混じっている。


「LINEは」

「安心してください。もう元に戻っています」

 スマホ画面をみて全身が脱力した。こりもしないでヤマデラからメッセージがきている。

 よかった。体中がダルい。この心地よさをもっと感じることにしよう。


「ものすごく墓に呼ばれてコンビニから飛び帰ってきましたので汗はご容赦ください。彼女も反省していました。司令を思っての行動です。許してやってください」


 穏やかな声にまどろんでくる。

 ああ……。これいい……。脳が溶ける……。

 なんか……音で聴く麻薬のような……。


「司令がどんな女性と、交流があろうが、私は問題ありませんが……」

 これ……これならきっと……アルマゲドン級に売れる……。

「山寺は危険です」

 安心とぬくもりにボクは溶け落ちていった――。



 ――――そして後日。満を持して、その「至高の麻薬」は発売された。



 サークル名:MーDW

 イラスト:HAKAーCHAN

 シナリオ:普通

 声優:ノーティー


 作品名:

【耳かき・囁き・鞭】悪の女幹部に膝枕されて寝落ちしちゃう1時間


 ジャンル:健全 癒やし ASMR


・次回予告 明日、7時くらいに更新


 ノーティーが谷間からピンク色の銃・セッケンを取り出して、生き残りに投げた。


 保護しちゃいけない大王虫の子供をかくまうように、スマホを抱いてしゃがみ、丸くなった。


  ……なら、心の内を、彼女に伝えよう。

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