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あれからボクも色々あった。
メイヘム大型自動人形国会議事堂襲撃未遂事件。
その様子はメディアにのって世界に知れ渡った。
ボクらが打ち上げたハートは結晶化し、今も青赤のきらびやかなボディで田永町に鎮座している。生命エネルギーの存在が大々的に全世界へ知れ渡る機会にもなった。
いまも微量の生命エネルギーを漂わせているようで、街はゴーストタウン化していた。
咲き乱れているアジサイと青い街ごと観光名所になっている。
大量に産声をあげた怪人たちは、防衛軍に駆除されたり、どこかに逃げ去ったりして…………よろしくやっていることだろう。
防衛軍が生エネによる人体実験と採取を行っていた事実は都市伝説として定着した。
一際人気なのが、メイヘムが国の機関だったというウワサだ。
二人組の不良YouTuberが広めて、彼らが数日もしないうちに姿をくらました不気味さも人気の秘訣になっているらしい。
事件から数ヶ月後にはピンク色のセッケンを片手に一般市民へイタズラする成人たちは消えた。
司令をなくし、徐々に空中分解していったと言われている。
彼らは新たな司令を立てることはなかった。
戸水メイヘムは消えた。
一年後。
「こないだ高校出たんだって写真がきたんだよ、ほら。見て見て。ん~~いや~~オレもガンバってお仕事しているかいがあるよ~~こんなにおっきくなってまあ~~明日電話するんだあ~~楽しみだなあ~~~~」
壁も床も白塗りのワンルーム。
ここに窓はない。
ベッド、洗面所、トイレ付き。トイレとバスルームは別になっていて、バスルームは最近なぜかジャグジーになった。
透明なプレートが部屋を横断していて、面会室についてるしゃべるための穴が付いている。
外へのドアがそのプレートごしにあって、動物園の動物よろしく毎日誰かがボクをみる。
消耗品を運んでくる誰かとか、研究員っぽい誰かとか、背広の偉そうな誰かとか。
誰かたちの中で名前を知っているのは今そこでノロケてる後藤だけだ。
一年間、防衛軍に隔離されてからずっとこうだ。
ちなみにこの顔面がさらにトロットロになっている後藤は某国のスパイらしい。
ボクがヤマデラをブッ倒して怪人化したときにコイツが駆けこんできたのは、同時に捕獲する瞬間を狙っていたから。
ヤマデラを泳がせておいて、”大きな事”をした瞬間に捕獲。
いままでの経緯を含めて、防衛軍とメイヘムと生命エネルギーの存在を世に知らしめるきっかけにする。それが後藤が上から受けた指令だった。
最初から後藤の手のひらの上だったのかと思うとムカつくが、いまはどうでもいい。
他にも色々と情報を詰めこまれた。
例えば、怪人化するのは、人体の許容範囲を超えて生エネを摂取すると起こるとか。
例えば、怪人化すると理性を失うから、一度”器”を作ってから、正常な人間と「人格強制プログラム」で意識ごと交換していたとか。
例えば、紋章はただのGPSだったとか。
最初のボクだったら腰抜かしてただろうけど、ほんとにどうでもいい。
どうせ永久にボクはここから出られない罪人なんだし。
ボクの楽しみは、なぜか設置されたPCでネットサーフィンすることと、外へのドアから郵便局員がきて、ノーティーの手紙を置いていくことだ。
ノーティーは、まだ存在していた戸水メイヘムのみんなの力で逃走、絶賛指名手配中。
なんと香月と墓と一緒に行動しているらしい。
ボクを助けるために尽力したり、事件で発生した野良怪人から市民を守ったりしているらしい。まるで連載小説を読んでいるようで、Netflixで見てる名作アニメの実写化作品より楽しみだ。
会いたい……。
でも旅する方がメインになってるような気がしてるのが文面から伝わってくる。それが永久にここにいることになりそうな理由でもある。
まだキスもしてないのに、遠距離恋愛なんてあんまりだ。
監視カメラがあるからモンモンとすることもできない。
まあでも、ノーティーが活動以外に自分の意味を見出せているんだ。悪くない。
それと話では……ヤマデラはいま、後藤が所属する”機関”に拘束されているらしい。
上書きされても残っていた意識。防衛軍のことを隅から隅まで知っている知識。
やつはオーパーツを保有している重要な情報源だ。
ヤマデラが指揮した国会議事堂襲撃未遂事件の後、防衛軍はいまも変わらず活動を続けている。
ヤマデラが期待していた”ボクのような人間”が出てくる気配もない。
物理的に世間は変わっただろう。
だが何も変わらなかった。
あれだけのことをやっても、結局”ボクら”は、日々に横たわる大きなうねりに負けたわけだ。
まあ、ボクはだいぶ変わったけど。
”永久にここにいなくちゃ”ってネガティブに聴こえるが、実際あまりそうでもない。
自分でも驚いた。
クーラーの効いた部屋で日がな一日ネットサーフィンして、ヘッドホンでネトゲして、冷蔵庫から取り出したダイエットコーラを飲んでいると、隠居しているみたいな気持ちになってくる。
開放されている気持ちになってくる。
メイヘムを離れて気がついた。
いつの間にかボクは大きくなった組織に責任を感じていて、重責になっていたことに。
びっくりだ。やりたいことやってたようなもんなのに、だ。
メイヘムで一位を目指して、みんなと切磋琢磨した青春のような刺激的な日々がウソみたいに、穏やかなで植物のような気持ちだ。
やっと安寧を手に入れた気さえしている。
日常を行くまだ走れる壊れかけの車から飛び降りて、荒野を彷徨った結末が、合法ヒキニート。
悪くない。
恵まれている。
ボクはもう、ここから出なくていい。
ボクは、何かになろうとしなくていい。
ボクは、ヒラタトシユキだ。
「ご安心ください」
外へのドアは開いている。
後藤は背中を向けていた。
開け放たれたドアの向こうから、ロックでキャッチーなのに陽気な鼻歌がかすかにするよな。
いつからだ。
監視カメラのあるボクんちで、堂々と、ダブルスパイの彼はいう。
「楽園計画は滞りなく進んでおります。総統閣下」
ギャグ漫画みたいに目一杯声を張り上げれば、世界は丸い深淵に飲みこまれて終末を迎えてくれるだろうか。
期待をこめて、ボクは心の底から叫んでみた。
・以下、あとがき
(いるのかわかりませんが)最後までお読みいただきありがとうございました。
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貰えなくても書きますが、貰えればもっと書きます。
また1年後くらいに次のヤツが完成すると思うので、よければ読んでください。
今回は私情が入りすぎたので、次はもっとエンターテインメントしたいです。
3人組のJKが主役の、妖怪サスペンスギャグホラーにする予定です。
ありがとうございました。
この小説を二十代後半の色々と藻掻いていた自分と偉大な作品ファイト・クラブに捧げます。