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2-2 新体制、そして赤飯

・前回までのあらすじ


 人を増やして、金を増やして、人を怒らせることにして、 

 平日学校にいるっぽい情報参謀の墓としゃべった。


 人々を(数にして2人)恐怖に陥れて戻ってきた2人に、明日からやり方を変える事を伝えた。

 ボブさんは次の日から来なくなった。方向性の違いだ。

「これでもオレはこの職業にプライドもってやってるんだよ。そんな、そんなアマチュアみたいなやり方付き合ってられっか! 馬鹿にしやがって。後藤司令は美学があったよ。戸水支部は終わったな!」

 ボクの作戦で最初に怒ったはボブさんになった。ある意味、確証が得られてよかった。


 人々の怒りを煽る方法といえば、これしかない。

 鳥居の根元が湿って黄色になっていく。最近疲れているからな。

 水分の出がらしがカラになった頃、急いでアレをしまっている全身タイツの不審者・ボクに住職のカミナリが落ちた。


 住職は足が遅いため、怖さが中々終わらない。

 ボクの足はガクガクして意識しないと駆けだしてしまいそうだ。

 でも逃げちゃダメだ。ギリギリまで、引き寄せて……!


「な、なんという極悪非道な行為……。私の貧弱な頭脳では絶対に思いつかない、コロンブス的発想の転換……!」

 腰を抜かしているボクの眼前で、怒りを採取された住職がぐったりしている。

 草むらから飛び出したノーティーがピンク色の銃を突き刺して一瞬で抜き取って感動している。

 とても恥ずかしい。

 だがちゃんと生命エネルギーを貯めるボトルに液体がたまっているんだ、やり方は間違っていないんだ。


 すみません、すみませんってやって進行方向を妨害。

 スーパーの列に横入り。横入りした上で直前にでる。

 スカートをめくる。

 ズラを盗る。

 バカっていう。


 アジトの畳に伏せて盛大にため息をついた。

 我ながら、とてもつもなくしょうもない一日だった。

 最後のほうなんて小学生だって今日日やらない。


 全身タイツのヤツに何かされて怒る人はそれほど多くなかった。

 怖がるか逃げる。警察を呼ぶ。防衛軍を呼ばれる。

 そもそもメイヘムの戦闘員だとバレているのがよくない。


 誰だってできればイザコザが起こるのを回避したい。スルーするか逃げるか然るべき機関にゆだねる。ネットに書きこむか近親者に聴いてもらうもんだろう。

 自分だってそうするじゃないか。

 たぶん、みんな相手がそこに居る状態で怒るのにあまり慣れていないんだ。


「ネットなら怒ってる人たくさんいるのに」

 労いのお茶がそばに置かれた。事務員に戻ったノーティーの気配を背後に感じる。

「す、すみません、今日は終わりで」

「就任初日でこれだけの成果をお上げになったの、ですから、私が何もしないで帰るのは、違います」

 液体が満ちた5つのボトルが収まっているダンボールが押しいれにある。

 20人ほどにアタックしてこのザマ。


 結局夕飯をつくってもらった。赤飯だった。

 はあ……おいしい。実家を思い出してしまう。

「明日は私がトラップ役になります。任せてくだ、さい」

「正直ありがたいです。精神的に結構くるものが……」


 自分から仕向けているのに、怒りをぶつけられるとメンタルが削れる音がするようだった。

「これからずっとわ、私でもかまいません。むしろ、そうしてほしいです。いくら司令だからといっても、経験は、このノーティーの方が、長いので、すから順当です。ふ、ふふふ。餌を横取りされた豚のように、わめき散らす、人間どもが目に浮かぶ……」

「明日からは、会社の……じゃなくてウチの制服を着るのはやめましょう」


「……………………………………………………………………………………ふ」

「今日やってわかったんです。人が大手を切って怒れるのは、『自分よりも劣ってるヤツにプライドを傷つけられる』こと、なによりもその相手が『自分が理解できる、行動が予測できるヤツ』であること、だと思うんです」


「……」

「帽子とかちょっとした変装で顔を隠して、ごく普通の一般人の服装にする。狙うのはプライドが高そうなヤツです。なんとなーくでしかわかりませんが……まあ群れてなきゃ、なんもできない結局その業界の様式にそってるだけの量産型バカか、社会的地位が高くなったと勘違いしてる長年会社に仕えた奴隷でもターゲットにすれば……」


 イカンいかん。ボクが怒りに飲まれそうになってどうする。ノーティーさんの経験でそういうのわからないですか、と顔をあげると、前髪がだらんとたれて細かく震えていた。


「毛先が味噌汁に」

「マスクは……ダメなのですか」

「やっぱり、つけないとバレるリスクが高いですか」

「宅急便が受け取れない、です」

「はい?」


 前髪の隙間からチラチラと恥ずかしそうにうかがう瞳。手を握りあわせて人差し指をチョイチョイ。

「セルフレジっていうか、口をつぐむっていうか……。タブレット注文のチェーン店はいいですよねえ、個人経営のコーヒーショップって、なんで喉がすり切れるくらい、叫ばないといけないんだろなあ」

 もしかしなくても地雷を踏み抜いた感触があった。


「ど、どもるから声、だしたくないから、うなずいたりしてるのに、きいてきたら、違うでしょう。どうせ、久牛大仏の髪のイボ一個分はあるよ、あの女型~~って、拝んでるんだ……」

「ノーティーさん、そんな独創的な悪口いう人いませんから、すみません、ボクがやりますから」

「ちょっと大きいだけで、決めないで、す、好きで大きくなったわけじゃない、バレーもバスケもやらないママわたしは絵が描きたいの先生さわらないで助けてイリスうううううう」


 髪を掻きむしって雄叫びをあげた。黒目がグリンと上に向いている。

 後ろにもつれて倒れ、もがき苦しむように壁に、食器に、棚にあたり、弾き、会議室(畳の6畳間)に這っていった。


 ダンボールがすれる音がしている。

 ボクは恐る恐る、開いている襖の影から中を覗きこんだ。

 ノーティーはシャープな髑髏のヘルメットをかぶり、事務服を着こなしたモデルポーズを決めていた。


「我が名はノーティー。世界を混沌に陥れる地獄の底より黄泉がえりしメイヘムよりの使者……」

「はい」

「これがノーティー完全体。これが使用できなぬというならば、トリガーを引くことすらできない。取り上げるのであれば、たとえ司令でも」


 細くしなやかな指を握りしめてギリギリさせた。あれに殴られたらボクの頭蓋骨は落下したトマトみたく飛び散って壁に真っ赤な抽象画を描くだろう。


「い、いやいやいやいや、そんな、取り上げるなんてできません。しません」

 作品の一部になりたくないボクは必死でなだめる。というかできないし。


 怪人ってのはアニメとかでよく見る培養ポッドで作られた人工生命体なんだとオカルト板で読んだことがある。

 よく知らないが、ヘルメットは生命体としての機能を維持するためとか、力を引き出すトリガーとか、なんか必要なものなのかもしれない。

 ついでに怪人の精神を安定させるための未知の機構がくみこまれているとか。

 こんな人間っぽい壮絶な過去がある必要性はわからないけど。


「……ホントに」

「ホントホント、ボクはみんなが自分らしく過ごせる職場を目指してるから、そんな、大切なモノを強引に取り上げて、戦地に飛びこめなんて、そんなことしません。自分の意に反します」

「……受け入れてくれる」

「受け入れます」ノーティーが抜けたら無条件でジエンドオブ戸水地区だ。

「…………解ってくれる」


 前言撤回。髑髏はボクが予想したような性能が必要だから持っていきたい、そんな利便性や機能的な恩恵を得るだけのモノではない。

 髑髏を大切に抱きしめているノーティーの柔和で儚い笑みでよくわかる。

 見惚れるとはこのことだ。

 まるで戦場に散っていった兵士を慈しみ舞い降りた優しい死神のようだった。

 もしも命を落とすなら、こんな慈愛に満ちた腕の中で眠りたいとさえ思った。



 それから金曜日まで他人を怒らせまくり、ノルマである30人に対して20人。

 2年あまり続いたノルマ連続達成記録がついえた瞬間として忌み嫌われるようになるだろう。

 支給額が少し減った。


 ボクは少しでも足しになればいいと自分の眉間に引き金を引いた。

 訊いてはいたが実際に体験するとこれはキツい。正座でしびれた足で立とうとして力が入らなくなる感じが全身に行き渡っている。布団に横たわっていなかったら前からノックダウンしていた。


 これ、心臓が弱かったり持病もちの人にやったらマズいんじゃないか。そう思ってすぐに考えるのをやめた。


 土日休みを挟んで、だるいだけになった月曜日の朝。スマホに着信がきているのに気がつけた。

 ゲッ。あいつからだ。

 通話は身体的にも精神的にもムリそうなのでLINEを開いた。

「遊びいっていい?」「いないの?」「引っ越してない?」「おーい」「仕事やめたの」

 いつもこうだ。少し返事しないだけでがっつり調べられる。

 コイツの情報収集能力どうなってるんだ。

 こっちで情報を与えないとマイナンバーカードの番号までバレそう。


タ:やめた。ひっこした。

ヤマちゃん:えっ! 仕事は?!


タ:してない。失業保険ある。

ヤマちゃん:いえよ!!

ヤマちゃん:でもあんたつらそうだったからよかったんじゃないっ。

ヤマちゃん:100時間も残業とかあえねーってのっ! 労働局行きなよ。指導してくれるはず。


「公務員殿はいいですわね~~」


ヤマちゃん:お姉さんがおごってしんぜよう! あんたならすぐ次の仕事見つかるよ。山寺が保証してあげるっ!

タ:もうちょっと休む。


ヤマちゃん:そうか。そうだよね。近いうちに行こっ。あんたの新しい家もみたいからさっ。

ヤマちゃん:お姉さんになんでもいってね。一人で抱え込むとアタマが痛くなるから。そうなると私も困るからさっ。


 ため息をついて朝礼へ。

 みんな(ノーティーが)ちゃんときていた。

 ダンボールは月曜の5時頃に回収されるから、日曜に這っていきなんとか入れたボクの生命エネルギーもなくなっていた。


 今日もガンバっていきましょう。

 先週と同じく人を怒らせに向かう。先週と違うのは、ボクがジーパンにロンTの私服で口ひげをしているのと、ノーティーが髑髏に作業服を合わせてきたことだ。一歩前進なのかもしれない。


 正直あの精神の不安定さをみせられて怖さがないわけではない。

 髑髏をかぶっているから安心しているボクもいる。


 平日昼間から徘徊していた金髪の高校生を、路地裏でノーティーの銃がエネルギーを吸っている最中にスマホが震えた。


ヤマちゃん:いついく?


 おいおい。待ちきれねえのか。

 心配しなくてもこっちは、スーパーの子供のおもちゃ棚に大人のおもちゃを並べるのと、取った冷凍食品をカップラーメンの棚に置く悪さをして、成果をあげられなかったところだ。


 ピンポンダッシュを実行してノーティーが飛び出すのが早すぎて失敗し、時刻は12時。

 コンビニに止めてお昼になる。運転席のノーティーからお手製の弁当を差し出された。


「同じ轍をふまぬよう、リサーチして参りました。お手合わせ、お願い致します」

 ボクは一度も好物とかしゃべっていないが……メイヘムの情報網をもってすればそれくらいは容易いということか。間接的に我々の機関の調査機関は素晴らしいと伝えてくるヤツ。


 弁当箱を開いて驚愕した。

 長方形のプラスチックの箱に詰まっていたのは肉じゃがだった。

 好きでも嫌いでもないそれを口に運んで、おいしいと伝えた。


 なんの雑誌かサイトをみてこうしたんだろう。

 雑誌だとしたら、そんな時代遅れの内容を書いて金儲けしてるならさっさと廃刊していい。


 喜んでフンフンしている髑髏から逃れるためにコンビニのトイレに入りスマホを開いた。


 ヤマちゃん:ちょっと考えたんだけど、やっぱりさっさと決めた方がいいと思う。

 ヤマちゃん:新興宗教団体がどう動くかわからないから、仕事がある今のうちに動いたほうがいいよ。


「仕事しろよ」

 閉じようとするとポンッと、


 ヤマちゃん:あんたならやれるよ! このエリート中のエリートのヤマデラがいうんだから間違いない! 一緒にやってこっ。


 ……バカにしやがって。


 タ:働いてるバカいいかげんウザいかってにやってろクソカス


 感情にまかせて書きこんで送信。もう二度とコイツのLINEは見ない。


 ドアを開け出た途端、柔らかいものに顔がぶつかる。

 やばいッ、男女共用だからもしかして――天井から伸びている作業服があった。


「なんなんですかノーティーさん」

「申し訳ありません。あまりにも帰りが遅いので、様子を見にきたのです」


 騒ぎにはなっていないようで安心した。コスプレかなにかだと思われてる。

 4、5分程度で”あまりにも”と表現されるのは、あまりにも息苦しい。


「今週は、ノルマいけるように、フアイトをだしていきましょう」

 トイレから出てきたボクの変わりように丈の短い作業服の隙間からのぞくヘソが驚いて凹んだ。


 いつもそうだ。

 頼んでもいないのにボクの将来を案じて、正論を押しつけてくる。

 その正論に振り回されてばっかりだった。


 自分がエリートの選ばれし人間だからって上から目線で言いやがって。

 パワードスーツに袖をとおした115号が土下座で突っ伏して、許しを請うのが目に見える。

 それを配信して全世界に敗北を知らしめて、二度と社会的に立ち上がれなくしてやる。

 グフフ……。


「司令がわ、笑っておられる。勝った……これは、勝った!」

 謎の高揚をしているノーティーがガッツポーズを振り上げた。ドア上の壁に力こぶを激しく打ちつけ、直立のまま痛がった。

・次回予告


 そこ、ベランダがないらしいんですよ。


「このノーティー、立派に働いておりますので、司令はどうか戸水を栄光に導くために尽力願います」


「山寺は危険です」

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