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1-3 NATTA

・前回までのあらすじ

 戸水メイヘムめっちゃダメ。

 幼馴染のヤマデラ(防衛軍)に遭遇、ヤバい。


 気がつけば自宅の布団で全裸になっていた。

 YouTubeでみた通りじゃん。あんなアベンジャーな戦いになったらボクは確実にペースト状になって排水溝から海に帰ってしまうだろう。


 こっちはまだまだ生きてゲームしたりアイマスしたり腹いっぱいパン食べたりしたいんだ。

 そのために転職活動してたっつうのに、常に危険と隣り合わせの仕事についてどうする。


「やっぱ人間、金じゃないな……」

 このまま夜逃げしよう。車だって置いてけばバレないさ。

 でも一応、やめるっていいに行こう。


 平田一族が根絶やしにされたら、死んだばあちゃんに面目が立たない。

 まあ、ここでデスらなくても、ボクで一族の血は終わるのが確定してるし。

 ルーラどころかファイアも使えないが、そのうち使えるようになるはずだ。


 寝てる5時間中にしっかり乾いた戦闘員用全身タイツをスーパーの袋に入れ、遺書をキーボードに置いた。最悪ボクの身に何か起こるだけですめば……。


 雑居ビルがみえる自動販売機の影に引きずりこまれた。

「バレちゃったよ」

 その割にのほほんとしている。

 裏に回してあった逃走用の乗用車に乗りこむ。アジトの2階の窓に人影があった。


「いやあ参ったね。オレが泊まりこんでなかったらみんな防衛軍の餌食になっていたところだよ。オレの敏感な大腸のおかげでみぃ~~んな助かってよかったね~~」

 腹を下してトイレに籠っていたら踏みこんできたのか。なんて運のいいやつだ。


 ああ、戸水の都市部から離れていく。ボクのアパートが遠ざかっていく。

 次のアジトはどこにあるんだ。もう二度と、ボクんちに帰れないと覚悟を決めたほうがいい。

 後1ヶ月でツアーだったのに……スマホに115号からラインと着信があったが無視した。知らない番号からも――いや、この番号は知ってる。ショートメールにも来ていた。


【平田くん お疲れ様です。

 至急電話ください。

 仕事について聴きたいことがあります。

 松居】


 ボクとしたことがスパブロしてなかった。コイツ、退職サービスを通じて「どうしてそんなに無愛想なんだ? 社会でやっていけないぞ」とわざわざ御高説してくれた、理想の上司だ。


 赤い絵の具が水に落ちて枝を伸ばしたイメージがよぎる。

 こんな状況で、会社に雇われているだけの何の力も能力もない、ボクより年をとってるだけの人間をまた思い出して。


 クソ。

 クソクソクソ。

 拳をどれだけ握っても握っても握り足りない。

 できることなら復讐してやりたい。


 ジャスコの立体駐車場で車が止まった。

「みんなも来るってさ。はあー、まさかウーバーイーツでバレちゃうなんてねえ。そんなもんまでウーバーしなくていいのに」

「ウーバー……?」

「そう。横浜系ラーメン頼んだんだけどさー。なーんか、オカシイなーって思ってたんだよ、オレのことまじまじみちゃって。どこにでもいるおっさんの顔なんて誰も見ないでしょ? まさか隊員だったなんて思いもよらなかったよ~~」

「不用心すぎませんか」


 後藤はタバコに火をつけた。「でもどうしても食べたくなっちゃってぇ。タバコ吸ってると、濃いもん食べたくなっちゃうわけよ。おじさんみたいな年になると、楽しみが食べることしかないわけ。その心の隙間をつかれちゃったんだねえ」


 短く、ハハハ。

「でも安心してね。オレたちは戸水地区担当だから、遠くへはいかないからね。平田くんの情報も墓がウマいことやって隠蔽工作してるから問題ないから。しかしはーあ、今年もボーナスなしかなあ」

「今年も……?」

「聴いちゃってくださいよ~。もう4回目かなあ。大学生バイトが飲み会でバラしちゃったのが1回でしょ。バイトが買収されてリークしちゃったのが1回でしょ。派遣の人が拘束されちゃって吐いたのが1回でしょ? あれ捕まったのカートくんだっけ……両方か! じゃ5回目か」


 なんで。


『平田くんさあ。君がこの日までっていったんだよ? なんで終わらなかったの?』


 なんでコイツラは。


「戸水地区って県庁所在地じゃない? 場所によっては結構人いるのに、”上”ときたらなかなか予算おろさないし、人もよこさないし、やっぱり現場でてない怪人じゃ全然だめだよなあ。そんなんだから、ウチは主だった、人間社会にバチコンとインパウクトを与えるような成果あげられないのよぉ」


 考えようとしないんだ。


『何で確認しないんだよ!』


 いい加減にしろよ。


「参っちゃうよねえ~。やることやってんのになあ。防衛軍みたいにたくさーん予算があればオレたちだって上手くやるのにねえ。まあでも、それなりに工夫してるから、ビリッケツだけはまぬがれてて……9割ノーティーちゃんのおかげだけど……」


 何十年もかけて脳みそに巣食った感情の塊が、意図せずに弾けた。


「いい加減にしろえええええーーーーーーーーッ!!」

 車体が左右に揺れた。

「平田くん? ご、ごめんね、ちょっとしゃべりすぎちゃったかな。黙るから、ね」


 後藤の頭に生命エネルギーだかをやるやつを突き立てて引き金を引いた。

「お望み通りの33人目だカスボケカスああーーーーッ!」

「イタタタいま運転してるから抜こうか、平田くん! やばいから、脱力しちゃうから」


 ボクは、たった今ここにたまたまいる何の恨みもない上司に全部ぶつけることに決めた。


「ろくに計画もたてやしねーで、宮部みゆきにでもなったつもりかぁぁあッ! お前ら森博嗣でも井上敏樹みたいに、やってりゃ傑作できちゃったみたいなナチュラル天才じゃねーんだッ! ベストセラー小説の書き方でもみてよく勉強しろおおおおーーーーーーッ!!」

「平田くん全然わからないから、もっとわかりやすく例えて平田くん、ああ~~~~抜けてくっ、抜けてくよ~~、久々だなあこ、れ」


 後藤はハンドルに勢いよくぐったりした。

 ぐったりした……?


「う、ウソだろ、ボクついに……でも頭オカシイやつだしいいのか、むしろホメてもらえるんじゃ。いやでもダメだろぉ倫理観的に」


 ガラスが割れてラバーな腕がボクをひっつかんだ。

 引きずり出され、腹ばいに冷たいコンクリートへ叩きつけられた。

 横目でなんとか見上げれば、表情が見えないシャープな髑髏。

 殺気で輪郭が赤くにじんでいる。


「隊長に何をしている」

「い、いいから、いいから。彼もまた現代社会の被害者なのよ」


 間髪入れずに首根っこを掴まれ、息が吸えなくなった。

 早朝のビルの上を伝っていく。連続するフリフォールの感覚と息苦しさで、なにがなにやらと混乱している間に、空き地に着地した。


 どこかの森の中だろうか。冷蔵庫や車がそこら中に敷き詰められ、「不法投棄禁止」の看板が物悲しく斜めに立っている。

 ひっそりと立っているホコリだらけのプレハブ小屋でノーティーが後藤を横たえる。

 外壁から予想した汚さとはかけ離れた小綺麗な室内だった。


 両腹を強く掴まれた。スゴく痛い。

「後藤司令は戸水を導いてくれるありがたいお方だ。いずれは今の総統に変わって全隊員を束ねる有能な未来を担う人材だ。その御方に銃を突き立てるなど許しがたい蛮行」

「魔が差しただけですごめんなさいそうだ後藤さんだってそんな感じのこといってたしデスる前にいってたじゃないか」

「冷蔵庫生き埋め処す」


 ムカデや変な生物が為す術もないボクを這い回り、重機の駆動音に怯える自分を想像して震え上がった。


「勝手にころさないでよ、一応、娘いるのよ」

 ムクリと上体を起こした後藤をノーティーが支える。

 ウソだ。撃たれたのに。


「時期にオレは倒れる。だから今、選択肢を平田くんにあげよう」

 重々しく右手が差し出される。

 触れってこと? 殺気を止めようとしない怪人に警戒しながら少し近づく。そうするしかない。


「1つは、このまま大人しくノーティーちゃんに冷蔵庫の刑を受ける。オレが辞めてといっても、ノーティーちゃんの忠誠心が君をやっちゃうだろうね。彼女は真面目だからさ、オレみたいなのでも上官ってだけでスゴく慕ってくれんだあ。もっと別の生き方も……あらら、もう時間がないんだったね」


 後藤のマブタと右手が下がっていく。


「もう1つは、この右手を握ることだ」

「そうすると……どうなるんですか」


 聞きたくないが聞くしかない。

「戸水地区の司令になる」

「それって、ボクが、」



「平田くんが戸水を恐怖に陥れるんだ」



 どうしてそうなる。

 大目に見たとしても、こういうの任せるのは何年も勤めてノウハウを覚えたヤツだろう。

 それが入社して3日もたってないボクが?


 無理です。いいかけて、ノーティーの空虚な両眼と目があった。

「もう時間はないぞ。どうする、平田くん」


 何度も思った。

 こんな思いをするくらいなら、この世の未練をたてば、楽になれるって。

 それが今なのかもしれない。

 この世は次の輪廻のために試されている浮世にすぎないっていうし。

 ボクは信じてないけど。


「なるか、ならないか」



 ――ボクは。



「さあッ! 選ぶんだ、平田くん……ッ!!」


 ボクには、まだまだ、楽しみたいことも感じたいこともあるんだ。

 例え、世界中を敵に回す、悪の組織の司令になったとしても……!


「それだけじゃない」


 後藤の手を握っている右手の甲が焼けるように熱い。

 実際煙がたって、何かが滲み出してきていた。

 すぐに手放したい。

 生きるための選択肢じゃなかったら、すぐに手放していた。

 怒りだ。

 これは生き残るだけの選択じゃない。


「ちょうどいいじゃないか。ボクをこんなにしたヤツラを、蹂躙してやる」

 痛すぎて思考がダダ漏れになってしまう。

 トゲトゲで痛いアザミの冠をかぶるチカラを怒りがくれている!


「戸水だけじゃない。日本を征服してやる! ボクの考えた最強の悪の組織で!!」


 勝手に細かく震える手の甲。

 ボクは白んだ思考で、浮かび上がったメンヘムの紋章を睨みつけていた。

・次回予告


 ずっとこれならば、ボクはずっとこの仕事やっていてもいい、


『わらしが聴いてしんぜよう、新しれーい』

 

 戸水支部は、怒りを集めましょう

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